第三話 ワタシ達『ディザイア・シスターズ』‼︎ 〜 謎のエンブレム 〜
マキ探偵事務所はいつもどおりの平和ぶりだった。特に誰かが依頼を持ってくるわけでもないので、毎日昼寝とコーヒータイムの連続だった。
前回の依頼で拾ったユイの父親のエンブレムは、未だ用途不明の謎めく一品のままであった。
マキはこの特徴的なエンブレムについて、インターネットで何か手掛かりがないか検索してはみていたが、何もヒットせず糸口は見つかっていなかった。実はなんでもない、ただの飾りかなんかではとすら思えるようになっていた。
しかし本当の事をいえば、マキはエンブレムに関する手掛かりを持ちあわせている。いや持ちあわせているというよりは、おそらく知っているであろう者に、心当たりがあるという方が正確であろう。ではなぜ、訪ねに行かないのか。それは……。
「ふぁぁ……このエンブレムがなんなのか気になるけど、ジィさんのとこまで行くのめんどくせえなー。だいたいよぉ、この……」
マキは大あくびをかました後に、ぶつくさと独り言を言っていた。
そう、ただ単に面倒くさがりなだけなのだ。気になるけど、聞きに行くのはめんどくさいから行かない。たったそれだけのことだった。
しかし、そんな面倒くさがりなマキにも、ハーデスを召喚出来る程の知識と材料を集められる後ろ盾の存在は、やはり無視できない対象であった。そんなのを野放しにしていたら、またいつ大変なことが起きるかわかったものではない。正体を突き止め、どうにかしなければ危険だと思っていた。が、それでもマキの腰は重く、なかなか持ち上がらないのが現状であった。
そんなこんなで今日もまったりと一日を過ごしている。事務所を吹き抜ける気持ちの良いそよ風、暖かい日差し、美味いブラックコーヒー。もう睡魔もすぐそこまできている。
いつもの窓際の椅子の背もたれにガッツリもたれ「ふわぁー」と大あくびをかます。
そして毎度の如く夢の中へ直行したことは言うまでもない。
※※※
「おい、マキ。久しいのう。ちと頼みたいことがあるんじゃが、ウチまで来てくれんかのぅ? なーに、心配せんでもちゃんと小遣いは用意しとくわい。わかったらすぐ来るんじゃぞ」
頭の中を響く年寄りの声。……例のエンブレムの情報を持っていそうな人物が呼んでいるようだ。
「はっ! ……あれ? なんかジィさんの声が聞こえたような」
聞き覚えのある声に驚いて昼寝から起きてしまった。周囲を見回す。……誰もいない。
そしてマキはまた『はっ!』とする。
そうか、あれはジィさんの得意な『ウィスパーボイス』だったのか。これで遠く離れていても話しかけられるんだった。うっかりしてたぜ。
しばらく会っていなかったのですっかり忘れていた。にしても、頼みたいこととはいったいなんだろう。ジィさんのことだ、絶対にやっかいなことに違いない。でもエンブレムのことも聞いておきたいし、小遣いの件も確認しておきたい。ならばやはり、一度出向くしかないだろう。
そう思い、ついにマキの重たい腰があがった。
しょうがねぇな、たまにはジィさんに付き合ってやるか。小遣いの……いやエンブレムの件もあるしな!
そう自分に言い聞かせ、いつもの黒いコートに袖を通し、事務所をあとにするのだった。




