52話 ジェット流ダンジョンでの過ごし方
ブックマーク登録と評価ありがとうございます!
「ふぅ、さっき一通り試してみたんだけど、魔術弾だと水属性か風属性が効果的みたい。他属性は効果が薄いみたいだったよ。闇属性を使ってもゴブリンとかオークみたいに発狂しなかったし。地属性の場合、ゴーレムよりもっと硬い石を作ってぶつけたら効果はあるかもだけど」
「はぁ、はぁ。槍みたいに尖らせてぶつけるのが一番よく効いていた印象ですね。刃状だとわたしじゃ殆ど傷付けられなかったです」
「成程なあ。折角だし、こいつで色々試してみるか」
二人が行動不能にしたゴーレムを使って色々検証だ。
まずはリディが効果が薄いと言っていた火属性、光属性、闇属性を至近距離でぶつけてみる。
多少表面に傷を付けることは出来たけどそれだけだった。
次は効果的だと言っていた水属性と風属性だ。
リディに言われ、念の為端の部分を使って試してみる。
すると、これらの属性の場合面白いようにゴーレムの体を削り取ることが出来た。
折角なので雷属性も試してみようか。
さっきは内部を攻撃したけれど、表面の場合はどうかな?
これは、火属性なんかと同じような結果になった。
どうやらゴーレムの表面には雷属性は効果が薄いらしい。もしかしたら、ゴーレムに含まれる金属量でも個体差があるのかもしれない。
最後は地属性だ。
俺としては、直接これを食らわせるのが一番効果が高いと思っているんだけど……
ゴーレムに手を当て地魔術を行使する。
んんっ? ダンジョンの壁に試した時みたいな抵抗を感じるな。
それでも俺は構わず地魔術を使い続け、無理矢理ゴーレムに穴をあけた。
体の中心部分に魔石を発見したので、試しにそれを抜き取ってみた。すると、ゴーレムに流れていた魔力が消え去った。
「へえ、魔石を壊すか抜き取るかしたらゴーレムは活動停止するんだな」
「どうにか動きを止めて無理矢理穴をあけないといけないから、ちょっと戦いの中でやるのは難しいんじゃない?」
「接近するのも一苦労ですしね……実際戦ってみて、ゴーレム鋼がいい値段で取引される理由が分かった気がします」
ある程度検証を終えたので、ゴーレム鋼と魔石はリディの亜空間に仕舞ってもらう。
そうして改めて周囲を観察してみる。もうこの大部屋にゴーレムはいないようだ。
「なあ、広さも三人で使うならちょっと広いくらいで問題無いし、今日はここで休んでいくか」
「さんせー! もうお腹ぺこぺこだよ」
「そうしてもらえると嬉しいです。結構魔力も消耗しちゃったし……」
「じゃあ決まりだな。他に誰もいないし丁度いい。それじゃちょっとこの部屋を使い易く整えるから、二人は食事の準備を頼んだ」
「「はーい」」
さて、それじゃ地魔術でここを快適な空間に改造していくか。
まずは出入り口を石壁で封鎖する。完全に閉じちゃうと息苦しくなっちゃうから、上部に換気用の隙間を設けておく。その部分は侵入されないよう格子状にしておいた。
次は部屋の隅に石壁で仕切りを作っていく。ここはトイレ用スペースにするつもりだ。テオドールさんの店に携帯用のトイレが売っていたから、それも大量に購入しておいた。使った後は亜空間に仕舞っておいて、外に出た時処分すればいい。
よく考えたら、上の休憩所ってトイレはどうしてたんだろう? まさかそのまま……
俺は頭を横に振って嫌な想像を振り払う。
よし、気を取り直そう。
トイレとは別の場所にもう一か所仕切りを作る。
ここはリディやレイチェルが着替えたり体を拭く時に使ってもらおう。
出来る事ならダンジョン内でもちゃんと清潔なままでいたいしな。
おお、そうだ!
さっきのゴーレム鋼を使って浴槽が作れないかな?
ちょっと試してみるか。
「リディ! ちょっとこの辺にさっきの大きいゴーレム鋼を出してくれ」
リディが一旦準備をレイチェルに任せ、こっちにやってくる。
「何々? 何作ってるのおにい?」
「ふっふっふ、出来てからのお楽しみだ。この辺に頼む」
リディはゴーレム鋼を取り出した後、食事の準備に戻っていった。
それじゃ、これを加工していこうか。
俺はゴーレム鋼に手を当て、地魔術を使って加工を試みる。
お、まだ動いていた時のゴーレムは結構抵抗があったけど、ゴーレム鋼になったら問題無いな。
それに、ミスリル程ではないけど魔力の通りも悪くない。
これなら思った通りの形に出来そうだ。
そうして俺は、大きいゴーレム鋼を浴槽の形に整えた。
岩の部分は表面をそぎ落として滑らかにする。
後は湯を張ればいつでも使えるぞ! 湯の調整は俺かリディで出来るから問題無い。
持ち運びはリディの『亜空間収納』に仕舞えばいいからそれも大丈夫だ。
「おにい、お米炊いてみるんだよね……ってお風呂だ!」
リディが俺を呼びに近くまで来ていたようだ。
「おう、これなら持ち運び可能だし、何処でも風呂に入れるぞ! 部屋も整ったし俺もそっち手伝いに行くよ」
「うん! レイチェル姉ーー! おにいがお風呂作ったよーー!」
レイチェルの元に走りながらリディが声を張る。
それを聞いたレイチェルは、リディと一緒になって飛び跳ねて喜んでいた。
……おぅ、そんなに飛び跳ねると胸部装甲が暴力的な動きを……
……ポヨンが一匹ポヨンが二匹ポヨンが――
俺はどうにか邪念を沈め、二人と合流する。
そこには、ご飯を炊くための釜と、肉を焼くための網が土台に乗せられて準備されていた。
「あ、そうだ。リディ、先に母さんの炊いた米を出してくれ」
「うん」
目の前に母さんが炊いた米の入った桶としゃもじが現れる。
俺はそれを食器によそい、レイチェルに差し出した。
「え? いいんですか? このお米って二人にとって大切なものじゃ……」
「だからこそだ。こんな感じで炊き上げたいから、レイチェルも一度米を食べてみてくれ」
「……分かりました。それじゃいただきます」
レイチェルは食器を受け取ると、スプーンを使って米を口に運ぶ。
あ、今気付いたんだけど、こっちじゃ箸って使わないんだな。
パンとかスープとか、最近箸を使わないものばかり食べてたから思い至らなかったな。
「んむんむ……味は、あまりしない……違う、噛んでたら甘味が出てきて……お米自体に粘りもあるんですね」
「お肉とかお魚と一緒に食べると美味しいんだよ! 炊く時に味付けして具もいっぱい入った炊き込みご飯とか、醤油を塗って焼いたおにぎりもあたし大好きなんだ」
「炊き上がった時、大体それぐらいの硬さになるようにしたいんだ。色々試行錯誤することになるだろうから一緒に手伝ってくれ」
「はい、分かりました! 皆でこの味を再現しましょう!」
「よし、早速やっていこう! リディ、テオドールさんの所で買った米を出してくれ」
「うん!」
リディは母さんが炊いた米を亜空間に仕舞い、続いてテオドールさんの商店で買った米を取り出す。
「あ、さっきのとは全然色が違いますね。それに粒も少し小さいような」
「色の違いは米の表面に付いている糠って言うんだけど、それが残っているからだな。粒の大きさは種類とか育て方の差かなあ。エルデリアでは魔術を使って作物を育てるからなあ」
「この少し茶色いまま炊いてもそれはそれで美味しいんだけど……おにい、今回は白米にするの?」
「そうだな。やっぱりまずは白米だな」
出来ることならヴォーレンドでも米を広めたいからな。やはり最初はクセが無く一番食べやすい白米からだ。
「まずはこの表面の糠を落とす為に米を研ぐんだけど……」
俺は桶に米を入れて、そこに水魔術で水を加える。
「ママは最初、軽くすすいで水を捨てていた……ような?」
「うん、確かそうだったな。それから米を研いでいくんだったか。この糠自体も色々使えるんだけど、それは今はいいや」
水を捨て、俺は掌を使って米を研いでいく。
ジャッジャッジャッジャ、とリズミカルに研いでいく。
確か母さんが研ぐ時もこんな音がしていた筈だ。
そして、ある程度研いだところで水を注ぎ、汚れを落としていく。
その工程を何度か繰り返していると、段々米が白くなってきた。
「へえ、最初と全然色が違いますね」
「おにい、それくらいでいいんじゃない?」
「そうだな。それじゃ炊いていくか」
研いだ米を釜に移し水を加える……んだけど、
「なあリディ、水ってどのくらい必要なんだ?」
「うーん……少なくともお米が浸るくらいは必要だと思うんだけど」
まあ、この辺りは試行錯誤だな。
俺は釜にちょっと多めに水を注ぎ、蓋をして火魔術で火にかける。
あ、炭はテオドールさんの店で買っておいたけど、薪を用意するの忘れてた!
「リディ、薪の代わりになる物持ってないか?」
「あー、忘れてたね薪。代わりになりそうな物……うーん、燃やしたら後で困りそうなものしかないんだけど」
「……仕方ない、今回は俺がこのまま火を出し続けるよ。リディとレイチェルは肉と野菜を準備しておいてくれ」
「うん、おにい、あっちでいいんだよね?」
「おう」
「どんな味なのか今から楽しみですね」
リディが亜空間から大きめの肉の塊と野菜を取り出す。
その肉は程よく脂が乗り、赤と白が芸術的なコントラストを織りなしている。
さっきまでリディの頭の上でのんびりしていたポヨンも、目の前の肉を見て大きく体を揺らし始めた。
そう、今回俺たちは今日ギルドで受け取った鹿の肉、その中でもライトニングホーンの肉を食べてみる予定なのだ。
「レイチェル、分厚く切ってくれていいぞ」
「はい! ごくりっ」
レイチェルがナイフを使って肉を切り取っていく。
「うわっ、凄い柔らかさですよ!」
切り取った肉に、これまたテオドールさんの店で買い込んだ香辛料をまぶしていく。
「野菜も切り終わったよ」
「おう、こっちが炊き上がるまでちょっと待っててくれ」
準備を終えた肉と野菜をリディが一度亜空間へと仕舞う。
「うー、お腹が減ってくる匂いだねポヨン」
「あ、なんだかいい香りがしますね……師匠? 吹きこぼれてるんですけど大丈夫なんです?」
「ああ、問題無い筈だあつっ!」
吹きこぼれが少し手にかかってしまった。
それでもめげずに火を出し続けると、やがて吹きこぼれが無くなっていく。
もうそろそろ大丈夫かな?
俺は火を止め、炊いた米を蒸らし始めた。
「うわぁ、出来たんですね。中はどうなって」
「駄目レイチェル姉!!」
「うっぴゃう!?」
リディが背後から勢いよくレイチェルを抑える。
その時、勢い余って胸を思い切り掴んでしまったようだ。
……うらやま……違う! けしからんぞリディよ!
「ああっ、ごめんレイチェル姉! でもね、お米は火を止めた後暫く蒸らさなきゃ駄目なんだ。その間は、例え赤ちゃんが泣いても蓋を取っちゃ駄目だってママが言ってたの」
「そ、そうだったんだ」
「よ、よし! 待ってる間に肉と野菜を焼いていこうかっ!」
邪念を振り払って俺はそう切り出した。
その間に蒸らし作業は終わる筈だ。
米の方は一旦置いておき、次は網の上に四枚の分厚い鹿肉と野菜を並べる。
その下には炭が置いてあり、火を点ければいつでも準備完了だ。
「あ、炭を使う時は風通しを良くしろってテオドールさんが教えてくれたっけ」
「じゃあ、あたしが風魔術で部屋の空気を入れ替える。おにいは火を、レイチェル姉はお肉と野菜のお世話をお願い」
「うん。美味しく焼き上げるね」
担当も決まったことだし、早速俺は火魔術で炭に点火した。
炭が赤く燃え、そこから熱が発せられる。
炭の周囲に地魔術で石壁を作り出し、その熱を上の網に集中させる。
ジュゥゥウウウウッ、と肉が焼ける音が聞こえてきた。辺りに食欲を刺激する暴力的な肉の匂いが広がる。
「うわぁ……すっごく美味しそうな焼き目ですね!」
レイチェルが肉をひっくり返す。
すると、そこには網目状に焼き目が付いており、それがまた視覚を通して食欲を誘う。
ゴクリッ
は、早く食べたい!
手の空いた俺は、全員分の食器と肉につけるタレを準備する。
そして、蒸らし終えた釜の蓋を開ける。
そこからは、白く輝く米が現れた。
おうおう、初めてにしては上手く炊けたんじゃないか?
炊いた米をポヨンの分も含め全員分よそう。
そうこうしているうちに肉と野菜も焼き上がったようで、そっちも全員分を食器によそう。
「よし、食べようか。いただきます」
「「いただきます!」」
俺はまずはタレをつけずに鹿肉に思い切り齧り付く。
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
柔らかい肉を噛むと、肉の甘い脂と旨味が口の中を蹂躙する。使った香辛料が肉の旨味を更に引き出している。
うめぇええええええええええええええええ!!
今度はタレをつけて食べてみる。
甘辛い濃厚なタレが肉と絡み合い、相乗効果でその味を何倍にも高めていく。
ああ! 最高だ!
そして、そこに白米を思い切り頬張る。
む? ちょっと水分が多すぎたか?
ちょっと表面だけ柔らかくて少し芯が残ってしまったようだ。
それでも、多少の不満くらいは旨すぎる肉の味が帳消しにしてくれる。
はぁ、幸せだ。
村に帰ったら、父さんや母さんにも食べさせてあげたいな。
リディとレイチェルの方を見ると、どうやら二人も俺と同じく肉の旨さに言葉を忘れ、一心不乱に食事に集中しているようだ。
ポヨンもあまりの旨さに蕩けきって……本当に文字通り蕩けてるんだけど大丈夫だよなアレ?
そうして、俺たちは大満足のまま食事を終えたのだった。
とりあえず、米については今後の課題だな。
「ごちそうさま。この後は魔力操作の修業をやってから風呂だな」
「ごちそうさまです。わ、分かりました」
「ごちそうさま。レイチェル姉、着替えとお風呂の準備はしておくね」
その後、魔力操作の修業でレイチェルの艶っぽい声がダンジョン内に響いたんだけど……俺たちの他には誰もいないし問題無いよな?
◇◇◇
とあるヴォーレンドの五人組の男冒険者パーティーが、地下十五階から地下十階まで帰還してきた。
彼らは初の地下十五階での採掘を終えた帰りで、ゴーレムの奇襲に細心の注意を払いながらここまで帰って来たのだった。
先頭を歩く冒険者の持つ大きな盾は、何度もゴーレムの拳を受け止めたのであろうか。所々凹んだ部分が見られる。
「よし、もう少しでゴーレム地帯は抜けられるぞ!」
「ああ! 今回は俺たちにとって初の地下十五階到達だし、ゴーレム鋼以外にもそこで少量とは言えミスリルが採掘出来たんだ! ダンジョン内で不便な生活をした甲斐があったってもんだ」
彼らはここ数日、食べ物は硬い保存食のみ、勿論体を拭いたりも出来ず、トイレに関してもそこら辺で適当に済ますだけと言う生活を余儀なくされていた。
これに関しては、ダンジョンに潜るのならば誰もが避けて通れない道である。
更に、地下十階以降はゴーレムが出現するので全く気が抜けない。眠る時も交代で誰かが神経をすり減らしながら見張りをし続けていたのだ。
だが、その甲斐あって、今回のダンジョン探索は彼らにとって実りのある結果になったようだ。
地上を目指して地下十階を慎重に進む。
すると、彼らは何故か焼いた肉の香ばしい匂いを嗅ぎつけた。その匂いに反応して誰かの腹の虫が盛大な音を出す。
気が付くと、彼ら全員が自然とその匂いを辿っていたのだった。
そして、匂いを辿って行くとそこは行き止まりだった。
「お、おい。ここって確か部屋になってたよな?」
「ああ……もしかしてダンジョンが形を変えたのか?」
「……分からん。ん? 壁の上の方が格子状になってるんだが……そこから風と一緒に肉の匂いが流れて来てる!?」
「向こう側に誰かがいるのか!? ……おい、何か声が聞こえないか?」
彼ら全員が耳を澄ます。
『ぁん――駄目――ししょ――ぁっぁっ――ひゃぁああんっ』
「……………………帰るか」
「…………ああ」
どうやって行ったのかは分からないが、この向こう側にはダンジョンの中で肉を焼き、女を連れ込んでよろしくやっている奴がいる。彼らはそう判断した。
そうして少し前屈みになりながら、彼らは足早に地上を目指し始めた。
本来なら、余裕を持ってもう一日ダンジョン内で過ごす予定だったのだが、彼らは休むことなくダンジョンを進み、明け方には地上へと到達した。
今のヴォーレンドでそれなりに実力がある彼らにとってはそれほど難しいことではなかったようだ。
そして、彼らは宿やギルドへ向かうことなく、ダンジョンでの生活で汚れきった体もそのままに、血走った目で大人の男が通う町のある一画を目指すのだった。
今日で投稿を始めて一ヶ月になりました。
これからも頑張って更新を続けていきますのでよろしくお願いします!




