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50話 ゴーレム鋼を求めて

 俺たちは現在、ダンジョンの地下五階まで来ている。

 ギルドで受け取った素材をダグラスさんに渡して、そのままダンジョンに直行した形だ。

 この前の事があるのか、今日はダンジョンに入る時、係員に必要以上に丁寧に対応されてしまった。俺たちとしては普通でいいんだけどな。


 素材を受け取ったダグラスさんは、まるで少年の様な目をして歓喜していた。

 ダグラスさん、分かるよその気持ち。あのライトニングホーンの角、ジグザグしててなんかかっこいいもんな。マイケルさんも目を輝かせていたし男心を擽る形だ。なお、女性陣にはよく分からないらしい。

 毛皮も角と一緒に渡しておいた。軽く調べたところ、どうやらライトニングホーンの毛は雷を弾く性質があるみたいだ。

 もし、ミスリル糸の制作に成功したら、毛皮と糸を使って服の強化もお願いしたいからな。


 地下五階までの道のりは、ギルドで買い取った情報もあって特に困るようなことはない。

 魔物はこの前戦ったビッグディアや、猪型のビッグボアが出現し始めたけど、ライトニングホーンやヌシに比べればどうにでもなる相手だ。


「やあ! うわっ!」


「リディ、全部ポヨンに頼り過ぎだ。もう少し自分でも全体に気を配れ」


「うー、分かった」


「てやっ! え? あれ? わわわわっ」


「レイチェル、魔術の維持に意識を持っていかれ過ぎだ。新しいことを試したい気持ちは俺もよーーーーーく分かるけど、基本を疎かにするな」


「は、はいぃいい!」


「「ヴイイィィイイイイ!!」」


 今俺たちは、遭遇した五頭のビッグボアと戦っている。

 俺は後ろから二人の動きをチェック、リディはポヨンを前に出し短弓で攻撃、レイチェルは風属性『エンチャント』を使っての戦闘だ。

 で、丁度リディとレイチェルが少し相手の攻撃を受けてしまったところだ。


 俺は、飛び出して行きたい気持ちをぐっと我慢して、後ろからの指示出しに徹している。

 一度、二人が怪我した時に思わず出て行っちゃったんだけど、俺が全部倒してしまったら自分たちの訓練にならないと二人に怒られたのだ。


 リディは矢を補充したので短弓の練習を再開している。今は『魔装変形(アームズ)』は封印だ。

 どうもポヨンに頼り過ぎて、自身の動き方が雑になっちゃってたからな。

 この機会にリディ本人の力をもっと伸ばしてやりたいところだ。


 レイチェルは現在リディからもミスリルのナイフを借りて、二刀流での属性『エンチャント』に挑戦中だ。

 『身体活性』の維持も及第点をあげられるくらいにはなったので、次の段階として属性付与『エンチャント』を教えた。

 武器一本ならまだ弱いながらもちゃんと属性付与は出来ていたんだけど、これが二本になると相当難しいようで、戦闘中に何度も魔術が途切れていたのだ。


 その後も何度か攻撃を喰らってしまう場面があったものの、どうにか二人は五頭のビッグボアの討伐に成功した。

 戦闘後、二人の怪我については俺が光魔術で治療しておいた。


「うー、自分ではもっと動けるようになってたつもりだったのに」


「なんだかんだ言ってポヨンは頭いいから、知らず知らず頼っちゃってたんだろうな。別に頼るのはいいんだけど、リディ自身もちゃんと考えて動かないとな」


 当のポヨンはのんきに掘り当てた鉄鉱石を消化している。

 この食いしん坊は、ここに来るまでにまた何度も壁の中から素材を探し当てていた。


 レイチェルの方は新しい防具に替えたことで少し動きが滑らかになっていた。

 まあ、元々使っていたものはかなり前に買ったものらしかったからな。体に合ってなかったんだろう。


「うーん、やっぱり師匠みたいにはいきませんね」


「俺だって最初から全部出来た訳じゃないんだぞ。レイチェルは練習あるのみだ。あー、それと。俺を参考にするのは勿論いいんだけど、全部ただ真似してるだけじゃ駄目だぞ。自分に合った部分だけ取り入れろ」


 レイチェルは俺みたいな魔術の出力に物を言わせた戦い方より、もっと二刀を意識した手数を重視した戦い方の方が合ってると思う。

 それに、俺とは違って魔術による遠距離攻撃も可能……になる予定だ。

 もっと魔術が達者になれば、気配察知を併用した奇襲なんてものも可能になってくるだろう。



 反省会を終えた俺たちは、倒したビッグボアをリディの『亜空間収納』に仕舞い更に地下を目指す。

 道中、遭遇した魔物は数が多い時は俺も手伝いながら、全て討伐していった。


「二人とも、この先の地下八階には休憩所があるみたいですよ」


「へえ、ダンジョンの中にもそんな所あるんだね」


「魔物の発生が確認されたことの無い比較的安全なエリアのことをそう呼んでいるそうです。そこで寝泊まりしてダンジョンで活動する冒険者も結構いるみたいですよ」


「成程。もし俺たちも使えそうならそこで軽く昼ご飯を食べようか」


 そうして地下八階に到達した俺たちは、早速ギルドで買った情報を頼りに休憩所を目指す。


「えーと、この先を曲がったところにある大部屋を利用しているみたいですね」


「成程なあ。ダンジョン内だとこう言った場所で休憩や寝泊まりする……うん?」


「……ねえ、おにい、レイチェル姉。なんか臭わない?」


「え? 私は特に何も……う、臭いました……」


 休憩所に使われている大部屋に近付くにつれ、どんどん嫌な臭いが強くなっていく。

 大丈夫なのかここ?

 もしかして魔物に襲われて惨劇が広がっているとか無いよな!?


 そして……ついに俺たちは休憩所の前までやって来てしまった。

 中では何組かのパーティーが野営道具を広げて休憩していたり、硬そうな黒パンや干し肉に齧りついて腹を満たしたりしていた。

 はぁ……とりあえず凄惨な現場とかじゃなくて良かった。

 となるとこの異臭はこの冒険者たちの発するものか……


 俺たちの存在に気付いた先客たちがこちらに視線を向ける。

 何人かの男が異様にギラついた目をリディとレイチェルに向けていた。

 その視線を受けたリディとレイチェルは少し後ずさり、今にも逃げ出しそうだ。

 何故か、ごく一部だけどそんな視線が俺にも向かって来る。

 うっ……なんだかお尻のあたりがムズムズする……


「ね、ねえおにい、本当にここ使うの?」


 小声でリディが聞いてくる。


「……他にいい場所が無いか探そうか」


「で、ですね。さあ早く行きましょう」


 俺たちはその場を足早に退散した。

 特にリディとレイチェルは脱兎の如く駆け出していた。


 あそこにリディやレイチェルを連れて行くのは、猛獣の群れに餌を放り込むようなものだ。

 それに、もしかしたら俺も危険だったかもしれない。


 ある程度離れた所で俺たちは深く息を吸い込んだ。

 すぅぅううううううううううううううううう。

 はぁ、普通の空気がこんなにも尊いものだったとは……


「はあ、もう二度と行きたくないよ……」


「ダンジョンでの泊まり込みとなると、普通は体を拭くことすら困難だから仕方ないんでしょうけど……」


「とりあえず、まずは地下十階まで行こうか。今の場所のことは忘れよう……」


 俺たちは気を取り直して、昼食に片手で軽く摘まめるものを食べながらダンジョンの奥に向かうことにした。



 ◇◇◇



「ここが地下十階か。見た目だけなら今までと特に違いは無いんだな」


「ここから目的のゴーレムが出現する可能性があるみたいですね……はぁ」


「もう! なんなのあの豚!」


 俺たちは地下十階に到達したんだけど、リディとレイチェルは道中に出会った魔物にかなり辟易しているようだ。

 リディが豚と罵る魔物、オークと呼ばれる魔物だ。


 どうやら、この二足歩行の豚の姿をしたオークと言う魔物は年がら年中発情期らしく、興奮すると人だろうが魔物だろうがお構いなしに襲う性質があるようだ。

 襲うって言うのは……まあ、うん。ちょっと口にするのは憚られるようなアレだ。


 そしてこのオーク、やはりゴブリンと同じくリディが一番人気らしく、一気に豚の群れが殺到していた。

 レイチェルの方に向かうオークの数もそこそこ多く、そのどいつもが鼻息を荒くよだれを垂らしていた。

 なんか、オークのギラついた目を見ていると、さっきの休憩所の冒険者たちを思い出してしまうな……

 流石に二人は自分たちだけでは戦いたくなかったらしく、俺も二人と協力してオークと戦った。


 それにこのオーク、結構体が大きく力も強い。

 ただの発情豚だと思っていると痛い目を見ることになりそうな相手だ。

 こいつ相手には、ゴブリンと同じく闇魔術が有効だ。そして、新しく覚えた雷魔術もとても効果的だ。俺がライトニングホーンに雷で撃たれた時と同じく、暫く痺れて動けなくなるのだ。


 そして、こんなやつだが肉は意外なほど美味らしいのだ。

 なので討伐したオークは全てリディに収納してもらっている。

 リディはちょっと嫌そうにしてたけど、肉自体には興味があるようだ。


「ほら、今日の夕飯はいっぱい鹿の肉食わせてやるから元気出せよ二人とも。それに、ゴーレムって魔物が何処にいるか分からないから」


「ブィ、ブヒブブィ」


「……その前に豚退治だな」


「はあ……ゴブリンと同じくらい嫌いになりそう」


 俺とリディは武器を構える。

 だが、そんな中レイチェルだけは違う所を見ていた。


「ブブ? ブイヒイイイイイイイイッ!」


 どうやらオークがこちらに気付いたようだ。

 今回は一体だけらしい。


「どうしたレイチェル? オークが来るぞ!」


「師匠! リディちゃん! 気を付けて! 他に何かいる!」


 ゴゴゴ……ゴゴゴゴゴゴゴゴ


「な、何の音だ!?」


「ブィ? ブッブウウウウウウイッ!?」


「おにい! オークが!」


 こちらに走って向かって来ていたオークが突然横に吹き飛んだ。

 よく見ると、壁だと思っていた場所から岩の塊が突き出していた。

 どうやらあれに吹き飛ばされたようだ。


「あの岩動くぞ! あれが……ゴーレム!」


 壁に擬態していたゴーレムは、地響きと共に起き上がりその全貌を露わにした。

 目の前のゴーレムは人型で、高さは俺の倍くらいだろうか。少なくともさっきのオークよりはでかい。

 ただ、体の横幅はオークの方が大きい。どちらかと言えば、目の前のゴーレムは細長い印象だ。

 そして、その岩で出来た体の一部には金属光沢が見られた。


「よし、何が通じて何が通じないか見極めながら戦うぞ! 二人は遠距離魔術で援護を! 前は俺が出る!」


 俺は咄嗟に剣を構え、『限界突破(オーバードライブ)』を発動した。

 そしてゴーレムへ向けて一気に距離を詰める。


 俺に気付いたゴーレムは、ゆっくり大きな拳を振り上げ、俺目がけて振り下ろした。

 俺はそれを一旦後ろに躱し、振り下ろされた拳を斬り付けた。


 ヂュイイイインッ!


 うおっ! 硬い!

 火花を散らし、剣が弾かれてしまった。

 見た目通り、ただ斬り付けただけでは効果は薄そうだ。


 態勢を立て直したゴーレムが、俺に向かって今度は蹴りを放ってきた。

 全体的に動きはゆっくりなんだけど、反面攻撃の時の動きは異様に勢いがある。

 俺はそれを大きく横へ躱す。


 すると、俺が躱した場所の後方から風と水の球が幾つも勢いよく飛んできた。

 どうやらリディとレイチェルが放った魔術による遠距離攻撃のようだ。

 魔術弾は、蹴りを放って片足状態のゴーレムに次々ぶつかっていく。


 命中した魔術弾はゴーレムの体を抉り、ゴーレムはバランスを崩し仰向けに倒れてしまった。


「二人とも、ナイス!」


 よし、今だ!


 俺は、剣に代わって亜空間から取り出した槌を持ち、仰向けになったゴーレムに勢いよく叩き付けた。

 剣が駄目なら打撃だ!


 ドゴォォオオオオオオオオオンッ!


 思い切りミスリル製の槌を叩き付けられたゴーレムは体が砕け散り、バラバラになってそのまま動かなくなった。


 ふぅ、これを大量に倒さないといけないのか……

 倒すのに慣れるまでは結構大変そうだな。

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