第12話:技術都市にもいた、あのメスガキ(第3節)
「ゆうゆう……」
「悠真さん……」
セレスティアとリーファそしてボニーが、衝突現場に追いついた。
そこで三人が目にしたのは――悠真が、エルフの女性の胸を両手で掴んでいる、という決定的な場面だった。
セレスティアとリーファは、一瞬だけ顔を見合わせた後、ギギギッ…とゆっくり悠真に視線を戻した。 その瞳は、先ほどまでの心配の色はどこへやら、氷のように冷たく澄んでいる。
エルフの女性は、無礼に触れられた胸元を抑えながら、ジト目で悠真を睨みつける。
「死ねば?」
彼女は、落とした杖と薬草を黙々と拾いながら、そう言い放つ。
「私は研究で忙しいの。あなたのような低俗な凡人に構っている暇はないわ」
彼女はそう吐き捨てると、悠真たちに背を向け、悠然と立ち去ろうとした。
だが、数歩歩いたところで、彼女はピタリと足を止める。
「待ちなさい」
エルフの女性は振り返り、ジト目のまま、再び悠真を睨みつけた。
「あの…なんでしょうか…?」
そう言ってたじろぐ悠真の顔の前に、エルフの女性は樫の杖の先を突きつけた。
「まりょく…。なにか…妙な…魔力を感じる」
その瞳には、先ほどの侮蔑に代わり、純粋な好奇心と研究心の色が浮かんでいた。彼女の鋭い耳と瞳が、悠真の首元に掛けられた石から放たれる、極めて異常な魔力を捉えたのだ。
セレスティアがボニーに視線を送り、ボニーが緊張した面持ちで答える。
「あの方……ミント色の髪、そしてあのローブ。昨晩、ココネさんが言っていた賢者の一人、リリアーナ・グリーンスリーフ様ではないでしょうか?」
「え、リリアーナさん?」
悠真は、それがこの街で探すべき二人の賢者のうちの一人だと知り、驚きに目を見張った。
リリアーナは悠真の首元を覗き込み、運命の石から視線を外すと、今度は悠真の全身を、頭の先から足のつま先まで、舐めまわすように興味深く観察した。彼女は悠真の能力を「研究対象」として見ていたからだ。
「フン……。面白い魔力反応ね。とても凡人とは思えないわ」
リリアーナは悠真を研究材料として品定めした後、鼻を鳴らした。
「だが、私は忙しい。あなたのような研究対象は、後でゆっくり解体して調べることにするわ」
彼女はそう言い残すと、悠真たちに背を向け、街外れの研究所の方角へと足早に去っていった。
「あ、ちょっと、お待ちなさい。くっ……なんという態度でしょう。いくら賢者様とはいえ、無礼すぎますわ!」
セレスティアは怒りを滲ませた。
「ゆうゆう、さっきのは一体どういうことですの?」
セレスティアは一歩踏み出し、冷たい視線を悠真に突きつけた。
「あなたは、その…公衆の面前で、女性の胸を掴む趣味でもおありなのかしら?」
悠真は冷や汗をかきながら、慌てて弁解する。
「ち、違うんだ、セレスティア、リーファ!小春を探していて、急に振り返ったら、後ろから来た彼女とぶつかっちゃって!バランスを取ろうとしたら、たまたま手が……!」
悠真を冷ややかな目で見つめるセレスティアに、リーファが声をかける。
「王女様、これってもしや……」
セレスティアはリーファと顔を見合わせると、ため息をついた。
「……よろしいですわ。さっきの破廉恥な行為は、賢者様の発見による、救世主の反応と信じます」
今度はリーファは悠真に近寄り、冷たい視線でにらみつける。
「ですが、悠真さん。その『小春』というのは誰ですか?先ほどからずっと、その名前を叫んでいましたけど……」
リーファの質問に、セレスティアの瞳が鋭く細められた。
「そうですわ、ゆうゆう。わたくしも気になっていましたわ。その『小春』なる人物は、いったい誰ですの? 新しい都市に来て早々、わたくしに隠れてたぶらかす者が現れたと?」
悠真は、真剣な表情で二人に向き直った。
「ち、違うって…そんなんじゃない。小春は俺の、元の世界の実の妹なんだ。さっき見かけた少女が、その妹に、驚くほど瓜二つで。だから、思わず追いかけてしまって…」
悠真の切羽詰まった言葉を聞いたセレスティアは、さらに睨みつける。
「……ほう。元の世界の『実の妹』?」
セレスティアは、唇を尖らせ、頬を膨らませながら、問い詰める。
「ここは、あなたにとっての異世界ですのよ、ゆうゆう? 実の妹も異世界からきたと…?それを胸を掴む失態を隠すための言い訳に使うなんて、 ゆうゆうは 『言い訳の天才』 かしら?」
リーファもセレスティアに同調するように、疑念の目を悠真に向けた。
「悠真さん、隠し事はいけませんわ。異世界の救世主は、悠真さんただ一人だけです。 この世界に、悠真さんの妹がいるなんて……信じられません」
悠真は、二人の容赦ない懐疑的な目線に、ぐっと言葉を詰まらせた。
「いや…ほんとだって…」
やがて、側にいたボニーが、状況を見かねて溜息をつくと、冷静に進言した。
「と…ともかく、ここは人目があります。ひとまず、ドナ様の工房へ向かいましょう」
一行は、気を取り直して鍛冶屋街のさらに奥へと進んだ。
金属を叩く轟音は次第に大きくなり、やがて視界が開けた先に、巨大な石造りの建物が見えた。それは、街の中心にそびえ立つ、まさしく鍛冶の神殿のような趣の工房だった。
「あれが、天才鍛冶師ドナ様の『マグマハート工房』のようですわね」
セレスティアが言った。
工房の入り口付近で、一人の少女がハンマーを肩に担ぎ、何やら大きな声で職人たちに指示を飛ばしていた。
その少女は、鮮やかなピンク色のツインテールで、小柄な体格をしていた。悠真は、その姿を見た瞬間、全身に電流が走るような衝撃を受けた。
「あいつ……!」
彼女の容姿は、まさしく先ほど遠目で目撃した、悠真の妹『高橋小春』と瓜二つだった。
彼女は、革のエプロン姿で、額に乗せたゴーグルを少し下げ、生意気そうな表情でこちらを見つめ返す。悠真は、その顔を真っ直ぐに見据え、問いかけた。
「おい、小春!おまえ、妹の小春だろ?!僕だよ、僕、兄の悠真だ。何でお前が、こんな異世界にいるんだ?!」
少女は、その声に一瞬驚き目を見開き振り向くと、すぐに不愉快そうに顔を歪めた。
「はあ?誰が妹のコハルだ、ざーこ!あたいの名前は『ドナ』だよ 」
悠真は、少女の言葉が耳に入らず、理性が吹き飛んだように前のめりになると、少女の肩を掴もうと手を伸ばした。
その瞬間……。
「うわっと…!」
足元に転がっていた工具に足を引っかけ、前のめりになる。そして、伸ばした手は少女の肩ではなく……。
(ペタン)
ハンマーを担いだ少女の胸元を、悠真の両手がしっかりと捉えていた。
ドスンッ!
ドナと名乗る少女は硬直し、手に持っていた金属製の大きなハンマーを取り落とすと、顔を真っ赤にしながら、プルプルと震えていた。
「ゆうゆう……」
「悠真さん……」
悠真は背中に冷たい汗と殺気を感じた。
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