嫌いじゃないと思います
やってきた謎の客・庵。
コーヒー好きの天然な彼には、斗眞と関係があるようで・・・?
どのくらい時間がたっただろう。
しばらく睨んでいた斗眞君は、何事もなかったかのように店を出てしまった。
庵さんはのほほんとコーヒーを飲み進めている。
……って……
「斗眞君帰っちゃったんですけど! いいんですか!?」
「あ、尾上君のコーヒーおいしい~」
「何杯目ですか、それ! 追いかけないと!」
「大丈夫。反抗期の子はほっとくのが一番だよ」
いや、斗眞君は反抗期じゃ……
ダメだ、この人。マジでコーヒー飲むことしか頭にない……
「庵さんはとーちゃんと知り合いなの?」
「うーん………………………家族、かな」
「か、家族ぅぅぅぅぅぅ!?」
つい叫んだ私の声に、全員分の声が重なる。
彼はうんとうなずくだけで、にこりと笑った。
「お前……弟いたのかよ。初耳だぞ」
「だって聞かれなかったから」
「とーちゃんとは仲悪いの?」
輝流さんがのんきに聞く。
彼はようやくコーヒーを飲んでいた手を止め、思い出すようにつぶやいた。
「親が離婚しちゃって、別々に暮らしてたからね。少なくとも斗眞君は、僕や家族のこと嫌いだと思う」
「なんで、ですか?」
「お父さん、仕事が命の人だから。だから、斗眞君は家でずっと一人だったんだよ」
ふっと浮かんだ、斗眞君の幼い頃。
睦月とよく遊んでいたあの時、彼はいつも家に帰るのを嫌がっていた。
その時はただ遊びたいだけだと思ってたけど……
「昔から本音を言わない子だったから、心配で見に来たんだ。ルナティックハウスで働いてるって聞いたから」
「だったら最初からそう言えよ」
「ごめん。コーヒー飲んだら、すっかり忘れちゃった」
いつものように笑う庵さんだったが、少しだけ元気がないようにも見えた。
なんだかんだ言ってるけど、斗眞君のことちゃんと弟として見てるんだな。
あれ、そういえば……
「斗眞君は、庵さんのことも家族のことも嫌いじゃないと思います」
「どうしてですか? 如月さん」
「私の弟が斗眞君と同級生で、昔よく遊びに来てた時聞いたことあります。確か―」
『僕がわがままを言うと迷惑かけるから。でも僕仕事してる父さんも好きだよ』
すごく、すごく昔の話。
斗眞君のことも忘れてた私でも、なぜかそれだけは鮮明に覚えている。
初めて聞けた、彼の本音だったからかな?
昔から斗眞君ってあんな感じだしね。
「ふふ。面白いこと言うね、水瀬ちゃんは。さすが明王君が彼女にするだけはある」
!?
な、なんで私が神宮さんと付き合ってるって知ってるの!?
「それじゃあ僕、行くね。コーヒー、ごちそうさまでした」
「えっ。あ……ちょっと!」
私が引き止めるのもむなしく、彼は浅く会釈し微笑みながら喫茶店を出た。
「なんか……嵐みたいな人だったね……」
「ああいう奴おるんやなあ。年上じゃなかったら絶対追い返しとるわ」
「不思議な人でしたね~土坂さん、でしたっけ」
「マスターは水瀬とのこと、あの人に言ってあったんすか」
「いや……お前らの話も、ルナティックハウスの話もしたことはなかったんだが……不思議な奴」
彼は一体、何者なんだろう。
それぞれ不思議に思ったまま、一日は更けていった。
かなりインパクトを残した庵さんは、台風そのものな気がした。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「散々人をからかって、何事もなかったように帰るのか。よくできた性格だな」
庵が喫茶店から出ると、少し離れた場所に斗眞がいた。
家に帰らず、ここで待ち伏せしていたのだろう。彼は相変わらずの眼光で、庵をにらみつけた。
「斗眞君、待っててくれたの?」
「別に。なんでルナティックハウスの連中のことまで知ってんのか、気になっただけだ」
「そっか」
庵さんはそれだけ言うと、くすりとほほ笑んだ。
長い髪が、風で揺れる。
彼の横顔を見てると、こっちまで見とれてしまうほど美しかった。
「仕事が仕事だからね。わかっちゃうんだ」
「確か、情報屋だっけ。胡散臭いからやめろよ」
「それは出来ないよ。生活できなくなっちゃう」
庵が困ったように笑う。
その笑みに、斗眞は何も言えなかった。
「変わった子だね、水瀬ちゃんって。斗眞君が好きなの、分かる気がする」
「それも仕事で知ったのか? プライバシーの侵害だ」
「弟だもん。見てればわかるよ」
庵の笑みに、斗眞は小さく舌打ちする。
切りたくても切れない、兄弟の絆。
小さな頃から兄とも親とも一緒にいれなかった。
自分は彼らにとって必要ない存在、そう思っていたのに……
「あ、そうだ。僕いい店知ってるんだ。よかったら、一緒に食事しない?」
「友梨を待たせてるから、嫌だ」
「まあそういわずに~」
陽が沈む中、二つの影が寄り添うように歩いていった。
(つづく・・・)
まさかの兄弟設定、びっくりしました?
今回で情報屋、という職業を出すのは二度目です。
別作品、遊部にいる颯馬さんとは
実は絡んでいるんじゃ・・・
と思ったりしてます。
結構好きなんですよね、庵さん
次回! みんなでわちゃわちゃ!




