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48話 ダグラス武具工房

「親方、この人たちは……?」


「おう、マイケル。こっち帰ってくる時に世話になったモノクロームの三人だ。白黒の兄妹がジェットとリディ、水色の髪の嬢ちゃんがレイチェルだ」


「ああ、この人たちが親方が言ってた。初めまして、親方の元で修業させてもらっているマイケルです」


「雑用やってるケイナです。さっきはごめんねー」


 この二人はドワーフじゃないんだな。

 二人の自己紹介を受け、俺たちも自己紹介をする。


「で、ここに来たってことは、ミスリル武器を見せてくれるってことか?」


 ダグラスさんが上機嫌に尋ねてくる。

 ライトニングホーンに何度も雷で撃たれてるし、武器のメンテナンスもお願いしたいところだ。

 だけど、本当の目的はそれじゃなくて、


「ああ、うん。武器のメンテナンスもお願いしたいんだけど、それとは別にレイチェルの装備の制作を頼みたくて」


「ほう、そっちの嬢ちゃんの装備ってなると、ナイフと防具か?」


「ああ。それで、もしかしたらダグラスさんならこれ扱えないかなって」


 そう言って俺は亜空間から秘密基地で拾ったボロボロの剣を取り出す。

 それを見て、マイケルさんとケイナさんは何もない所から急に剣が出てきたことに驚き、ダグラスさんはボロボロの剣を見て目を見開いた。


「お、お前これ……ボロボロだけどミスリルじゃないか! と言うかこんなになるとかどんな扱い方したんだっ!!」


 うおっ、ダグラスさんが俺に対して物凄い剣幕で怒鳴ってきた。


「いや、これ俺が使ったんじゃなくて拾ったものなんだ。最初からこうだったよ」


「お、おう、そうだったか。すまんな。鍛冶師としてはやはり気になってしまってな」


「いや、いいよ。それで、これを加工出来るならこれを使ってレイチェルの装備の制作をおねが」


「やる! と言うかやらせろ! こんなん見せられてお預けとか我慢出来るかっ!」


 ダグラスさんが食い気味に了承してくれた。

 マイケルさんとケイナさんはそんなダグラスさんの様子に苦笑いだ。


「あ、ああ。それじゃ頼む。リディ」


「うん」


「ん? 何じゃ何じゃ?」


 工房内の広いスペースに、リディが亜空間から大量のボロボロの武器を出していく。

 マイケルさんとケイナさんは驚きから悲鳴を上げ、ダグラスさんは歓喜の雄叫びを上げていた!


「がっはっはっは! やはりお前たちと知り合えたことは幸運だったようじゃな!! マイケル、この武器を鋳潰す準備をしておけ!」


「は、はいっ!」


 ダグラスさんの指示を受け、正気に戻ったマイケルさんが慌てて奥に引っ込んだ。


「それじゃあ、お前たちの武器のメンテナンスもするから全部出せ。あとケイナ、とりあえず今うちにある物の中からレイチェルの装備も見繕ってやれ」


「はーい」


「あのぅ、出来ればあまり窮屈じゃないやつで……今の装備は装着する時キツくって」


「「……あー」」


 ダグラスさんとケイナさんが同時に声を上げる。

 特にケイナさんは相手を射殺しそうな目で、レイチェルの胸部装甲を凝視していた。

 まあ、ケイナさんもジャネットさん程じゃないけど豊かではないからな……


 俺たちは亜空間から自分たちの武器を出し、三人分の武器をダグラスさんに渡す。

 数々のミスリル製武器を見たダグラスさんはさらに上機嫌になって、武器を持って工房の奥に引っ込んだ。

 レイチェルは、俺たちにお茶を用意したケイナさんに連れられて新たな防具を見繕いに行った。


「むむむむむ……くっ、この大きな脂肪の塊が憎らしいっ!」


「ひゃんっ! ちょ、やめて下さーい!」


 ……けしからん会話が聞こえるな。

 ……ポヨンが一匹ポヨンが二匹……平常心平常心……


「はい、ポヨン。美味しい?」


 ポヨンはリディにおやつを貰って上機嫌に揺れている。

 俺たちはまったりお茶を飲みながら待つことにした。



 ◇◇◇



「はぁーー、まさかミスリルを糸に加工しとるとは……どうやったらこんなことが出来るんじゃ……」


 俺たちの武器のメンテナンスを終えて、ダグラスさんは俺の脱いだベストを繁々と眺めている。


「あー、多分だけど魔術を使って加工してるんだと思う」


「なに!? お、おいジェット! お前も出来るのかっ!?」


 ダグラスさん顔近い近い!


「た、多分……やったことないから色々試さないといけないだろうけど」


「がっはっは! そうかそうか! よし、今度時間ある時に手伝え! これが出来るんならレイチェルの装備もお前たちと同じようなミスリル製の服が作れるぞ! その時は服飾職人は儂が紹介してやる!」


 おお、それが出来るのならありがたいな。

 ミスリルは魔術との相性抜群だし、服に出来るなら鎧と違って重さも軽減可能だ。『エンチャント』を応用すれば、温度管理だってある程度は可能だしな。


「あ、もし出来るなら俺とリディの服も強化してもらおうかな。今日ライトニングホーンって魔物を倒して、近々それの素材が」


「何だとっ!?」


 うおっ、びっくりした!


「お、おい何だその魔物は!? ホーンってことは角とかあるのか? それはどうした? 今持ってるのか!?」


「ちょ、落ち着いて! とりあえず角一本と毛皮半分はギルドに売却予定だけど……」


「なら一本は手に入るんだな!? でかした! それ売ってくれ! 売ってくれるならそれが今回の諸々の代金代わりで構わん!」


「あ、いや、元々ダグラスさんに見てもらう予定だったから」


「おうおうおうおうおう! お前たち最高じゃ!!」


 感極まったダグラスさんに物凄い勢いで背中を叩かれた。

 ……いってぇ、小さいけどとんでもないパワーだ。


 その後、ダグラスさんに促され、討伐したライトニングホーンの特徴を話した。

 話を聞いていくうちに大興奮状態になったダグラスさんは、俺の雷魔術を体験したい! と言ってきた。

 勿論俺は快く了承し、ダグラスさんに雷魔術を放つ。

 そうして、暫くの間ダグラスさんは白目を剥いて沈黙してしまうのだった。


「もうおにい、加減しないと駄目だよ! 皆が皆、おにいみたいに頑丈じゃないんだから!」


「お、おう、すまん」


「…………はっ! なかなか痺れる体験じゃったわ。お? 何だか肩凝りがましになったような」


 復帰したダグラスさんは腕を大きく回して肩の調子を確かめている。


「しかし、ヴォーレンドに来て早々そんな魔物に遭遇し、そいつを倒してしまうとは……お前さんたちは中々波乱万丈な生活をしているようじゃのう、がっはっは!」


 そこへケイナさんと、クタクタになったレイチェルが戻ってきた。


「親方ー、こちらのおっぱ……レイチェルさんの防具見繕っておきましたよ」


 ……なんか今妙な単語が聞こえたような。


「おう、儂の方の準備が整うまでは暫くそっちを使っていてくれ」


「それで、代金なんですけどー」


「おお、それはジェットたちに珍しい魔物の素材を譲ってもらうことで決まった」


「…………はぁあああああああああああああああああああああああああ!?」


 暫く時が止まっていたケイナさんが大声を上げる。


「ちょ、親方! 何言ってんですか!? この前も同じようなこと言って私のお給料遅くなったんですよ!?」


「ちょっとぐらいええじゃろ。それに、その時も結果的には大儲けじゃったろうが」


「確かにそうですけど……そうですけどおおおおおおおおお」


 ケイナさんは床に突っ伏してしまった。


「えーと、ダグラスさん、やっぱお金払った方が」


「あー、さっきの通りで構わん。そんな珍しい魔物の角じゃ。もしかしたら雷の剣なんかを打てるかもしれん。そうなればこいつの給料なんぞポーンと払ってやるわい」


 ダグラスさん、結構自由な人っぽいからケイナさんは苦労してるんだろうな。


「親方、準備が整いました……えっと、ケイナの奴どうしたんですか?」


「ああ、いつものだ。気にするな」


 ダグラスさんが立ち上がり、そして何かを思い出したように手を打った。


「おお、そうじゃ。ジェット、お前さんたちはまたダンジョンに潜るのだろう?」


「ああ、素材と報酬を受け取って、色々準備を整えたら」


「ならお前さんたちに頼もうか。指名依頼と言う形で構わん。ダンジョンの地下十階辺りから、ゴーレムっつう岩や金属で出来た魔物が現れる。そいつの体はゴーレム鋼と言っていい素材になるんじゃ。それを沢山持って帰って来てくれ。今回のレイチェルの装備製作にも使いたいしのう」


「分かった。地下十階辺りからの岩の魔物だな」


「ああそうじゃ。ゴーレムの個体によってゴーレム鋼はピンキリあるから、持って帰って来た中から気に入ったのを選ばせてもらう。残りはギルドにでも売れば、お前さんたちもかなりの儲けになるじゃろう。ゴーレムは硬くて厄介な魔物らしいが、魔術師のお前さんたちなら大丈夫じゃろ」


 岩の魔物か。

 初めて戦うタイプの魔物だな。

 今からある程度戦い方を想定しておくか。


「そう言う訳じゃ。ケイナ! ギルドでモノクローム宛てにゴーレム鋼採取の指名依頼を出しておいてくれ! 既に受けてもらっているのも忘れずに伝えておけよ」


 ダグラスさんの言葉に、突っ伏していたケイナさんが勢いよく起き上がった。


「ちょ、人使い荒いですよ親方!」


「その為に雇ってるんだ! 文句言ってないで早く行ってこい!」


 そう言われ、ケイナさんは渋々依頼を出しにギルドに向かった。


「それじゃ頼んだぞ。儂らはまずはミスリルを鋳潰して加工出来るようにしておくからな」


「よろしく。角を受け取ったらまた持ってくるよ」


「おうよ!」


 話も纏まったので、俺たちもダグラスさんの工房を後にする。

 この後はどうしようかな? と思ったけど、レイチェルが真っ白に燃え尽きてたので今日はもう帰ることにした。


「レイチェル姉、災難だったね」


「あはは……いえ、これもいい装備の為だから……」


「おう……無理するなよ」


「おにい、明日はどうするの?」


「明後日に素材と肉と報酬を受け取らなきゃだからな。それにダグラスさんの指名依頼のこともある。地下十階か。多分ダンジョンの中で多少過ごすことになるだろうから、明日はテオドールさんの所で買い物をして準備を整えようか」


「うん、分かった」


「……はい」


 ゴーレム鋼の採取か。

 もしこれが俺たちにとって適した依頼になるのなら、これをメインに旅の資金を稼ごうかな。

 俺たちはそんなことを話しながら宿へと戻っていった。

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