61マヤの決心
連休最終日。
俺は大学で練習して、平山家の敷地内にある別宅に帰ってきた。
結婚する時に平山家に用意してもらった新品のスタインウェイは最高に素晴らしい。ただ、丸一日家にいるよりは、気分転換を兼ねて少しは外に出たい。今日も大学で数時間練習してきた。リストのコンチェルトも、安定してきた。結構挑戦的なテンポ設定だが、あと2から4くらい、テンポを上げてもいけるかもしれない。藤原さんも問題ない。槇先輩も上手いが、藤原さんも見た目や実際の年齢よりも、音に深みと色があって、俺を楽しませてくれる。
帰宅したら夜になっていた。
マヤが話があるという。ピアノのあるリビングに楽譜と荷物を置いて、いつものようにシャワーを浴びてからマヤの部屋に行った。
「お待たせ、マヤ。何?」
「慎二さん、座って?あのね、私の誕生日にほしいものがあるの」
「誕生日は2月でしょ?今は5月だけど、何をどれだけ準備すればいいの?」
「私ね、かおりが大好きなの」
「知ってる。僕も槇先輩が好きだから」
「もう、私の生涯の計画の中に入ってるの。かおりと一緒に子育てしたい。かおりの赤ちゃんと同じ学年の赤ちゃんがほしい。今日とか最適なんだけど」
「何?」
「もう一度言わせるつもりなの?」
「すみませんでした。……ちょっと待って。頭を冷やしてくる」
俺はマヤの部屋を出て、別宅を出て、庭に出た。
何だって?本気か?
大切な決断をする時、女が男に合わせるのはよくあることだ。しかし俺は平山家の婿として入ったし、名前も変えた。俺がマヤに合わせることが多い。勿論、嫌なことは合わせないし、家政婦さんが家事をしてくれているし、そもそも嫌なことは……特にない。俺が欲しいものはマヤがくれた。マヤがほしいものは与えてやりたい。
俺は庭から本宅に行った。お父さんは不在で、お母さんが出てきた。ヴァイオリンの練習をしていたらしく、楽器を持ったまま出てきた。
「あら、慎二さん、どうしたの?」
「練習中にすみません。ちょっとお伺いしたいことがありまして」
「何かしら?どうぞ中に入って?」
「いえ、ここで……」
「マヤのこと、いつもありがとうね。あなたと出会ってから、本当にいい子になったわ。感謝してる。慎二さんの頼みなら、何でも言って?」
「ありがとうございます。お伺いしたいだけです。実は、マヤが誕生日プレゼントにほしいものがあるそうなんです。ご家庭の方針といいますか、どの程度まで許容範囲でしょうか」
「やだ、まだまだじゃないの!あの子ったら!誕生日プレゼントに教育方針も許容範囲も何もないわ。お金が必要なものなら、マヤに内緒であげるから、あなたがいいと思うものなら、あなたから買ってあげてちょうだい。喜ぶわ。但し、あなたが我が儘と感じたなら許さなくて結構よ。気を使ってくれてありがとうね」
「わかりました。ありがとうございます。失礼します」
俺は、マヤの部屋に戻った。
「待たせてごめん。僕の部屋に来る?それともここがいい?」
「慎二さんの部屋がいい」
「わかった。いいよ、おいで」
俺は先に立って自分の部屋に行った。
マヤが本気なら付き合うさ。
俺は電気を消して、服を脱いだ。マヤは、珍しく緊張しているみたいだ。まるで初めてするみたいに。俺と初めての時だって初めてじゃなかったのに。それはお互い様だ。
抱き寄せてベッドに乗せて、キスをしながら服を脱がせた。いやがりはしなかったが、少しだけ震えていた。寒いだけか?毛布を掛けた。
「ほら、力抜いて。僕も楽しみだ。お母さんからは許可をもらった。心配しなくていい」
「えっ?お母さん?何で?聞いてきたの?何て言ったの?何て言われたの?」
「心配するなって。マヤの我が儘をどこまで聞いてもいいですか?って聞いたら、僕の判断で構わないってさ。いいお母さんだね」
「ええっ?ちょっ、何それ!言わなくてもよくない?」
「出来てから揉め事なくいきたいからさ。ほら、もう止めないからこっちに集中して……」
俺はマヤの顔をこちらに向かせて、尖らせた口を塞いだ。かわいいヤツだ。
槇先輩のところが出来たのか。既に社会人とはいえ、よく決心したな。今だったら……こっちは2月生まれになるか?少し遅くなったとしても、同じ学年になるには間に合うだろう。
マヤが喜ぶことをしてあげられる。
俺にしか出来ないこと。
俺も楽しみだ。




