53プレゼント
発表会は、無事に成功した。
小さな頃から大人に混じって出演させてもらっていた僕たちも、だんだん一番先に演奏させてもらうには曲が長かったり、重かったりもするようになった。
今日は、前半の最後にリストの『献呈』をかおりが演奏し、後半の最後にショパンの『幻想曲』を僕が弾いた。
今は卒業した母親の門下生も多く聴きに来てくださり、発表会の前にレッスンに来て演奏してくれたり、丸一日サロンを借りてもリハーサルができないくらいにたくさんの演奏者で開催できた。
そして、たくさんの鳴りやまない拍手に心から感謝した。
発表会の会場の片付けが大方終わった後、一人で事務作業をしていた僕のところに、かおりがやってきた。
「ごめん、ちょっと待って。あとこれだけだから……できた。オーナーに提出してくる。もう帰れるから、控え室にいて?」
「はい」
「かおり、お待たせ」
最終確認を済ませて控え室に行くと、かおりは恥ずかしそうに、でもにこっとした。
「……慎一さん、これ……。23才のお誕生日、おめでとうございます」
「えっ?あぁ、誕生日か。そうか」
細長い白い封筒だった。
リボンが結んである。
封筒にリボンはおかしい。
リボンの形もおかしい。
「かおりが結んだの?」
「……そうです。……変ですか?」
「ふふっ、かおりらしい」
「えっ?」
「自分で結べたんだ?」
「はい」
「上手にできたね」
「……先生は、ピアノ以外には甘いんですね」
「気づいたなんて、かおりも大人になったね」
「えっ?……大人?大人なのは先生です。大学を卒業されて……」
「今日のかおりの『献呈』、大人の演奏だったよ?惚れ直した」
「えっ?……待って、やっぱりこれ、どうしよう?」
「だめ。もうもらった。僕の」
手を伸ばしたかおりの両手首を左手で軽く握り、僕は右手で頭上に封筒を翳した。見覚えのあるロゴマークが透けて見えた。これは……。僕がプロポーズしたレストランのあるホテル?
かおりの両手首を軽く握ったまま、かおりを壁に追いつめて、かおりを逃がさないようにぴったりと体を密着させた。そして、片手で封筒の中身を確認した。我ながら器用だ。
当たった。しかし、スウィートルームの宿泊チケットだった……。
「かおり、これ……意味わかってる?」
「先生こそ、私が今日弾いた曲の意味わかってる?」
『献呈』か……。
「かおり……僕の名前は?」
「慎一さん」
かおりの真っ直ぐな目に、自惚れではない、僕へのとても強い愛を感じた。
「……かおり……ママになる覚悟ができてるとか?」
「はい」
僕の父親も、若くして23才で父親になった、母親は28才だった。もしかして僕も23才で父親に?かおりは18才なんだけど……。
かおりのお母さんは僕の母親と同じ年だが、僕の父親の上司であるかおりのお父さんは、今55才のはずだ。喜んでくれるだろうか。
急に現実味を帯びてきた。収入も予想以上に増えている。大学の卒業試験を録音したCDもDVDも売れていて、今日も全員の参加者、お客様が既に購入されていたにも関わらず更に記念にとお買い求めくださった。指導者になった、かつての生徒さんも、ご自分の生徒に配るとご購入くださった。写真集も。あのカメラマンが自分の代表作にすると言ってくれた。
結婚式でもドレスショップの実演モデルとして出演料が支払われたし、特別な写真もたくさん撮影し、ホームページや雑誌の広告に掲載された。写真は僕たちのためにアルバムにしてプレゼントされた。
僕は長身男性向けのアパレルメーカーからのモデルの仕事もいくつか具体的な撮影の日程など、打診をいただいている。
大学を卒業を期に、レストランBGMの仕事も今までとは違い、アルバイトではなく専属ピアニストとなった。固定給だし、お客様からも直接チップをいただける。ピアノを教えるのも楽しいが、演奏の仕事、特に生演奏はやはり格別だ。
これから休む暇もあまりないが、かおりがいてくれるなら、いくらでもエネルギーが湧いてきそうだった。




