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第三十四回:BNR34

 それこそ数多ある自動車達の中でたった1台、自分の中のベスト・オブ・ザ名車を選ばなければいけないとしたら、筆者は間違いなくこのBNR34GT-Rをチョイスする。32じゃないのかい!なんて無粋な突っ込みはここではやめて頂きたい。確かに、自動車を好きになる切っ掛けを与えてくれた、そして今でも憧れている車であるが故にあの頃まで筆者にとって最高の車は間違いなくBNR32GT-Rだった。そう、あの頃までは。


 そう、筆者にとってR34の登場は確固たるものの筈だった己の信念さえあっけなく覆る、そんな衝撃的な出来事だった。特にGT-Rは凄かった。単純にR33が幾分残念な出来だったのでその反動が心を振り動かした事による錯覚だったにせよ、R34に初めて相対した時に立った鳥肌は本物であったと信じている。幾ら車好きだって、車を見て全身の毛が一度に震え立つなんて事などそう滅多にあるものではない。アストンマーチンやブガッティのような、またはロールスロイスやマイバッハのような軽く1億円を超えるような希少車を見ても感じられなかった領域の程度の強烈な感激を、言うならばただの日産車から受ける羽目になった。衝撃以外の何物でもない。


 BNR34の何が凄いと問われれば、筆者はいの一番にオーラだと答える。性能以前に雰囲気が凄いと力説するのも滑稽に思われるかもしれないが、そうなのだ。

 BNR34は、負けず嫌いで好戦的な性格を臆することなくキリッと前を睨みつける異型4灯の目といい、GT-Rのエンブレムがきちんと填め込まれた綺麗な台形型のグリル、大きな口のようなフロントスポイラー、真四角なフロントのウインカーランプ、スカイラインといえばこれと言える丸4灯のテールランプ、大きく横へ張り出した前後のオーバーフェンダー……、枚挙に暇がないが大変存在感を主張した威圧感のあるデザインである。自己主張の激しいデザインとも取れるが、日本車として乗用車として分を弁える部分はきちんと弁えている、そんなモデルである。

 しかし、実際は乗用車とはかけ離れた一般人には制御が難しい(他の所謂スーパーカーやロータリー系のような挙動がピンキーでシビアなスポーツカー程ではないにしろ)高出力車である。そうした外見と中身の微細なギャップが、逆にいい具合に作用してBNR34に凄みを与えているように筆者は感じる。


 後は、あの言いえも知れぬ重量感だろう。RB26DTTという高出力エンジンを搭載し、さらにAWD機構を艦載するからその分車体重量が増大しているだけではない、幅広に、そして全長は33よりややコンパクトに纏めた低く広いボディーにGT-R伝統のやややり過ぎ感のあるオーバーフェンダーが付加した事で、相乗的に外観が膨張した事が災いして実物以上に重そうに見えてしまっている。

 でも不可思議な事に、BNR34では却ってそれが怪我の功名となって、より彼ら自身に独特の凄みを与え、存在感を増幅させている。


 長所も、またそれだけではなく短所さえも己の凄みに上手に変えてしまう。このBNR34特有の現象、及びそれによって引き起こされた様々な事象の原因、過程の仕組みは筆者には解らない。いや、考察をとことん尽くせば筆者なりに納得出来る結論も導き出せるのかもしれないが、所詮仮定に過ぎない事をこの場で煮詰めるのは場違いな気がする。

 兎に角、何がどうなってそうなっているのかは不明だが、少なくともカスケード反応のような心理的作用が、BNR34から見るものへと累乗的に働き掛けている事は間違いない、と筆者は考える。だからこそ、登場からそろそろ15年経とうとする今日でも古さを感じさせず、未だに筆者を含めた多くのマニアを魅了し続けているのではなかろうか?


 不思議な事に、GT-Rと改名した現行のR35には、BNR34のような凄みを筆者は特に感じない。直6ターボじゃない、スカイラインの称号が付いていない、MTがないとかいう欠点はあるものの日産車、否日本車史上初の300km/hオーバーの市販車という稀に見る、R34なんてとても及ばない高性能車なのにも関わらず、である。

 なんだろう?何とも言い難いが猛々しさがないのである。ある種の崇高な畏れと言ってもいい。コンピューター制御で簡単に300km/hのスピードを誰でもお手軽に体験できるから昔のような高速走行での操作に関したあの不安が薄れてしまっている気がする。

 それだけではないだろう。どうも筆者が思うに、R35GT-Rは確かにすっきりとした美しい外観をした高級車でスペックも高いがそれだけで、何となくお高く止まった優等生だけである感じがする。皆が弱過ぎて走ったら勝ててしまっている事情もあるのだろうけれども、R34のように優等生の癖に意地でも勝ちを取りに行き、且つその闘争本能を隠そうともしない泥臭さがないのである。


 自動車は日進月歩で進化し、どんどん賢く使い易く、そして増々合理的に徹した物になっている。だがその分無駄な要素に過分に含まれていた面白味や楽しさを丸ごと切り捨ててしまった所為で、現代の自動車は画一的でつまらない物に成り果ててしまいつつある。

 野暮ったくてもいい。多少性能に不満があっても構わない。R34のように此方を興奮のあまり痺れさせてくれる車がまたいつか出て欲しい。筆者は切にそう思う。

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