第三十五回:MCX20
80点主義。
長くトヨタ社内で標榜され、そしてしばしばトヨタ車の面白味の無さを誤った意味で皮肉を込めて野次られる。そんな言葉である。
筆者自身はこの80点主義には好感を持っている。エンジン外装内装全て優秀に相応しい及第点を叩きだす。無駄に馬力が高い代わりに曲がれなかったり、逆に操作性は機敏だが限度を超えてピーキー過ぎて素人が運転するには危険極まりなかったりする等、極端に個性が重要視され、さらに無駄に日本車を貶して外車を信奉する偏屈な考えが蔓延しがちな自動車評論の現場ではつまらない車として嘲笑の対象とされるも、日本車の代表として堅実な車造りをしてきた事を如実に裏付ける言葉に相違ない。従ってこの言葉をトヨタ車に対する蔑みとして使うのは甚だ大いに間違いであろう。
80点主義とは、まあ80点位取れればOKかぁ~♪なんてお気楽な物ではなく、全ての評価項目で優を取る、些細なところまでとことん突き詰める厳しい基準を自らに課したトヨタの気概そのものなのである。まあ、そういう思想的、歴史的な詳細な話は著名な自動車好きの文筆家らによって散々にその著書で語られているので、今回はこの辺りで切り上げさせて戴く。トヨタが如何に精魂を籠めて質実剛健、基本に忠実、王道に沿った車造りを心掛けているか、そういう事を前提として知って貰えればそれでいい。
さて、そんなトヨタだが時々トチ狂ったかのように変な車を造る事がある。無論及第点は当然のように取れるが、どこか理解し難い特徴や雰囲気によって総合的な平均点を20点程下げている、そんなモデルである。代表例を出せば、セラとか、bBのオープンデッキとか諸々だ。記録には特に残らないが記憶には残る物が多い。
まあ、上のように明らかに人々の注目を惹きつける為に解っていてやっている分は兎も角、トヨタの場合無意識な部分で違和感を覚える、普通の人には知覚できないレベルで変な車を造り出す事がままある。その一例が今回取り上げるMCX20である。
MCX20。お察しの通り先に取り上げたMCX10型の後継機である。北米でいう2代目アバロンだが、何故か2代目は日本ではプロナードというモデル名が与えられた。因みに3代目以降は日本には導入されず、北米専用モデルとなっている。
先代のニョロ目な感じのヘッドライトの雰囲気を活かしつつ少し格好良い雰囲気に洗練されたヘッドランプユニット。少しだけ当時の流行りを意識した逆台形調のフロントグリル。先の代と同じようにCピラーに窓硝子を付けたもののピラーとドアパーツが完全に分離したボディー周り。……と他のトヨタ車のようにモデルシンボルを上手く継承した上でMCX20はいい意味で飾り気がない素っ気なさで誠実に造り込まれている。まあ、一言で言えばおっさん臭い地味な車である。
これだけなら態々このエッセイで取り扱う必要もない気がする。一応はカムリの上、ウィンダムことレクサス・ESと同等の立ち位置に居る高級車であっても……、である。
しかし、敢えてこれを取り上げるのも、単に筆者がこのモデルのプロナードを奇妙だと感じているからである。
ただ、具体的に何処が?と問われると、少しならず答えに窮するものがある。至極一般的な見識に立てば、繰り返す通りMCX20自体は普通の車だからである。スーパーカーのように空力性能とデザイン性に特化した特殊な形状をしている訳ではないし、奇を衒った珍奇なお化けみたいな外観をしている訳でもない。
しかし、パーツ毎に詳細に分析すると、違和感が拭えなくなるのである。
例えば、MCX20の特徴の一つであるCピラーに取り付けられた三角窓。あの昔の日産車やトヨタ車のように取ってつけただけのような大きな三角形の窓硝子。車自体はそれなりに新しく格好良いのに、そこだけレトロ趣味というか隔絶して10年以上もセンスが古臭い。よって全体の雰囲気というかバランスが大きく崩れてしまっている。
この手の三角窓の採用は先代のMCX10でも見られたが、あれはあれで車自体のデザインも相応な物だったのでまだ見ることが出来た。しかしながらMCX20は21世紀間近のモデルで、それなりに設備の最新化と全体的な若返りを図ったモデルである。たとえ瑣末な事でもこの1つの汚点だけで全てが台無しだ。
次にリアコンビランプのデザインである。何なのだ?あれは……。
後期型では同時期に発売され始めた日産・フーガのような三角形を二分した方のボディー側の大きい方を上下二分にしてウインカーとテールランプを配置し、残りのトランクリッド側の小さい方にバックランプを置いたそれなりに見られる物になったが、何故か前期型ではウインカーとブレーキランプが外側と内側に縦で割ったように分けさせられていた。外側からウインカー、ブレーキランプ、バックランプと綺麗に一続きするランプの位置自体はありふれた物であるものの、どうしてあの尾灯周りのレンズ形状であんなデザインを採用したのか、今でも筆者は理解に苦しんでいる。
プロナード自体はいい車だった。FF車の利点、駆動装置関連を全て前にコンパクトに収納してプロペラシャフト等の余計な部品の搭載の無さから来た、前後のオーバーハングを限界まで詰められる故得られた長大なホイールベースの長さを存分に活かした広くて居心地のいい車内。センチュリー系の最上級モデルを彷彿とさせる絶壁形をした緩やかな内装パネルと、それに合わせた比較的明るい温かなインテリアの彩色。そしてそんなゆったりした雰囲気に見合った何処か間の抜けたエクステリアデザイン。上記で挙げたような全体との不和要素となる瑕疵さえなければ、名車としてもっと相当に高評価を得られた車に成り得た筈である。
20点分の失点は、予想外に大きかったようだ。




