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Laugh Chaos  作者: signal.U
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第三話 ワタシ達『ディザイア・シスターズ』‼︎ 〜 ジィさん 〜

車を走らせること一時間。都心のはずれの裏通りにある、怪しげな骨董品屋に着いた。外観は何の変哲も無い……いや、デカデカとした『萬マ殿(バンマデン)』という黒地に金字の看板以外は普通の店だが、マキにはその看板が店主その人を、ありのまま物語っているように思えて仕方がなかった。


店の前まで来ると、怪しげというか胡散臭いというような種の雰囲気がプンプンと漂っているのが感じられるようになる。


その雰囲気はきっとここの店主と品揃えの両方が放っているのであろう。


実際、置いてある品はどれも普通では手に入らない物で、様々な特殊効果を持つものがほとんどであるが、全部が全部かどうかはわからない。しかも出所も非公開ときたものだ。怪しすぎる。いったいこんな店にどんな客が足を運ぶのだろうか。いつ来てもこの店に対する疑問は尽きない。


店内に入ると「本日の目玉商品! バフォメットの角粉! 今夜は大精(盛)況間違いなし‼︎」という売込み札が、入店して来た客の視線を独占するかのように主張していた。やれやれと呆れていると陽気な声が飛んでくるのだった。


「お客さぁーん、いやぁお目が高いですねぇ。その品どうですかい⁉︎ 一つ五十万で手を打ちますぜ⁉︎ ……って、なんじゃいマキかい!」


「なんじゃいマキかい! じゃねぇだろ。ジィさんが来いって言ったんじゃねぇか」


「はて、そうだったかい? どうじゃったかの」


このなんちゃってボケ老人。ボケたフリして全然しっかりしているのは長い付き合いでバレバレだ。ただ単に冗談好きなだけである。ちなみに齢は三百八十六歳(自称)だそうだ。一応外見は七、八十歳くらいで白っぽいローブのようなものを着ており、頭は禿げ上がっているが、後頭部から肩を越えるぐらいの白髪を生やしている。ついでに丸眼鏡もかけている。とりあえず百歳以上生きていそうなほどヨボヨボとはしていない。


「のうマキよ。一つ聞くが、それ、買うのか買わないのかどっちなんじゃ? 迷ってるならさっさと買っちまいな!」


「迷ってねえし、こんなもんいるか! ジィさんいい加減にしねぇともう帰るぞ!」


「なんじゃい、若いのに短気じゃのう。冗談に決まっとるじゃろ。ワシのこのセンスがわからんとはのぉ。おぬし、長生きできんぞ」


「余計なお世話だ! で、何の用事だっての!」


ジィさんのノリに付き合っていると、いつまでもラチがあかないのは出会った時から変わらない。きっとこのノリが続いている限りは元気なのだろう。


「ところでマキよ。おぬしのとこ、最近の客入りはどうかの? 増えたかの?」


いきなりな質問だった。そんなことを聞いてどうするのだろう。


頼みたいこととどう関係しているのかわからないが、マキはとりあえず正直に答えた。


「いや、まぁ、それなりというか。昔よりは増えた、かな。生活が出来るくらいで相変わらず余裕はないけどな」


「ほぅ、そうかそうか。じゃがのマキよ、その少ない客もすべてワシのおかげじゃ。ワシに感謝していいのじゃぞ」


……? よくわからなかった。どこがジィさんのおかげなのだろうか。そして、なぜジィさんはこんなにもドヤ顔なのだろうか。


「よいかマキよ。おぬしは自分の探偵事務所を宣伝したことあったかの? 客は何を頼りに事務所を訪ねて来るのか。考えたこと、あったかの?」


確かにこれまでいっさい宣伝したことはなかった。どーんと構えていればそのうち誰かくるんじゃないかと思っていて、少しずつだが客足はあるからいいかと思っていた。そういえばウチに来たのは都市伝説やら変わったの違いやら、よくわからない出所の情報を頼りに来ている。いったいどうやってウチに辿り着けているのだろうか。不思議には思っていたがなぜかは考えていなかった。


「ワシがの。ワシが自慢の『ウィスパーボイス』で、困ったらマキ探偵事務所を訪ねるように啓蒙活動をしとるんじゃ。だからワシのおかげなんじゃ。ほら、ワシに感謝したくなったじゃろ? ん? ん?」


……なんかすごい腹立つ。しかし確かにジィさんのおかげなのは認めざるを得ない。でもなんかお礼を言う気が失せるのは何故だろう。こんな煽ってくる年寄りもそうそういないだろうが。


そういえば『ウィスパーボイス』について、詳しくは知らなかったな。


「なぁ、ジィさん。その『ウィスパーボイス』ってなんなんだ? 詳しく教えてくれよ」


ジィさんは『ほい来た!』と言わんばかりに嬉しそうに目を輝かせた。これで話が逸れて感謝が云々は忘れ去ってくれるだろう。


「そうか、そんなに聞きたいんじゃな。いいじゃろう、教えてしんぜよう」


ゴホンと咳払いをした。


「『ウィスパーボイス』とはワシが長い年月をかけて編み出したもので、離れた相手に声を届けることが出来る、それはもう比類なき素晴らしいものなんじゃ。しかも相手が寝てようがなんだろうが強制的に声を届けたり、指定した一帯に声をばら撒くこともできるからの。それは知っとるの? 要は個人向けと大衆向けに分けることが出来て、お主に使ったのは個人向けじゃ」


夢の中でジィさんのウィスパーボイスを聞いたのを思い出した。このジィさんに囁かれていたなんてと思うと、少し気分が悪くなった。もちろん大きな声では言えないが。


「大衆向けはある特定の範囲の輩達に語りかけることが出来るんじゃが、そのことについて関心のある輩にしか聞こえんのじゃ。いや、実際は聞こえてはいるんじゃが、意識されんのじゃ。例えば道端の石ころなんぞ視界に入っててもあったかどうかなんていちいち覚えとらんじゃろ? それと同じようなもんじゃ。逆に興味がある輩には意識されて、誰かが噂話をしているくらいに意識されるのじゃ。啓蒙活動にはこちらの大衆向けを使っとるから、当人の都合の良いようになんとなく伝わっとるというわけじゃ。どうじゃ、それでもすごいじゃろ⁉︎」


腰に手を当て自信満々の笑みを浮かべた。


「すげぇな、ジィさん。そのスバラシイ『ウィスパーボイス』でこれからも啓蒙活動をよろしく頼むよ」


「そうかい⁉︎ ワシに任せとけば安心じゃってのぉ。大船に乗ったつもりでいていいぞい!」


その大船に乗っているつもりだが、あまり依頼人は来ていないのが現状だ。ジィさんの協力がなければ依頼人はこなくなるかもしれないから困るが、欲を言えばもうちょっと仕事が欲しい。単純に生活が切迫しそうになるからだ。まぁ、悪魔討伐をすること自体にも意味があるのだが……。


とにかくここはジィさんをおだてておこう。


「じゃ、ジィさんの大船に乗らせてもらっときますんで、よろしくお願いします!」


ジィさんは「そうじゃろ、そうじゃろ」と頼られたのを嬉しそうに頷いていた。

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