非対称性ゲームセット【ソーセージとココア】
参考ゲーム
ROOT
「今日はこのゲームをプレイしてみましょう」
『ROT』
「かわいい」
パッケージには人間のように武器や防具で武装した動物たちのイラストが描かれていた。
「ではこれを」
一人一人に説明書を配る。
おそらく手作りだ。
「そんなに付属の説明書がわかりにくいんですか?」
「いえ。これは別々に学んだほうが面白いゲームなので」
「……嫌な予感しかしないんだけど」
「ばっどふぃーりんぐ」
明らかに何か仕込まれているのが分かっているものの、まだゲームのルールすらわかっていないので俺たちには何もできない。
おとなしく説明書を読む。
「シミュレーション系のゲームか?」
俺たちが説明書を読んでいる横で、先生がテーブルにセッティングしていく。
ボードは森だ。
森の中に12個の広場があり、細い道で繋がっている。
広場がユニットの滞在可能なマスだ。
そして広場には1~3個の小さな四角いマス目がある。
この四角いマス目に建物を配置できるらしい。
建物を建てるには素材が必要で、素材は製材所を建てることで手に入る。
工房はプレイヤーの手札を発動できる場所。
徴兵所はユニットを生産できる場所だ。
「……読むのに時間がかかりそうだから一服するか」
「擬人化した動物系の話に出てくるお菓子がいいわね」
「ピーターラビット! ドクタードーリットル! ナルニア!」
「食事のシーンが多いのはナルニア国物語ですね。個人的には『銀の椅子』が好きです」
「ソーセージとココアだっけ?」
「あとはローストしたじゃがいもと栗、芯をくりぬいたところにレーズンを詰めて焼いた焼きリンゴ、アイスクリームだな」
すべての事件が解決した後の食事のシーンだ。
「シルバーチェアならケンタウロスの朝食も外せまセン」
「人間の胃と馬の胃が両方あるというユニークな設定でしたね」
「しかも朝からめちゃくちゃ食うんだよな」
ケンタウロスはまず人間の朝食としてポリッチ、ハベンダー、キドニーパイ、ベーコン、オムレツ、ハム、マーマレード付きのトースト、コーヒー、ビールを食し、そのあとに馬の朝食として生の草、熱々のマッシュ、オート麦、砂糖を一袋食べるという。
人間の朝食の時点ですでにおかしい。
さすがにすべては食べられないので、俺と先生はソーセージとココアにした。
パン粉や大豆を混ぜた代用ソーセージではなく、本物の肉を詰めたスパイシーなソーセージだ。
そのまま食べても美味いし、パンにはさんでホットドッグにしてもいい。
そしてクリームたっぷりのココア。
アリスと瑞穂はマーマレード付きのトーストとコーヒー、そして濃厚なミルク。
「まきまき」
「……なにしてる?」
「マーマレードロール」
「違う」
「違いマス」
『ライオンと魔女』でビーバーが出してくれた料理だ。
断じてトーストを巻いたものではない。
濃厚なミルクもビーバーが出してくれたものである。
ナルニアの動物たちはグルメなのだ。
「では駒を配置してください」
ソーセージをかじりながら、11ヶ所の広場に猫の兵士を配置する。
そして拠点となる城塞(兵士がやられても、手札を消費することで兵士を城塞に戻すことができる)、製材所、徴兵所、工房を配置した。
「……なにやってんの?」
「は?」
「アリスの知ってるゲームと違いマス」
戸惑いながら瑞穂とアリスがボードに駒を配置する。
「……なんだこれ」
瑞穂は鳥の兵士を1つの広場に6匹置き、拠点の駒を一ヶ所だけ配置する。
アリスは動物の兵士ではない謎の駒(手が描かれている駒)を広場に置き、建物は何も配置しない。
そして先生はたぬきの駒を森に置いた。
広場ではない。
俺が移動することのできない森に置いたのだ。
「さあ、ゲームを始めましょう」
「始められるわけないでしょ!」
「説明をぷりーず!」
猛抗議に先生が『仕方ありませんね』とばかりに肩をすくめ、箱を引っ繰り返す。
箱にはこう書かれていた。
『担当する派閥によって、実行するアクションから勝利点の獲得方法にいたるまで、まったく異なるゲーム体験を味わえる非対称性シミュレーション!』
「簡単にいうとこれはファイヤーエンブレムやリアルロボット大戦、フェミコンウォーズなどの『ジャンルは同じシミュレーションでもシステムがぜんぜん違うゲームを力業で1つにまとめた作品』です」
「はあっ!?」
「……完全にこちらの想像の斜め上を超えてきたな」
少なくとも俺の説明書には普通のことしか書かれていない。
だが普通のシステムでも1つの盤面に4つそろえば、わけのわからないことになる。
「……勝利条件はみんな同じなんですか?」
「同じです」
基本は勝利点30を最初に達成したプレイヤーの勝ちだ。
ただ手札の中に『圧倒』というカードがあり、『対角線上にある広場を両方とも支配していれば勝ち』など、勝利条件を上書きできる。
あくまで勝利条件の上書きなので、圧倒カードを出したあとに勝利点30を獲得しても勝ちにはならない。
勝利条件を満たして圧倒カードを出しても、次の自分のターンが来るまで勝利条件を満たしたままでないといけない。
つまり1ターンの間、周りから攻撃され続けるわけで、圧倒による特殊勝利も簡単ではないのだ。
「一応、簡単にストーリーを説明しておきましょう。猫の王国が森にある鷲の帝国に戦争を仕掛けました。不毛な戦争に巻き込まれた森の民衆たちは森林連合を結成してゲリラ活動を行います。たぬきは戦争で混乱する森を好き勝手に荒らしまわる放浪者です」
「……キャラデザ可愛いのにやってることがぜんぜん可愛くない」
「サツバツ」
猫は侵略戦争、鷲は防衛戦争、森の動物たちはレジスタンスで、たぬきは冒険者(傭兵や盗賊といったほうが正しいかもしれない)。
たしかにそれぞれがまったく違う論理で行動している。
だからといってゲームシステムまで4つに分けなくてもいいだろう。
『カレーとラーメンと寿司とケーキはそのまま食べても美味いのだから、混ぜればもっと美味い料理ができる』理論のようなものだ。
普通なら絶対にクソゲーになる。
「……自分にわかることを全力でやるしかないな」
1ターンに3回アクションできるので、資材を使って製材所を作り、徴兵で兵士を増やす。
11ヶ所に散らばる兵士はそのままだと倒されるだけなので、移動させて兵力を少しでも集中させておく(1つの移動アクションで2ヶ所の移動ができる)。
これでターン終了。
「えーと、こことここにカード配置して……。これで1ターンで徴兵・移動・戦闘・建築ができるわけね」
「1ターン4回行動っ!?」
「鷲の部族はターンの最初に徴兵・移動・戦闘・建築のどれかに手札を追加することで、1ターンに2回まで行動回数を増やすことができます」
「強すぎまセンか?」
「ただし手札の数だけ必ず行動しないといけません。それも置いたカードのアイコンのある広場で」
広場には狐、うさぎ、ネズミのアイコンが描かれている。
「アクションに追加したカードに描かれているアイコンと一致する広場で行動できなかったらバースト。そのターンの行動はそこで終了し、これまでアクションに追加したすべてのカードは捨て札になり、なおかつ勝利点も減点されます」
「ハイリスクハイリターンデスね」
たとえば徴兵にうさぎのカードを追加しても、うさぎの広場に徴兵できる施設がなければ行動できないのでバーストするということだ。
アクションも徴兵→移動→戦闘→建築の順番にやらないといけない。
2→4→6と1ターンごとに行動回数を増やせるものの、その分バーストする可能性も高くなる。
攻撃的なプレイヤーに向いている勢力だろう。
「カードを追加しマス」
アリスも瑞穂と同じように、なにかに手札を追加した。
「ターンエンド」
「……なにしてるのかわかんない」
ここからがこのゲームの本領発揮だ。
「松明を消費して探索します」
「は?」
先生が広場の四角いアイコンの中に置かれていた宝箱の駒を引っ繰り返す。
「あ、ボウガンですね。戦闘なしで同じ広場にいる敵の兵力を1減らすことができます。それからアクションを2つ使用してクエストをクリア、手札を2枚引きます」
「……マジで俺たちと違うゲームしてるぞ」
わからない部分を切り捨てて戦うとなると、必然的にシステムがわかりやすい瑞穂を狙うことになる。
「うさぎの広場に移動して鷲に攻撃」
「ぎゃーっ!?」
広場のアイコンと一致するアクションを必ずやらないとバースト。
だったらそのアイコンのある広場を襲撃してアクションを封じ、意図的にバーストさせればいい。
問題はその他の勢力だ。
「この手は攻撃できるの?」
「できマス」
「それはレジスタンスの支持者ですね。戦闘能力はないので、倒すだけならノーリスクです」
「じゃあ攻撃」
「蜂起!」
「え」
「支持者のいる広場に移動したり、支持者を攻撃すると手札を1枚奪われます」
「先に言いなさいよ!」
レジスタンスの恐ろしさはそれだけではない。
「マウスのパークで反乱!」
「なんだそれ」
「このパークにいるレジスタンス以外のユニットと建物を虐殺しマス」
「げっ!?」
指定された広場にある、レジスタンス勢力以外のあらゆる建物・ユニットが一手で壊滅した。
理不尽すぎる。
しかもレジスタンスの拠点と兵士がその広場を占領した。
「では援助しましょう」
「は?」
先生に手札を渡される。
「代わりにポットをもらいます」
「あ、謎のアイテムアイコンってこいつが使うやつだったのか!」
手札を使うと特殊効果が発動したり、勝利点をもらえたりするのだが、ポット、バッグ、コインなど、用途不明の謎のアイコンがカードに描かれている。
まさか放浪者の交換アイテムだったとは。
「これで友好度が1上がりました」
「友好度ってなにっ!?」
「仲良くなると相手のユニットと一緒に移動して戦闘をしたり、勝利点をゲットできます。逆に戦闘をして敵対関係になると、敵対相手のいる広場への移動コストが倍になります」
「よし、先生の動きを封じるためにわざと攻撃して敵対するぞ」
「OK」
「らじゃー」
「……困りましたね」
これで放浪者の機動力を大幅に削れる。
かと思いきや、
「では手札を一枚捨てて、捨て札になっている圧倒カードを引きます」
「え、圧倒カードって拾えるの」
「はい。捨て札になっていれば、好きなものを拾えます」
「でも放浪者では条件を満たせまセンよ?」
「そういえば圧倒カードって『特定の広場を2ヶ所以上支配する』勝利条件しかないな」
「あ、放浪者の駒って一個しかないから一ヶ所しか支配できないんだ!」
「なので放浪部族は特殊な勝利条件を上書きすることができます」
先生が圧倒カードを中央に置いた。
『現時点でもっとも勝利点の低い勢力と同盟を組み、同盟相手が勝利したら放浪部族も勝利する』
4人対戦の時点で、先生は自分が集中攻撃されることがわかっていた。
このための放浪者だ。
「同率最下位が2人いますね。さて、どちらを選びましょうか」
「私に決まってるでしょ!」
「俺だ!」
これで最低でも2対2。
展開によっては2対1対1になる。
……完全にゲームを引っ繰り返されてしまった。




