51話 岩の魔物
「おにい! 大丈夫だった?」
「おう、リディ、レイチェル、ありがとな」
「ふぅ……わたしの魔術でもちゃんと攻撃が通って良かったですよ」
俺たち三人は、バラバラになったゴーレムの破片の回収を始めた。
大きめの破片だけをリディの亜空間に収納し、細かい欠片はポヨンが欲しそうにしていたのでポヨンに与える。
ついでにゴーレムに倒されたオークも回収しておくか。
「動き自体はゆっくりだけど、攻撃は鋭い相手だったな。直接攻撃での接近戦は打撃以外まともに効きそうにないし、結構面倒な相手だな」
「でも、魔術での攻撃はよく効くみたいだね。もっと遠くに離れちゃったら駄目だと思うけど。さっきはレイチェル姉と一緒に水魔術と風魔術で攻撃してみたから、次は他属性でもやってみる」
「流石にわたしたちはゴーレム相手の接近戦は止めておいた方が良さそうですね……」
「ああ、実際戦ってみた感じ、二人にはまだ荷が重そうだ。基本的には中距離から遠距離で頼む」
「うん。ポヨン、あたしたちを援護してね」
ゴーレムを消化していたポヨンの一部が変形し、サムズアップを模る。
……ほんと頭いいなこいつ。他のスライムも全部こんな感じなんだろうか?
さて、主に遠距離魔術で攻撃するとなると、二人の魔力切れには注意しなきゃならないな。
特にレイチェルは、俺やリディに比べるとまだ魔力量は多くない。
ただ、このゴーレム討伐は二人の遠距離魔術のいい修業になるのかもしれない。
俺ももっと色々試して効率的な倒し方を見付けないとな。
「よし、大体回収出来たし行くか。今後は壁にゴーレムが潜んでいるかもしれないから注意しながら進むぞ」
「うん」 「はい」
俺たちは周囲への警戒を強めながら、更にダンジョンの奥へと向かった。
この地下十階も主な魔物はオークのようで、リディとレイチェルに釣られたオークと何度も戦うこととなった。
「この発情豚が!」
「ブイィイイ……」
俺の剣で首を撥ねられたオークが倒れた。
こいつら、体が大きい上に脂肪分が多いから結構深く斬らないといけなくて大変なんだよな。
リディとレイチェルはゴーレム相手を想定してか、今は遠距離からの魔術攻撃を色々試しているみたいだ。
今までは球体のまま飛ばしていたものを刃状にしてみたり、針や槍の様に飛ばしてみたりとその形は様々だ。
俺は実演は出来ないんだけど、こんな風にしてみたらいいんじゃないか? と言うアドバイスはしている。
もし遠くに飛ばすなら色々とこんなこと出来るんじゃないか? と普段から考えてはいるんだ。実際にやると暴発しちゃうから出来ないけど……頭の中で考えるだけなら暴発の心配も無いしな!
それをリディが実際に試し、効果的に使えそうなものをレイチェルに実演しながら教える、と言う形だ。
「ゴーレムいないね。オークはいっぱいいるのに」
「もっと奥の方が遭遇する確率は高いみたいですね。その分強力な個体も多くなるみたいですけど」
「まずはこの辺で何度か戦って、対ゴーレムの戦い方のコツを掴みたいな」
「あ、師匠、そっちの細い道を進んだ先に大部屋があるみたいですよ」
「……またさっきの休憩所みたいなとこだったら嫌だなあ」
「うっ……この情報には特に記載されてないから大丈夫……だと思いたい」
どうやらあの休憩所は二人にとって軽くトラウマになっているみたいだ。
勿論俺だって用が無ければ近付きたくはないけどな。なんかお尻がムズムズしたし……
「行くだけ行ってみようか。もし、人がいそうなら止めとこう」
とりあえず様子を見てみようと言うことで、俺たちは大部屋の方へ向かった。
途中でリディとレイチェルが奥の方を索敵してみたんだけど、特に人の気配は無いそうだ。
俺たちはほっと胸を撫で下ろし、大部屋の前へと辿り着いた。
「……中はそこそこの広さだな。地下八階の休憩所に比べると狭いみたいだけど」
俺たちは外から中の様子を窺う。
すると、
「ん? ポヨン、どうしたの?」
「師匠、リディちゃん、その中何か違和感が無いですか?」
どうやらポヨンとレイチェルが何かに反応しているようだ。
そう言えば、さっきのゴーレムの時もレイチェルは先に気付いていたな。
「もしかしたら、さっきみたいにこの中にもゴーレムがいるのかもな。レイチェル、ポヨン、どの辺りに違和感がある?」
「えーと、あの辺りです」
「ポヨンは? 向こう?」
レイチェルとポヨンがそれぞれ違う方向を指し示す。
「うーん、どうにか探れないかな?」
「風魔術だと壁と変わらない印象だよ」
「リディ、地魔術だとどうだ? ダンジョン内だと地面や壁の中を深く探るのは難しいだろうけど、壁に擬態したゴーレムならもしかしたら」
「分かった、やってみる」
リディがその場にしゃがみ込み、地面に両手をつけて集中を始める。
「んむむむ…………あっ、さっきレイチェル姉とポヨンが言っていた所、なんか変な感じがする!」
どうやら地魔術なら発見可能なようだな。
俺? 勿論そんな遠くを探るなんてこと出来ないな!
なので、『身体活性』で視力や聴力を強化してさっきの場所を観察している。
「うーん、なんだろう。薄っすらダンジョンの瘴気とは違う魔力が表面を覆っている場所があるような」
「多分それがゴーレムなんじゃない?」
もしこうやって擬態したゴーレムを発見出来るならさっきのオークの二の舞は避けられる。
「よし、入って確かめてみよう。何より、俺たちの目的はゴーレム鋼の回収だしな」
俺たちは、さっき目星を付けた場所に注意を向けながら大部屋の中へと足を踏み入れた。
武器も剣から槌に持ち替えておく。
警戒を強めてゴーレムだと思われる壁に注目するけど、特に動き出す気配は無い。
だからと言って不用意に近付きたくはないけどな。
「リディ、レイチェル、怪しい場所に魔術で攻撃してみてくれ」
「うん!」 「はい!」
二人は手を前に突き出し、その掌に魔力を集中させる。
リディは闇属性、レイチェルは水属性を放つようだ。
集めた魔力を属性に変換し、その形を短い槍のように変えていく。
レイチェルはまだそこまで上手く形を変えることは出来ないようで、水球から少し尖った部分をどうにか作り出していた。
「いくよレイチェル姉!」
「分かった!」
「「やあ!」」
二人の掌から同時に魔術弾が放たれる。
魔術弾は目星を付けた壁に突き刺さり、
ドガッ! ゴ……ゴゴゴゴゴゴゴ
体表を魔術弾によって削り取られた細長いタイプのゴーレムが姿を現した。
「おお、ゴーレムだ! ってことは」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
もう一方の目星を付けた壁からもゴーレムが現れる。
そちらは高さは俺より少し大きいくらいだが、その代わりオークの様な横幅のある、重心の安定したタイプだった。
「違った形のゴーレムも出て来たな。俺はあのがっしりしたオークみたいな方を倒す。二人は細長い方を頼む! 魔術弾で脚とか腕を削り取ってやれ!」
「分かった!」
「師匠も気を付けて!」
さて、どう攻めるか。
最初に戦った細長いゴーレムの場合、体の厚みがそこまででもなかったので、『限界突破』なら楽に体を砕くことが出来た。
だけど、こっちのオークみたいなゴーレムは、細長い方に比べかなり体が分厚い。腕の質量も倍くらいありそうだ。
その代わりか脚が短く機動力は無さそうだし、蹴りを放ってくることはないだろう。だけど、足の破壊自体は難しいだろうな。
細長いゴーレムはこちらに向かって来ようとしているのに対し、がっしりしたゴーレムはその場から動く気配が無い。
あの体型だし、基本的に待ち伏せや迎撃がメインなんだろうな。
こっちを二人に任せた方が良かったか? だけど、あの大きな体を魔術弾だけで削り切るのはかなり消耗する筈だ。
向こうから動く気配が無いのでこちらから攻めるしかないか。
よし、あれを試してみるか。
俺は、手にした槌に雷属性の『エンチャント』を施す。
すると、槌の先端から雷が発生し始める。さらに魔力を込めると、バチバチッっと弾けるような音を出し始めた。
よし、問題無く発動出来るな。
『エンチャント』が問題無く発動しているのを確認し、俺はゴーレム目掛け駆け出した。
俺の接近を確認したゴーレムは、体を後ろへ捻り始める。
そして、上半身を物凄い勢いで回転させ始めた。
巨大な腕を突き出し、轟音を出しながらまるで振り子を乱暴に振り回すかのように攻撃してくる。
あれじゃ正面からぶつかるのは難しいな。
なので、俺は振り回される腕にぶつからないよう、手前で思い切り足に『限界突破』を発動しながら高く跳躍した。
狙いはがら空きの頭だ。食らえ!
俺は、ゴーレムの上空ですれ違いざま、雷を纏った槌を頭目掛け思い切り振り下ろす。
ドガァァアンッバヂヂヂヂヂヂヂッ
そして、その勢いのまま向こう側に着地し、ゴーレムの方へ向き直る。
さて、今の雷属性の一撃はどうだ?
俺の槌での一撃を受けたゴーレムの頭は陥没し、更に全身を雷が駆け巡った影響か体の回転は次第に弱くなり、ついには回転が完全に止まってしまった。
おお、体の表面は岩だからもしかしたら雷魔術は通らないかもと少し思ったけど、体に金属を含んでいる影響か体内には雷魔術がかなり有効だったな。
槌で思い切り叩き付けて内部に流してやったのが良かったのかもな。
ゴーレムは動きを止めたものの、まだ完全に倒せた訳ではないようだ。
体から痺れが抜けていくみたいに、徐々に活動を再開させようとしている。
させるかよっ!
俺は動きを止めているゴーレムに一気に接近し、『限界突破』を使って槌を思い切りさっきと同じ個所に何度も叩き付けた。
ビシッビシビシビシバギャンッ
槌を叩き付けた部分からゴーレムの体に亀裂が走っていき、それが体全体に広がり最後にはゴーレムの体は崩れ落ちた。
さっきまでがっしりしたゴーレムがいた場所には、崩れたゴーレム鋼とゴーレムの魔石が残されていた。
よし! こっちは撃破出来た!
二人の方は大丈夫か!?
リディとレイチェルの方を見ると、二人は集中して消耗したのか肩で息をしていた。
俺は急いでゴーレムの方を確認する。
するとそこには、腕と脚を魔術弾で砕かれ一切身動きが取れなくなったゴーレムが横たわっていたのだった。




