カードゲームセット【肉じゃがコロッケとみりんサイダー】
参考ゲーム
逆転裁判
ペーパーズプリーズ
「新しいゲームを作ってみた」
閻魔大王のイラストが描かれたカードゲームをテーブルに置く。
『客転裁判』
「キャクテン?」
「主客転倒の略だ」
「……主客転倒ってなに?」
「主人と客の関係が転倒、つまり物事の優先順位が逆転してしまうことですね」
「ギリギリのラインを攻めたタイトルね」
「我ながら素晴らしいネーミングだ」
『きゃくてん』ではなく『かくてん』だが、パッと見で逆転にここまで近い言葉が見つかるとは思わなかった。
自分で自分を褒めてやりたい。
「人口が増えすぎたことにより閻魔大王の裁判はパンク寸前だった。死者が多すぎて処理しきれない。しかもこれからもずっと人口は増えていくだろう。だから閻魔大王は裁判が短時間で終わるように簡略化することにした」
「設定もほとんど『代打逆転さよなら裁判』と同じじゃない」
「インスパイアを受けてリスペクトしたオマージュ作品だ」
名作ゲーム・代打逆転さよなら裁判も多発する犯罪に裁判が追い付かず、3日で裁判が終わる制度が作られた世界だ。
ゲームとはいえ、さすがにめちゃくちゃな制度である。
「とりあえずプレイしてみよう」
カードを5枚ずつに分けて2人に配る。
カードは表向きで、イラストが描かれていた。
『クモを助ける』
『殺人』
「なにこれ」
「善行カードと悪行カードだ。表にはその人間が生前に行った善行あるいは悪行が、裏にはその行為の点数が書かれてる。善行なら黒字でプラス、悪行なら赤字でマイナスだ。表向きの5枚のカードの点数を予想して計算し、合計点がプラスなら極楽ボード、マイナスなら地獄ボードに置く」
さらに追加で5枚のデッキをいくつか作り、二人に配る。
「地獄・極楽ボードにすべてのデッキを置いたらカードを裏返して点数を計算し、正確に裁判を判定できていたら+1点、できてなかったらマイナス1点。より多くの裁判を正確に判定できたほうの勝ちだ」
「制限時間あるの?」
「ない。どちらかのプレイヤーがすべてのデッキをボードに置いたら、もう一方のプレイヤーも手元のデッキを地獄か極楽かどちらかに置かないといけない。まだ判定してないデッキがあった場合も勘でどちらかのボードに置く」
「計算できていなくても置けるんですね」
「正確に審判を下すことよりも、裁判を1つでも多く終わらせることが優先された主客転倒の世界。それが客転裁判です」
「システム的にはぜんぜん代打逆転さよなら裁判じゃないわね」
「……まあ、元ネタは『パスポートプリーズ』だからな」
「あー、あの入国審査ゲームね」
審査官になって入国希望者の外見、パスポートの内容、そして持参している必要書類を照らし合わせ、矛盾がないかを審査するゲームだ。
間違いがなければ入国、矛盾(偽造)していれば入国拒否(場合によっては拘束)。
ようするに間違い探しである。
希望者の外見とパスポートの写真を比較して同一人物であるか(他人のパスポートをそのまま持ってきたり、自分の写真を上に貼り付けていたりする)、証言と書類の内容が一致しているか(出稼ぎに来ましたと言っているのに書類では観光になっていたりする)、パスポートと書類に書かれている名前や性別などの情報が一致しているか、書類に押されている印は正当なものかetc
平然と他人のパスポートや偽造書類を持ってくるのでタチが悪い。
ワイロを渡してくる人間もいるし、良心に訴えてくる人間もいる(私の国は独裁者によってひどい状況になっているから、出国できないと殺されてしまいますといって泣き落としをしてきたりする)。
武器や麻薬を密輸させないためにボディチェックなどのシステムもある。
時間内にたくさん審査できれば給料が上がり、不正確な審査をしていたら減給。
だいたい初回プレイでは減給されまくって家族が死にまくる。
地味な作業ゲーだが、不思議な中毒性のある作品だ。
この作品にインスパイアを受けてリスペクトしたオマージュ作品、いわゆる『パスポートプリーズライク』なゲームもたくさん発売されている。
人間に化けて家に侵入してこようとする化物や、疫病によってゾンビ化しかけている人間を見分けるゲームなど、色んなパターンがあって面白い。
「PPライクなアナログゲームを作ろうにも、顔、名前、個人情報、パスポート、必要書類と情報量が多すぎる。だからアナログでも短時間でプレイできるように情報量をそぎ落としていったわけだが、気づいたらパスポートプリーズらしさが薄いゲームになってた」
「ビーフシチューを作ろうとしたら肉じゃがができたということですね」
「……はい」
あまり頷きたくはないが適切なたとえだ。
「肉じゃが食べたい」
「肉じゃがコロッケならあるぞ」
「じゃあ肉じゃがコロッケとみりんサイダーね」
「あいよ」
『普通の女子校生がローカルアイドルやってみた。』というアニメのネタだ。
どちらも作中の舞台の名物である。
みりんはただの調味料だと思われがちだが、江戸時代には酒として飲むのも珍しくなかった。
女性向けの甘い酒らしい。
『飲めるみりん』も各地で販売されている。
「名前ほどのインパクトはありませんね」
「まあ、みりん風味のサイダーですから」
もともと飲める調味料を飲料用に加工しただけなのだから、想像を大きく超える味にはならない。
というか、ものすごく美味いのなら現在でも酒として飲まれていたはずだ。
そうはならなかったからこそ作中でローカルアイドルが宣伝しているのである。
「ではビーフシチューの材料でカレーを作ってみましょう」
「は?」
先生がカードを回収してシャッフルし、6枚のカードを手に取る。
さっ
「え?」
ささっと裏向きのカード(点数が書かれているほう)を素早く場に出し、6枚のカードを一つに重ねた。
6枚目のカードは白紙だ。
「さあ、いま出した5枚のカードを計算して判定してください」
「ええっ!?」
「なるほど、フラッシュ暗算か」
フラッシュ暗算とはモニターにパパッと短い間隔で数字が表示されていき、素早く暗算するゲームだ。
7
-4
6
-2
5
※モニターに数字が順番に表示される
それを手動で再現したわけである。
フラッシュ暗算と違うのは、フラッシュ暗算は暗算の答えを求めなければならないのに対し、これは地獄か極楽かを判定するゲーム。
「地獄!」
「ご、極楽?」
ちゃんと計算できていなくても、地獄か極楽かを解答することだけはできるのだ。
「では判定しましょう」
白紙のカードをどけて、デッキの計算をする。
6枚目のカードが白紙なのは、5枚目のカードの数字を隠すためだろう。
「地獄ですね」
「よし!」
頭の中でソロバンを弾ければ、この程度の計算は難しくない。
得意分野だ。
それはいいのだが、
「このやり方だと複数人が同時にプレイできるな……」
親が一つのデッキを素早く場に出すだけなので、人数分のデッキを作って配る必要がない。
答え合わせも一度にできる。
……俺の客転裁判よりシンプルで洗練されてないか?
このわずかな時間で、本当にビーフシチューの材料でカレーを作ってきた。
「では2ゲーム目に行きましょう」
先生がゲームを進める。
口をはさむ暇もない。
まさしく主客転倒。
俺が主人だったはずなのに、いつの間にか主人と客が入れ替わっていた。




