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53話 奥底からのいざない

「ふぁぁあああ……おはよう」


「……おはよう」


「おはようございます。ダンジョン内で熟睡出来るなんて夢にも思いませんでしたよ……」


 三人それぞれが水魔術を使って顔を洗い、寝床の片付けを始める。

 その後、リディとレイチェルは朝食の準備を、俺は部屋の後片付けを開始した。


 まず俺は、周囲に敷き詰めていた『設置魔術(マイントラッパー)』の解除を始める。

 これは、寝る前に見張りをどうするか皆で話し合った時に閃いたダンジョン内での睡眠法だ。


 この部屋は地魔術で仕切っているとは言えダンジョンの内部だ。もしかしたら、寝ている間に魔物が発生する可能性だって無い訳じゃない。

 そこで俺は、寝床の周囲を腰くらいの高さの地魔術の石壁でぐるりと囲み、その外側の至る所に『設置魔術(マイントラッパー)』を仕掛けておいたのだ。念の為、誰かが踏んでしまっても大丈夫なように威力は弱く、大きな音が鳴るように調整している。

 これなら、万が一部屋内に魔物が発生しても音で即気付くことが出来るからな。


 流石に寝床に直接仕掛ける訳にはいかないので、魔物の発生を抑えられないかと部屋全体を念入りに光魔術で浄化しておいた。

 実際に効果があったのかは分からないけど、なんとなく空気が清らかになる感じがしたので意味はあったんだと思う。


 この方法、町の外で野営する時にも使えるんじゃないかな?

 少し周囲に気を配る必要はあるだろうけど、安全性は飛躍的に増すだろうし。


 周囲の後片付けを終え、俺たち三人は朝食を食べ始めた。

 今回は町で買っておいた出来合いの品だ。

 リディの『亜空間収納』のお陰でダンジョン内でも美味しく食べられる。


「師匠、今日はもう少し下まで降りるんでしたよね?」


「ああ。下の階層の方がゴーレムの数が多くて質のいいゴーレム鋼が手に入りやすいんだろう? 徐々に慣らしながら降りて行こう」


「ここを拠点にするの?」


「いや、移動した先でまたいい場所を探そう。その方が効率的だ」


 そして、朝食を食べ終え準備を整えた俺たちは、更に奥を目指してダンジョン探索を再開する。

 道中、ポヨンが発見した壁の中の素材も発掘しながら進む。これだけでも結構な数の素材が手に入るんだよなあ。まあ、半分くらいはポヨンのおやつになってるんだけど。



 ◇◇◇



「いくよ、リディちゃん!」


「うん、合わせる!」


 レイチェルが放った水弾をリディの放った風槍が巻き込み、二つの属性が合わさった魔術弾がゴーレムに向かって放たれる。

 ゴーレムに直撃した魔術弾はゴーレムの体に深く突き刺さる。すると、刺さった魔術弾が膨張をし始め、ゴーレムの体を抉り取りながら爆発した。


 その間俺は、剣に水の『エンチャント』を発動した上から更に地魔術を発動し、細かい石粒を水の中に加える。

 そして『エンチャント』の魔力を操作し、剣の上にさながら激流のような水の流れを作り出す。すると、水の『エンチャント』は激しい濁流となった。


 さっきのとは別のゴーレムの拳を横に躱し、その剣で腕を斬り付ける。


 ヂュィィイイイイイィイイイインッ!


 激しい音と共にゴーレムの腕はスパッと綺麗に斬り落とされる。

 俺はもう片方の腕と足も斬り落とし、ゴーレムの体に直接地魔術を発動して穴をあけ、そこから魔石を抜き取った。


「よし、でかいゴーレム鋼ゲットだ!」


「こっちも片付いたよ」


「ふう、結構倒しましたね」


 リディとレイチェルの方も同時に片付いたようだ。

 手に入れたゴーレム鋼をリディの『亜空間収納』へと仕舞い、俺たちは地下十三階に新たに作った拠点へと戻った。


 ダンジョンに潜って大体四日くらいだろうか? 外の様子が分からないから断言は出来ないんだけど、俺たちは大体それくらいの間、この近辺で主にゴーレムとオークを倒し続けていた。

 ゴーレムが多く出る影響か、この辺りでは他の冒険者を全然見掛けない。


 オークはともかく、俺たちはゴーレムを効率的に倒すために色んな対処法を考えた。


 まず、リディとレイチェルが同時に放っていた魔術弾がその一つだ。

 二人の魔術攻撃を見ていて一つ気付いたことがあった。何故か時折ゴーレムが大きく崩れる時があったのだ。

 最初はゴーレムの脆い部分に魔術弾が当たったのかと思ったけど、どうやらそうではないようで、二人の魔術弾が上手く同時に当たった場所で発生していることを突き止めた。


 その後二人にそのことを説明し、完全に同時攻撃になるように調整したのがさっきの二人の攻撃だ。

 実際に試してみると、突き刺さった魔術弾は、ゴーレムの魔力と反応してか小規模な爆発を引き起こした。内部からの爆発はゴーレムも耐えられないようで、最初の頃より少ない魔力量で効率的に倒せるようになったのだ。

 呼び名が無いと不便なので、これを『融合魔術(フュージョン)』と呼ぶことにした。


 俺の方も今は剣を使って戦っている。

 最初は槌を使ってゴーレムの体を砕いていたんだけど、それだとどうしても手に入るゴーレム鋼は細かいものが多くなってしまうからだ。

 手足だけを細かく砕こうとしたけど、どうしても衝撃が胴体にまで響いて罅が入ったり砕けたりしてしまうのだ。


 地魔術での加工も色々試してみたんだけど、一度バラバラになったゴーレム鋼を接合するのは上手く出来なかった。罅が入ったものもそこから更に崩れたりしてしまう。

 ダグラスさんたちなら鍛冶で加工するだろうからそれでも問題無いんだろうけど、俺の場合はそうはいかない。


 俺は大きいゴーレム鋼を使って、更に浴槽を作ろうと思っているのだ。

 ダンジョン内でゴーレム鋼で作った風呂に入ってみたんだけど、これが思いの外出来が良かった。

 ゴーレム鋼の特性だろうか、浴槽に張った湯がなかなか冷めないのだ。

 更に、どうも多少の疲労回復効果もあるらしく、風呂に入った後はぐっすり眠れて翌日に疲れを残さない。


 今は一つの浴槽を三人で使っているけど、ここにもう一つか二つ浴槽を追加したいと思っている。この前の護衛依頼の時みたいな人数が多い状況だと、一つじゃ全員が入るのに時間が掛かるからな。

 それと、父さんや母さんにも入ってもらいたいから実家用、レイチェルの家族に送り届ける用、約束したからオリアーナさんとサニーちゃん用の浴槽も制作したい。


 そこで俺はどうにか剣でゴーレムを斬れないだろうかと試行錯誤を繰り返した。そうすれば大きなゴーレム鋼も簡単に手に入るし。

 『限界突破(オーバードライブ)』は最初に試して駄目だったから、今度は属性『エンチャント』を試すことにした。

 この時に一番効果的だったのが水属性での斬撃だった。


 最初は風属性を使って斬ろうとした。

 これはある程度斬れることは斬れるんだけど、何度も斬り付けなきゃいけないし、その度にゴーレムの破片が飛んできて痛いし危ない。


 その破片をどうにか出来ないかと考えて、次は水属性を試してみた。水属性なら破片を水に吸収出来るからな。

 すると、これも最初は斬れることは斬れる、と言った感じだった。

 だけど、何度もゴーレムを斬っているうちにどんどん切れ味が鋭くなっていくのを感じた。斬り付けた時に何かがゴーレムを削り斬る感覚があったのだ。


 俺は急いで剣を確かめてみた。

 すると、水の『エンチャント』の中に削られた細かなゴーレム鋼が含まれているのが分かった。

 どうやらこれが水と共に勢いよく動くことにより、ゴーレムの体を削り斬っていたようなのだ。


 そうして俺は水属性『エンチャント』と地魔術を併用して、剣でゴーレムを好きな大きさで斬り倒せるようになったのだ。


「リディ、ゴーレム鋼は今どれくらいの量になった?」


「んーと、この前のビッグディアと同じくらいかな。あとオークはもっと多いよ」


「一旦ダグラスさんに届けてもいいんじゃないですか?」


「そうだなあ。浴槽用の大きいゴーレム鋼も幾つか手に入ったし、一度戻って渡しておこうか。ミスリルもどうなったか気になるし」


 ゴーレム鋼も十分に集まったので、俺たちは一旦地上に戻ることにした。

 拠点にしていた部屋の片付けを終え、ここで昼食を食べてから地上に向かうつもりだ。

 今の俺たちならここから急げば夜にはダンジョンの外に出られるかな? それか、途中で一泊して明日の朝戻るのもいいのかもしれない。


 そして昼食を食べ終え、準備を整えて出発しようとしたその時、


「え? 誰?」


「どうしたリディ?」


「ねえおにい、レイチェル姉、何処かから声が聞こえない?」


 もしかして他の冒険者パーティーが近くにいるのだろうか?

 俺は聴力を強化し、周囲の音を探る。


「……何も聞こえないな。レイチェルは?」


「いえ、わたしも。人の気配も全く感じません」


「え? だって今も……ポヨンも聞こえるの?」


 ポヨンはリディの問いかけに丸の形を作り答える。

 どうやらリディとポヨンにだけ何かが聞こえているようだ。

 あれ? この状況って確か、


「もしかして、ポヨンの時と同じか?」


「あ、そうかも。あっちの方から声が聞こえるの。上手く聞き取れないから何を言っているのかは分からないけど……なんだか寂しそうな声が」


「あっちは……どうやら更に地下に進む道みたいですね」


 リディは指さした方向を頻りに気にしている。

 どうやらそっちに向かいたいようだ。


「ねえ、おにい、レイチェル姉」


 だけど……


「リディ、一旦地上に戻ろう。補給もしなきゃいけないし、依頼品も届けなきゃいけない。何より行くならちゃんと準備を整えてからだ」


「リディちゃん、その後皆で確かめに行こうよ。二人のお陰でダンジョンの中でも快適だったから、わたしはまたダンジョンに入るのは全然大丈夫だよ」


「…………うん、分かった。おにい、レイチェル姉、我が儘言ってごめんね」


「気にするな。俺はお兄ちゃんだからな。偶の妹の我が儘くらい聞いてやるさ。それに、一度地下二十階までは行ってみる予定だったんだしな」


「わたしも気にしてないよ。ほら、また戻ってくる為にも早く出発しましょう」


 俺たちは道中何度か遭遇した魔物を素早く倒しながら、少し足早に地上への道を進んだ。

 その結果、その日の夜のうちに地上へ戻ることに成功する。

 今日は一旦宿へ戻り、明日納品と補給を行うことにした。



 ◇◇◇



「がっはっはっはっは! 何じゃこのゴーレム鋼の量は!? かぁーーーっ、これもいい、これも捨てがたいのう」


「親方! ちゃんと予算を考えて下さいよ!」


「分かっとるわ! ちょっと黙っておれ!」


 翌日、まずはダグラスさんに採取したゴーレム鋼を届けに来た。

 予想以上のゴーレム鋼の量にダグラスさんは歓喜し、あれもこれもと買い取るゴーレム鋼を選んでいた。


「あ、ジェットさん、ちょっといいですか?」


 ダグラスさんの弟子のマイケルさんが俺に声を掛けてきた。

 俺はマイケルさんに頷き返す。


「この前持ち込んでもらったミスリル、いつでも使えるように準備してますよ。俺もあんな大量のミスリル初めて見ましたよ!」


「おお! あれからどうなったか気になってたんだ! これでミスリルを使って……あー、マイケルさん、すぐには無理かも。ちょっと気になることがあるから、もう一度ダンジョンに行ってみる予定なんだ」


「おや、そうだったのですか。いえ、こちらはいつでも大丈夫ですので……ですよね、親方?」


「おう! お前たちの都合がいい時に来い!」


 その後、ダグラスさんが予算以上のゴーレム鋼を買い取ろうとしたところで、ケイナさんが鬼の形相で止めていた。

 それでも渋るダグラスさんを、マイケルさんが苦笑いで説得するのだった。


「今回の報酬は後でギルドに払っておくから受け取ってくれ。もしまたいいのが採れたら持ってこい。その時も指名依頼の形で買い取らせてもらうからな」


「分かった。ダンジョンでいいゴーレム鋼が採れたらまた持ってくるよ。ミスリルの方もその時に色々試してみる」


「あはは、俺もミスリルがどんな風になるのか楽しみですよ」


「皆さん! 次は加減して持って来て下さいね! 私の給料の為にも!」


 三人に見送られ、俺たちは次の目的地、冒険者ギルドへと向かった。



 ◇◇◇



「えっと、これで全部かな」


 ギルドに入った瞬間ジャネットさんに捕まった。そこで、素材の買取をお願いすると、早速解体場まで案内された。

 最初は鼻歌を歌いながら上機嫌なジャネットさんだったけど、リディが次々取り出す魔物やゴーレム鋼を見て、次第に目が点になっていく。


「……えーとね、普通の冒険者って目的のもの以外、ある程度戦闘を回避したり倒してもそのまま放置するものなの」


「でも、魔物って出来るだけ間引いた方がいいんだろ? それに、倒したんならちゃんと持って帰って来ないと勿体ないし。え? 皆そうするんじゃないの?」


「それはそうね。でもね、普通の冒険者パーティーは遭遇した魔物を片っ端から倒したりなんかしないのよおおお!! しかも、それを全部持って帰ってくるとかそんなこと出来ないのよ! あんたたちが異常なの! 異常なパーティーなのよ!」


 一応忠告してくれてるんだろうけど、そんな涎垂らして小躍りしながら言われてもな……


「ぐふふふふ、やっぱりこの子たちに目を付けたのは間違ってなかったようね! ぐふふふふふふ!」


「あー、ジャネットさん? 俺たちもう一度ダンジョンに潜る予定だから、その間にこの魔物を解体しておいてもらいたいんだけど……」


「はっ! ぅおっふぇんっ! え、ええ、任せておいて。費用は今回もギルド持ちでいいわ。また肉は全部持って行くの?」


「いや、今回はオークを半分だけで」


 おそらく今後もどんどん増えていくだろうしな。


「分かったわ。ただ、保管しておけるのは五日までよ。それ以上になっちゃうと、いくら保管所で管理してても品質の保証が出来なくなっちゃうから売りに出すことになるわ」


「分かった。それで頼む」


「了解よ。まあ、今回も量が量だから色々用意するのに時間が掛かるわ。どんなに早くても肉は二日後、報酬は三日後で考えといて」


「分かったよ。それじゃジャネットさん、後は頼む」


「ええ、ばっちり任せときなさい!」


 よし、これで後はテオドールさんの所で補給を済ませるだけだな。

 俺たちは小躍りを続けていたジャネットさんに後を任せ、テオドールさんの商店へと向かった。

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