49話 思いがけぬ再会
「はっはっは、モノクロームの皆さんは早速大活躍しているみたいですな」
ダグラスさんの工房を訪ねた翌日、俺たちはテオドールさんの商店を訪ねていた。
店に訪れると、以前にも見た確か……オルトさんだったか。彼が俺たちに気付き、二階にある応接室に案内してくれた。
暫くすると、テオドールさん、オリアーナさん、サニーちゃんが応接室にやってきて少し話をしていたところだ。
サニーちゃんは早速リディ、ポヨンと一緒になって遊んでいる。
どうやら商店と家が繋がっているらしく、俺たちが来たことを知って飛んで来たのだとか。
テオドールさんたちは昨日の段階で既に賞金首の討伐について知っていたらしい。
やはりどうやって戦ったのか気になったらしく、折角なので雷魔術を実演しながら説明をした。
「ほう、それが魔物も使っていた雷魔術ですか……」
「どうやら今回の騒ぎは、元々他の冒険者が賞金首を討伐しようとして失敗し、それで興奮状態になった鹿の群れが暴走して上まで来てしまった、と言うのが原因らしいですね」
俺たちにお茶を用意したオリアーナさんがそう説明をしてくれた。
その討伐に失敗した冒険者たちはギルドカードや装備が一部残っていただけで、死体は黒焦げになっていたり魔物に食い荒らされたりして、見た目だけでは誰かも判断出来ない状態だったらしい。
もしあの鹿の群れが町に出て来ていたら、被害はそれどころじゃなかっただろうな。
「それにしても……ジェットさんはそんな雷に撃たれてよく平気だったわね」
「ジェット兄ちゃんすごーい!」
「おにいは……ちょっと色々おかしいから」
「あはは……確かにあれを見ちゃったらちょっと……」
「別におかしくはないだろう? 確かに無策に食らい続けていたら危なかっただろうけど、ちゃんと光魔術で回復してたし」
「はっはっは……ジェットさん、石の檻と言い光魔術での回復と言い、普通の人はそんなこと出来ないんですよ」
テオドールさんにまでそんなことを言われた。
「それで、次はダグラスさんに頼まれたゴーレム鋼の採取ですか。確かに皆さんにピッタリの依頼かもしれませんな」
「確か地下十階からゴーレムは出るんだったかしら? あ、今日うちに来たのはそれで」
「はい、ダンジョンで多少泊まり込みになるだろうから食料品とか調味料、あと便利な道具があれば売ってもらおうかと思って」
「泊まり込みとなると、普通の冒険者だと黒パンや干し肉みたいな保存の利くものを用意するのでしょうけど、皆さんだったらそんな必要もないでしょうな」
「あの快適な移動を思えば、皆さんならダンジョン内でも苦も無く活動出来そうですね……」
「私、またお風呂入りたーい」
サニーちゃんの言葉にオリアーナさんもピクリと反応していた。
そうだなあ。持ち運び出来る浴槽なんかを作れたら便利かもな。
ゴーレム鋼採取のついでにちょっと色々試してみるか。
「よし、分かった。また今度お風呂用意してやる。約束だ」
そう言って俺はサニーちゃんの頭を撫でる。
サニーちゃんはぱーっと笑顔を咲かせた。オリアーナさんも笑顔を浮かべていた。
その後、俺たちはテオドールさんたちに店内を案内され、必要なものを買い揃えることにした。
リディの『亜空間収納』があるから出来合いのものだけ買って行ってもいいんだけど、リディとレイチェルが折角なら自分たちでも料理がしたい、と言っていたので今回はそうする予定なのだ。
どうやら二人とも、それぞれの家族に再会した時に自分で料理を作って食べさせてあげたいらしい。
「あ、この小麦カーグ産ですね」
レイチェルが嬉しそうに小麦を手に取っている。
「ええ、今年もいいものが仕入れられそうで、私としても収穫期が楽しみですよ」
「普通の冒険者にはまず勧めないものだけれど、調味料だったらこの辺りのものがあれば家庭で作るようなものなら大体のものは出来る筈よ」
「おおー、それじゃお願いします」
オリアーナさんのアドバイスを受けて、レイチェルが調味料を選んでいく。
やはり、こうやってアドバイスを貰えるのはありがたいな。
俺とリディは、サニーちゃんと共に食料品を見ている。
肉は鹿の肉が大量に手に入るからな。それ以外のものを選ぼう。
暫く色んなものを物色していると、
「お、おにい! これ!」
リディが驚いた声を上げて俺を呼んだ。
何やら満面の笑みを浮かべているんだけど……一体何が?
「どうしたリディ? 何があったんだぁあああああああああああああっ!?」
「ひっ!?」
びっくりし過ぎてつい大声を出してしまった。
不意打ちで大声を聞いてしまったサニーちゃんを驚かせてしまったみたいだ。
「ご、ごめんサニーちゃん。リディ、これは……!」
「そうだよ、おにい! お米だよお米!」
エルデリアで食べていたものより少し粒が小さめだけど、俺たちの目の前にあるそれは確かに米に間違いなかった。
まさか、ここヴォーレンドで米を売っていたとは……
「どうしましたかっ!?」
俺の大声を聞いてテオドールさんたちが慌ててこちらにやって来た。
「大声出しちゃってすみません……米が売ってたからつい」
「おや、もしかして皆さんはお米を食べたことがあるのですか?」
「元々俺とリディは米が主食で……まさかここにあるとは思ってなくて」
「成程……実は少し前に遠く東の方からやって来た商人に勧められて、その時初めて買い付けてみたのですよ。ただ、この辺りでは誰も見たことが無いものなので全く売れず……」
「この人、時々こうやって売れるかも分からないものを衝動的に仕入れる癖があるんですよね」
オリアーナさんの指摘にテオドールさんは苦笑いだ。
「そう言う事ですので、もし御入用でしたら是非買ってやって下さい」
俺とリディは視線を合わせ、同時に頷いた。
「それじゃあ、あるだけ全部買うよ」
「え? えーと、確かに私どもは助かるのですが、よろしいのですか?」
「ああ、保管はリディに任せれば問題無いし、ここで買わなかったら次いつ手に入るか分からないし」
「……お買い上げありがとうございます。量が量なので幾らか割り引かせて頂きます」
「師匠、リディちゃん、良かったですね」
「ああ! 折角だしダンジョンで自炊する時に食べよう」
「さんせー!」
炊き方は……母さんがやってるのを見てただけだけど、まあなんとかなるだろ。
「はぁ、本当あなたたちには感謝しかないわ」
「ねえねえ、おこめ? って美味しいの?」
サニーちゃんが興味津々な様子で聞いてくる。
んー、そうだな。今度上手く炊いて食べさせてやるか。
「おう。折角だし今度一緒に食べような」
「本当? やったー」
サニーちゃんはリディと一緒に飛び跳ねて喜んでいる。
「ねえジェットさん。もしよろしければ、その時は私たちもご相伴に与れないかしら? 私たちが美味しい食べ方を知っていれば、もしかしたら今後売り方次第ではお米が売れ筋になる可能性だってあるのかもしれないですし」
おお、もしヴォーレンドで米が出回るのなら俺たちとしてはありがたい話だ。
「是非サニーちゃんと一緒にどうぞ」
「ありがとう、楽しみにしているわ」
「はっはっは。もしそうなるのなら、また仕入れを頑張らないといけませんな」
よし、頑張って美味しい炊き方をマスターしなきゃな。
こうして俺たちは、思いがけない形で米を大量に手に入れることが出来た。
他の食材や調味料、鍋や食器も買い足し、少しサニーちゃんと遊んでから俺たちは今日の予定を終え、宿へと戻り就寝した。
◇◇◇
えーと、金貨が一、二、三……七十枚!?
「なあジャネットさん、これ間違いないの?」
「ええ。元々あの賞金首は大勢で討伐することを想定していたものだしね。まあ、結果的にはあなたたちがたった三人で討伐しちゃったんだけどね。それと、ビッグディア二十七頭分の魔石とライトニングホーンの素材の分もあるしね」
翌日、俺たちは報酬と肉と素材を受け取りにギルドへとやって来た。
俺たちを見付けるや否やジャネットさんが声を掛けてきたので対応してもらっている。
「あとは肉と素材ね。肉は物凄い大量にあるんだけど、本当に大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫」
普通なら腐らせちゃうんだろうけど、リディの『亜空間収納』があれば問題無い。
それに、食べきれない分は、村に帰った時に心配掛けたお詫びに皆に食べてもらう予定なのだ。
ジャネットさんに案内され、肉と素材が保管された保管庫へと向かう。
保管庫の中に入ってみると中はひんやりと肌寒く、そしてそこには大量の鹿肉が用意されていた。
肉はリディに頼んで亜空間に仕舞ってもらう。
ライトニングホーンの角と毛皮については、ダグラスさんの所に持って行く予定なので俺が仕舞っておくか。
「……あの量の肉を全て持っていけるとか……訳が分からないわ」
ジャネットさんが呆れたようにそう呟く。
「ああ、そうそう。ダグラスさんからの指名依頼の受注処理はしておいたわよ。ゴーレム鋼はギルドでも買い取っているからよろしくね」
「あ、ジャネットさん。ギルドで主に買い取ってもらえるもののリストとかってありませんか?」
レイチェルがジャネットさんにそう問いかける。
確かに、それが分かっていれば何かと便利そうだな。
「掲示板の所に買い取りリストがあるわよ。まあでも控えが余分にあるからそれ持ってきてあげるわ。そこに無いものでもいいものだったら買い取るから相談するのよ」
「はい、ありがとうございます!」
そうして報酬と肉と素材を全て受け取り、ジャネットさんに買い取りリストを貰って俺たちは冒険者ギルドを後にした。
この後、ライトニングホーンの素材をダグラスさんに渡したら次はダンジョンに潜って、まずは地下十階を目標に進むとするか。
よーし、頑張るぞ。




