表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君が奏でる部屋  作者: 槇 慎一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/148

11デートのお誘い



 昨夜は思いがけず、ある意味理想的な形でかおりとの結婚が決まった。


 かおりはコンクールで一位が決定し、オーケストラと共演できるステージと、150分のリサイタルステージがある。3月の日曜日になるらしい。そこまでは気が抜けない。


 そして4月から、今通っている女子一貫校の系列の女子大に進学する。フランス語が中心の文化芸術学部だ。今までは幼稚部から高等部までが同じ敷地にあって自宅から近かったが、大学は別の場所にキャンパスがある。それが、僕たちの新居となるマンションからは徒歩20分と近かった。


 僕は大学の規定で、指定されたコンクールで一位を獲れた為講師に応募する資格があり、審査の結果無事に大学講師となることが決定した。つまり、かおりも同じく望めば将来は音大の講師になれるし、附属音楽教室の講師もできる。


 かおりが学生の間に、僕たちは連弾と2台ピアノのジャンルを広げたり、新たな実績をつくって大学で講座をしたり、室内楽のクラスを作ったりすることも考えている。


 二人で家事もしたい。結婚するって生活することだと思う。今までも、簡単な食事なら一緒に作って食べていたが、母親が家事の大部分を担っていた。これからはかおりと二人でピアノ以外のこと、買い物や掃除をするのも楽しみだ。


 その前に、デートとかもしてみたい。僕たちは付き合っていない状態から結婚する。ずっと、先生と生徒の関係だった。かおりは僕のことを先生と呼ぶ。気に入らない。名前を呼んでほしい。


 まだ登校前の時間の筈だ。かおりに電話してみた。

「おはよう。かおり、今度デートしよう。何処に行きたい?」

「えっ、先生とデート……」

「かおり、先生じゃなくて僕の名前は?」

「……あ、しん、いちさん……」

「何処に行きたいか考えておいて?」


「……はい……あ、……」

「なあに?」

「デート……って、何をするの?」

「僕もしたことないから、お友達に聞いてみて?」

「はい!」

「いいお返事だ。またね」


 かおりで遊ぶのは楽しい。かおりのお友達は、かおりよりも元気ではきはきしている子ばかりだ。かおりの通う女子校は、質素なお嬢様学校で厳しいと評判だけれど、かおりに聞くと全然そんなこともなく、男女交際が禁止されているわけではないらしい。特に心配されることはないし、小さい頃から婚約者がいたりする子が多いからだと言っていた。実際は、婚約者じゃなくても彼氏がいるお友達もたくさんいるらしい。かおりは、皆に僕との関係を楽しみにされることもなく、ただのピアノの先生だと思われているのだろう。






 夜、寝る前にかおりから電話がかかってきた。かおりも電話ができるんだ。そういえば初めてだろうか。


「……先生、こんばんは」

「こんばんは、かおり。僕の名前は?」


「あっ……しん、いち、さん……」

「はい。デートのご希望は決まりましたか?」


「はい……あの、海に行きたいです」

「いいね。海で何をしたいの?」


「……砂浜を歩いてみたいです」

「わかった。それまで風邪をひかないようにね」


「はい。おやすみなさい」

「待って!」


「あ、……はい」

「今から行ってもいい?」


「えっ……はい」

「待ってて」



 僕は手にしていた本を置き、直ぐに階段を上がってかおりの家に行った。


 ちょっと顔を見て、手を握りたかっただけだ。かおりは下を向いてもじもじしている。かわいい。かおりの頭に手を置いて、長い髪に触れてみた。かおりは、ちょっとびくっとした。少し距離を詰めてみたが、いやがらなかった。


「部屋に行ってもいい?」


 かおりの部屋のベッドに二人で並んで座った。ずっと下を向いて黙ったままだ。ピアノを弾いていないとこれだ。


 僕の左手で、かおりの右手を握る。

 僕の右手で、かおりの左頬をほんの少し、ちょいちょいっとさわるだけで、簡単にこっちを向いた。


 かわいい。


「かおりのお友達はどんなデートをしてるって?」


「聞いてみました。いろいろ教えてくれて、たくさんありすぎて答えられない」

「そうか」


「先生とデートしたことないのを皆に言ったらびっくりされました」

「そうかもね」


「キスも、まだ2回ってびっくりされま」

「3回だけど」


「え……えっ?」

「1年前の『献呈』の時と、昨日僕が『ハッピーバースデー』を歌った時と、昨日リビングで、の3回」





 かおりは、少しの間考えていた。頭の中からハテナが出てきて、浮かんで消えるのが見えるようだった。


 僕はかおりの反応を楽しんだ。



「……それは……その2回目は、夢でした」

「僕がしたんだから、本当です」


「……夢だと思っていました……」


 かおりは向こうを向いてしまった。そう、夢だと思っていたんだね。あの時、かおりは「先生、大好き」って言っていた。夢で、僕に伝えてくれたんだね。ちゃんと僕に伝わったよ。嬉しかった。かおりは向こうを向いたまま、何かを話しだした。


「……先生は、……3回なんですか?」

「そう言ったよ?」

 聞き取りづらいな。


「……私じゃない人とは……」

「あぁ……」


 お友達にいろいろ聞かれたんだな。ネタにされただろう。僕は高校生じゃないしな。でも、僕はもう大学を卒業するのにキスはかおりに3回しただけだ。2回目も昨日で、寝ていたかおりに内緒のつもりで僕が勝手にしたことだ。大学では「真面目な顔して裏で遊んでいそう」と陰口を言われているのを知っているが、本当のところはこれだけだ。


「気になる?」


 かおりの顔を両手で僕に向けて、真面目に問うてみた。

 かおりは首でいやいやをして、すぐに答えた。


「きき、たく、ない」


 かおりは泣きそうだった……と思った次の瞬間に、両方の目から大粒の涙がこぼれた。しまった。こんなことで泣いちゃうんだな。やりすぎたか……。


「悪かった。かおりとしかキスしたことはない。他の人としたいと思ったこともない。悪かった。かおり、ごめん」


 罪悪感でいっぱいになり、かおりを僕の胸に抱いた。女の子のやわらかい背中、肩、腕、胸……。僕の胸に、かおりの胸を感じる。今までこんな抱きかた、したことはなかった。


「じゃあ、今から4回目……」


 抱いたままかおりの顎をすくったら、びっくりした。


 かおりが、今までに見たことのないような女の子の表情をしていた。


 やばい。かおりはパジャマだし、深夜だし、僕の理性がやばい。

 かおりの頭をぽんぽんとして、僕は立ち上がった。


「ごめん、おやすみ。あとは海でね」










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ