第12話:技術都市にもいた、あのメスガキ(第2節)
賑やかな広場に差し掛かった、その時だった。
ピンク色のツインテールに、あの見慣れた生意気そうな表情。
悠真の心臓が、ドクリと大きく脈打った。
(う、嘘だろ……なんで、小春がここに!?)
この異世界に、元の世界の実の妹がいるはずがない。それでも、あの姿は間違いなく――。
くすんだピンク色のホットパンツに革のエプロン姿という、普段の服装とは違うが、悠真が元の世界に残してきた妹、高橋小春にそっくりな少女が、そこに立っていた。
(まさか……本当に小春なのか? でも、どうやって?)
もしかしたら、マンホールから落ちた後、桜井さんが家族に連絡し、僕を探しに後を追って来たのかもしれない。
(でも、そんなことが可能なのだろうか?)
頭の中では、この異世界に妹がいるはずがないと分かっている。だが、胸の奥で高鳴る希望は、抑えきれなかった。
セレスティアとリーファが悠真の腕を組んだまま、どうしたのかと顔を見合わせた。
「ゆうゆう、どうかなさいまして?」
セレスティアが心配そうに声をかける。
しかし、悠真はその声が耳に入らない。彼の瞳は、ただ一点、ピンク色のツインテールの少女に釘付けになっていた。
「小春!」
悠真は、セレスティアとリーファの腕を振りほどき、叫びながら人混みの中へ飛び出した。
「ちょっと、ゆうゆう!?」
「悠真様っ!?」
セレスティアとリーファが驚いて声を上げるが、悠真は振り返らない。
彼は、背の低い少女が機械の陰から鍛冶屋街の奥へと消えていくのを、この目で見逃すわけにはいかなかった。
「待て! 小春! 待ってくれ!」
金属と鉄の匂いが立ち込める鍛冶屋街は、朝の活気でごった返している。
「どけっ、どいてくれ!」
悠真は、体格の良いドワーフの職人や、荷を運ぶ獣人の横を、勢いよく駆け抜けた。
「おい、走るんじゃねえ!」
怒鳴り声が背後から飛んでくるが、構っていられない。
(ピンクのツインテールに、生意気そうな顔……それに、小柄でツルペタな立ち姿。間違いなく、俺の妹そっくりだ! ……なんで、こんな異世界に、いるんだ!?)
金属を叩く轟音が、四方八方から響いてくる。ガンガンガン、という規則的な音。シュゥゥゥゥ、と水蒸気が上がる音。
(どこだ、どこに行った!?)
悠真は広場を抜け、金属を叩く不規則な轟音が響く路地を走り続けたが、さっきまでいたはずの少女の姿は、どこにも見当たらなかった。
「ハァ、ハァ……どこだ、小春……」
息を切らし、立ち止まる。周りを見回しても、いるのは汗まみれの職人たちと、無骨な機械や道具ばかり。
悠真は、この異世界に妹がいるはずがないと理屈では分かっていたが、胸の奥で高鳴る、再会への希望を抑えきれない。
「小春!」
口元に両手を添えて、大声で叫ぶが、見当たらない。
悠真がもう一度、街中を探し回ろうと、踵を返して勢いよく方向転換した、その時だった。
「あっ……!」
背後から近づいてきた女性と激しく衝突した。
「うわっ!」
バランスを崩し、倒れまいと咄嗟に――
前に突き出した、その両手は――、
(ムギュッ)
驚くほど柔らかく、そして豊かな弾力を持つ「膨らみ」に、吸い込まれるように沈み込んだ。
カラン……バサッ!
女性はその衝撃で硬直し、手に持っていた樫の木の杖と、手提げ袋を取り落とした。
袋の中からは大量の薬草が散乱する。
悠真は、両手でその柔らかさをがっしりと掴んだまま硬直した。
(や、やばい……!)
驚愕の表情で相手の顔を見上げようとした、ちょうどその時……。
「ゆうゆう!?」
「悠真様?!」
セレスティアとリーファ、そしてボニーが、衝突現場に追いついた。
三人は、悠真が見知らぬ女性の胸を両手で掴んでいるという、弁解の余地もない決定的な場面を目撃してしまった。
セレスティアとリーファは一瞬顔を見合わせた後、すぐさま絶対零度の視線を悠真に向けた。
「ゆうゆう……」
「悠真さま……」
悠真は背中に、氷のような冷たい汗と、明確な殺気を感じた。
その間も、胸を掴まれた女性は、赤紫の瞳に深い侮蔑の色を浮かべ、悠真を上から見下ろしていた。彼女の細長くとんがった耳が、怒りで小刻みに震えている。
「何をするのよ、凡人」
悠真は、ようやく相手の姿をしっかりと見た。
すらりとした長身に、腰まで伸びるミント色のストレートロングヘア。細長く尖った耳。透き通るような白い肌。
(これが、アニメでよく見るエルフだろうか……?)
可愛いフリルのドロワーズ付きペチコートワンピースの上に、胸に金の留め具のある丈の短い紫のローブを羽織っている。その装いは、どこか少女のような可憐さと、学者としての威厳を併せ持っていた。
そして、悠真の両手は――
その胸元を、未だにがっしりと掴んでいた。
「あ、あの、すみません! 本当に! わざとじゃ……!」
悠真は弾かれたように手を離し、平身低頭で謝罪した。
柔らかな感触と温もりが、手のひらに生々しく残っている。
彼女は無礼に触れられた胸元を抑えながら、ジト目で悠真を汚物でも見るかのように睨みつけた。
そして、薄い唇から氷のような声で言い放つ。
「死ねば?」
鍛冶屋街の喧騒の中、悠真の周囲だけが、絶対零度の氷に閉ざされていた。
カラン……コロン……。
足元では、彼女の樫の木の杖が転がり、散らばった薬草が虚しく風に揺れていた。
設定・イメージイラストは、ピクシブに掲載中です。
https://www.pixiv.net/users/119429388
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