落とし前をつけに来た
天衣に芽生えた、初めての感情。
それは、恋だった!
悩む天衣の姿に、
如月は何かできないかと思い立ち・・・?
「チューン、そろそろ潮時なんじゃない?」
喫茶店のカウンターが店内に入ろうとすると、輝流さんの声が聞こえた。
何だか入るのもしゃくになり、もしかしたら何か聞けるかもと思いドアを少し開け耳を傾けた。
「さっきの様子といい、チューンの進路先といい伝えたほうがいいんじゃない?」
「いまだに伝えてないお前に言われたくないんだが」
「オレのことはまあ置いといてさ、伝えないと後悔しない?」
尾上さんが言った言葉をスルーする輝流さんに、私は違和感を覚えてしまう。
もしかして輝流さんも、好きな人がいるのかな?
だとしたら仮付き合いなんてしない方が……
「好きな奴ができたんだな、お前ら」
と、そこに神宮さんの声が聞こえる。
彼は私や美宇さんがほっぽらかした掃除をしながら、二人を見ている。
神宮さんの言葉を聞き、濁すような形で輝流さんは笑った。
「やだなあ、王様。チューンはいいとして、オレはいないよ~」
「ごまかしても、とっくに知ってる」
「……いつからですか……?」
「旅行の時くらいだな。ま、誰を好きなのかまでは知らねぇが」
やっぱり輝流さんにもいるんだ。
二人が驚いている中、神宮さんが口を開いた。
「伝えたいことを伝えられないだけで、一生後悔することもあるんだ。好きになった奴だからこそ、守ってやらないといけないと俺は思うけどな」
神宮さんの顔が、いつも以上につらそうに見えたのは気のせいだろうか。
彼の言葉が二人にどう影響したのかはわからない。
ただ尾上さんだけは、こちらにずいずいやってくる。
私は慌てて身を隠すと、尾上さんは気づくことなく天衣さんのもとへ歩いてゆく。
「桜庭」
はっきりとしたその呼びかけに、天衣さんはびっくりしたような顔を浮かべる。
気を利かせた美宇さんが私のとこまで来て、店内の方から輝流さん達ものぞいている。
そのことに気付いているのかいないのか、尾上さんはゆっくり話し出した。
「なんか、悪いな。梗華のこととか、迷惑かけて」
梗華って誰だろう。色々あったっていうのに関係あるのかな。
うう……気になるけど美宇さんの圧力が怖くて聞き出せない……
「いっ、いえ、そんなこと! 私の方こそ、すみません!」
「あいつから聞いた。行くこと、決意してくれたんだって?」
「え、ええ……まあ……」
「だから俺も落とし前をつけに来た」
ドキドキ……ワクワク……
「俺は、お前が好きだ」
き、きたああああああああああああああああ!
「俺みたいなやつでよかったら、付き合ってほしい」
「みたいなやつなんて、そんな……私だって……!」
「俺、ブラジル行こうと思ってるんだ。悪いな、遠距離になっちまうけど」
「いっ、いえ、全然! 私でよければ!」
ちょ、ちょ、ちょっと待ってぇぇぇぇぇ!!
「ウエ~~~~~イト! ちょっとええかあ? お二人さん」
今の今まで黙っていた美宇さんが、たまらず二人の間に入る。
私や輝流さん達も出てくると、天衣さんが驚いて目を丸くさせた。
「美宇ちゃん達! 見てたんですか!?」
「そりゃあもうバリッバリ!」
「威張るとこじゃねぇし、バレバレだったぞ」
どうやら尾上さんは気づいていたみたいだ。
そりゃこんだけの人数で見てればねぇ……
って、そんなことはどうでもよくて!
「どういうことですか、尾上さん! ブラジルとか、話してることがわけ分かんないんですけど!」
「なんだ、輝流から話通ってなかったのか? 俺卒業したらブラジル行くんだよ、バリスタの勉強しに」
ブラジル、といえばコーヒーの産地だ。
だからかな、本当にバリスタを目指している人が言いそうなことだ。
尾上さんの顔はいつにもまして決意に満ち溢れて、なんだかうらやましくもあった。
「私はフランスにパティシエとして働くことが決まって。仕えるお嬢様が、偶然尾上さんの妹さんで」
え!? 尾上さんに妹いたの!?
こんな人が兄なんて、かわいそうすぎる!
「なんや、二人とも。ちゃんと進路考えてたんや。大変やで~遠距離は」
「いいんだ、そういうのは。好きな奴は守らなきゃならない、からな」
そういう尾上さんの目は、神宮さんに向かれている。
神宮さんはふっと笑って見せた。
「おっめでと~チューン! 結婚式にはオレも呼んでね~!」
「まだ結婚しないし、呼ぶつもりもねぇ」
「よかったなあ、天衣! うらやましいで、このこのぅ~!」
「や、やめてくださいよ~!」
輝流さんを美宇さんが二人をからかうようにはしゃいでいる。
なんだか嬉しくなって、私は神宮さんに笑いかけた。
その時、私は気づいていなかった。
神宮さんが何かに苦しんでいたことを。
私の知らないところで、彼が大きな決意をすることに―……
(つづく!!)
実はかいちゃんは、輝流がバイトを始めた頃から
天衣ちゃんに片思いをしています。計算すると、四年くらいでしょうか。
四年も片思いとかどんだけだよ! と思っていましたが、
色々アニメや小説を読んでいくうちに、上には上がいたことを思い知らされた最近です
次回、ハッピーエンドの裏腹で動き出す不穏な影とは・・・