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39話 また逢う日まで

  護衛依頼を受けることにした後、俺たちは食料品や野営道具、その他ヴォーレンドまでの護衛依頼に必要なものを、メリアさんやアルゴスさんたちに相談しながら買い揃えた。

 焼き立てのパンや、屋台の串焼き等も大量におまけしてもらいながら購入した。

 これらは俺とリディの『亜空間収納』に全て仕舞っている。特に、リディの『亜空間収納』だと食料品がそのまま収納可能なので本当に助かる。そのことをメリアさんやアルゴスさんにも話したら、乾いた笑いを浮かべられた。


 それと、依頼人とも一度ギルドで会って打ち合わせをした。

 依頼人の名はテオドールさん。ヴォーレンドで主に食料品や生活雑貨を扱う商店を経営している商人なのだとか。

 最初はモノクロームと言う聞いたことも無い冒険者パーティーが依頼を受けると言うことで不安だったようだけど、俺たちの事は白黒兄妹として知っていたらしく、是非お願いしますとのこと。

 テオドールさんの他に、テオドールさんの奥さんと娘さん、それとヴォーレンドの商人仲間が一人、計四人が護衛対象のようだ。


 カーグへは小麦の買い付けと今年の出来を見にやって来ていたらしく、丁度そこでゴブリンの襲撃に巻き込まれたらしい。

 カーグへ来る時は、丁度カーグへ帰る冒険者パーティーがいたのでそのパーティーに護衛を依頼したとのこと。

 ただ、ヴォーレンドへの護衛は運悪くなかなか見付からなかったらしい。本来ならもう少し前に出発予定だったようだ。

 これ以上見付からなかった場合、ギルドの方でガンドフさんたちや、他の信頼出来る冒険者に頼もうかと思っていたとはメリアさんの談。


 レイチェルの家族たちにも五日後に旅立つことは話した。

 その時に、俺とリディの事情についても簡単にだけど話しておいた。

 そうしたら、カーグを旅立つ前日に俺たち兄妹を家の方に招いて、簡単な食事会を開いてくれることになった。



 食事会はアルマおばさんが気合を入れて、前日から色んな料理の仕込みをしていたそうだ。

 当日も朝からずっと準備をしてくれていたようで、リディとレイチェルもそれを手伝っていた。


 その間俺は、水魔術や光魔術の浄化効果を使って、宿の掃除をしていた。

 本当にお世話になった宿だからな。それはもう気合を入れて隅々までピカピカにしてやったさ。

 あまりの徹底ぶりに、ディンおじさんとヴァンさんはちょっと引き攣った笑顔を浮かべてたけど。

 宿がピカピカになって嬉しすぎてそうなったんだろうな。うん、きっとそうだ。


 食事会では、とてもじゃないが食べきれない量と種類の料理の数々が並べられた。

 そのどれもが非常に美味しく、俺たちの口の中は幸せに満たされていた。

 余った分は是非持っていけ、とのことなのでありがたく貰うことにした。レイチェルにとっては母の味だ。大切に食べさせてもらおう。


 食事会も終盤に差し掛かると、酒に酔ったディンおじさんがレイチェルの旅立ちに号泣をし始め、それはレイチェル、アルマおばさん、リディへと伝染していった。ヴァンさんも薄っすら泣いていたように見える。

 俺? そんなの勿論我慢なんて出来る訳ないだろう。


 いつか、エルデリアへ一度帰った後、もう一度この人たちにはお礼を言いに来よう。

 レイチェルを連れて帰ってくる必要もあるしな。

 その時は、もし村の誰かが一緒に行ってみたいと言ったら、一緒に旅してみるのもいいかもな。


 そんなこんなで、カーグでの最後の夜は、親切な家族の暖かさに包まれながら更けていった。



 ◇◇◇



「それじゃあ……父さん、母さん、兄さん、行ってくるね」


「「お世話になりました!」」


 護衛依頼当日、皆で朝食を食べた後、俺たちはディンおじさん、アルマおばさん、ヴァンさんに最後の挨拶をしていた。

 皆は町の門まで見送りに行く、と言っていたが、それはレイチェルが断っていた。そんなことされたら護衛依頼に出発する前に泣いちゃって、依頼人に不安を与えるからと。

 それに……俺やリディも我慢出来なかっただろうからな。


「レイチェル、絶対に無理はするんじゃないよ。ジェット君、リディちゃん、どうか娘をよろしく頼む」


 ディンおじさんがレイチェルに優しく微笑んだ後、俺たちに頭を下げる。


「しっかりやってくるんだよレイチェル。ジェット、リディ、またいつでも遊びに来なよ」


 アルマおばさんがレイチェル、俺、リディの順番で優しく抱き締めていく。


「いってらっしゃいレイチェル、ちゃんと顔見せに帰って来るんだぞ。ジェット君、リディちゃん、君たちが無事に村に帰れるよう祈っている」


 ヴァンさんがレイチェルの頭を撫でた後、リディの頭も撫でる。そして俺に柔らかい笑みを向ける。

 俺は力強く頷いた。


「「「いってきます!」」」


 ディンおじさん、アルマおばさん、ヴァンさんが俺たちに手を振る。俺たちもそれに応えた後、カーグでずっとお世話になった満月亭に背を向け町の門へと向かう。

 鼻をすする音が聞こえたので音の方に視線を向けると、リディとレイチェルが既に泣いてしまっていたようだ。


 全く……最初からこれじゃ先が思いやられるな。


 俺は自分の涙を拭いながら、そんなことを考えていた。




 俺たちは、どうにか泣き顔を整えた後、カーグの門の前まで辿り着いた。

 今日はポヨンは鞄の中に待機だ。

 そこには……何故か何人かの見知った顔が待機していた。


「よう、ちゃんと早めに準備したようだな。感心感心」


「えーと……なんでブルマンさんがここに? それにメリアさんとアルゴスさんとモリーさんまで」


「だっはっは! 細けぇことは気にするな。皆お前たちをただ見送りたいだけだよ」


「あはは……私が紹介した依頼と言うこともあって気になって」


「命の恩人の見送りくらいさせろ」


「私もこの人と同じく」


 おおお、態々俺たちの見送りに来てくれていたらしい。

 ちょっと感動だ。


「これ、良かったら道中で食べてね」


 モリーさんから手に持っていた籠を受け取る。

 その中には数種類のポヨンパンが入っていた。

 俺たちの為に買ってきてくれたみたいだ。


「ありがとう。大事に食べさせてもらうよ」


 籠をリディに渡す。

 中身を見て、リディとレイチェルは上機嫌なようだ。


「「ありがとうございます!」」


 パンの入った籠をリディの『亜空間収納』で仕舞う。


「そんじゃあ俺も、旅立つ新人の為に一つギルドマスターとしてアドバイスしとくか」


 そう言ってブルマンさんは真剣な表情になる。


「レイチェルは知ってるだろうが……ジェット、リディ、お前たち野盗って知ってるか?」


 やとう? 俺もリディも首を横に振る。


「野盗ってのはな、人気の無い所で旅人や商人を襲い、金品を奪い女子供を奴隷として闇に流したりする悪人どものことだ。酷い奴らになると、平気で人を殺したりもする」


 俺もリディもブルマンさんの話がいまいち理解出来ない。

 え? 何だそれ?

 何でそんなことをする奴らがいるんだ?


「ある意味箱入りなお前たちには信じられない話かもな。それにこんな町中じゃ、まず野盗なんてお目にかかれないしな。だが、町の外を移動するなら何処かしらで出会う可能性はある」


 ブルマンさんが俺の肩を押さえる。


「いいかジェット、リディ、レイチェルもだ。野盗を人と思うな。人の姿をした魔物だと思え。そんな魔物を相手に躊躇するな。もしお前たちが躊躇したら、後に他の誰かが不幸になる。もしかしたらそれは、お前たちの大切な人かもしれねえ」


 あまりに真剣なブルマンさんの言葉に、思わず息を呑む。

 そんな()()を相手に躊躇するな、それは躊躇せず命を奪え、と言うことなのだろう。


「特にジェット、お前はこのパーティーのリーダーだし唯一の男だ。必然的に決断を迫られる場面は、お前に多くやってくる。いいな、さっきの言葉を絶対に忘れるなよ」


 ブルマンさんだけでなく、メリアさんやアルゴスさんも同じくらい真剣な顔をしていた。

 俺は、どこか理解出来ないながらもブルマンさんに頷きを返す。


「よし。……お、依頼者が来たみたいだな」


 大通りの向こうから、馬二頭が引く馬車がこちらに向かって来ていた。


「それじゃあ健闘を祈る。もしちゃんと目的を果たせたらまた顔見せに来い」


「それでは皆さん、お元気で。皆さんの旅路に幸多からんことを」


「じゃあ元気でな。お前たちに負けないよう、俺らでカーグを守るから安心してくれ」


「皆さん、いってらっしゃい。もしまたカーグに来たら、その時は是非お腹の子にも会ってあげて」


「「「ありがとうございました、いってきます!」」」


「おう!」


 別れの挨拶を交わし、ブルマンさんたち四人は去って行った。

 それと入れ替わるように、馬車が俺たちの前へとやって来た。

 馬を止め、御者台に座ったテオドールさんが降りてくる。

 この前打ち合わせで会った時と同様、きちっとした服装を嫌味なく着こなしている。まさに出来る大人、と言った出で立ちだ。


「おはようございます。すみません、どうやら遅くなってしまったようで」


「おはようございます。いえ、俺たちも少し前に来たばかりなので」


 テオドールさんと挨拶を交わしていると、馬車からテオドールさんより幾らか若い綺麗な女性、胸は普通だ。それとリディより幼い女の子、続いて髭面の筋肉質の小男が降りてきた。

 女性と女の子はテオドールさんに聞いていた奥さんと娘さんだろう。と言うことは、髭面の小男が商人仲間か。

 うーん、背はリディと変わらないくらいだけど、どう見ても子供ではない。変わった人もいるんだな。


「なんだ? ドワーフが珍しいのか?」


 どうやら必要以上に見てしまっていたようだ。

 どわーふ?


「あ、いや、すみません」


「ふん、まぁいい。実際この辺りでは珍し……ん? んん? んんんん?」


 どわーふさんが俺の腰の辺りを見て、目を見開いて鼻息を荒くし始めた。

 正確には俺の剣を見ているみたいだ。


「お、お前! それミスリル製じゃ……ちょ、ちょっとよく見せ……てぇえええええ!? お前とそっちのちびっ子! その服ミスリルが使われていないか!?」


 どうやらミスリルに異常反応しているらしい。

 俺もレイチェルもちょっと引いている。

 それにしても、一目見ただけで服のミスリルに気付くとは……


「むぅ……あたしはちびっ子じゃない! おじさんだって背はあたしと変わらないじゃない!」


 リディは少々ご立腹のようだ。

 まあ、いきなり初対面で服をジロジロ見られたらな……


「うん? おお、確かにそうだな! がっはっはっは!」


「ダグラスさん、皆さん困ってますからその辺で……」


「おお、テオドールさん、すまんな。ミスリルを見てつい興奮してしまったわい」


「モノクロームの皆さん、妻のオリアーナと娘のサニーです。こちらはヴォーレンドの鍛冶職人のダグラスさんです」


 テオドールさんの紹介を受け、オリアーナさんとサニーちゃんが丁寧にお辞儀をした。


「初めまして皆さん、テオドールの妻のオリアーナと申します。皆さんのご活躍は聞いております。ヴォーレンドまでよろしくお願いしますね」


「サニーです。よ、よろしくお願いしましゅ!」


 オリアーナさんは見た目通り上品そうな人だな。

 サニーちゃんは少し緊張してるみたいだ。


「おう、儂がダグラスだ。さっきも言ったがドワーフと言う種族だ。一応多少の護衛も兼ねて同行させてもらっておる。よろしくな」


 ダグラスさんは細かいことはあまり気にしない人のようだ。


 俺たちも順番に自己紹介をし、お互いの挨拶が終わった所でいよいよカーグを発ち、ヴォーレンドへ向けて出発した。

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