第十一回:J30
前澤デザインから漂うこの何とも言えぬ魅力とは何だろう?そう感じさせる物がこの車にはあると思う。
エクステリアに関しては氏の手掛けた他の高級車と雰囲気は変わらない。直線を基調とした中に曲線を適度に取り入れた纏まりの良い四角い車である。高級車と云うより無難な意味で凡庸な自動車にしか思えないが、その実高級車と言われても納得してしまうだけの品格を内包している。何とも掴み所のない車、それがJ30に対する筆者の評価である。
外装に関しては、直線的、この一言に尽きる。
本当に、これ程までに真っ直ぐな線分で構成されている車も珍しいと思う。フロントガラスの曲面や局所要所にカールしたラインが取り入れられているものの、バンパーの形状もヘッドライトやグリルにボンネット、全体のフォルムに至るまでとことん長方形と台形、それらに類似した四角形によって構成されている。
それでいて、内部は一転して曲線がその大部分を支配する優雅なインテリアである。特に左右に3つ並んだエアコンの送風口を、再左の一つと時計を除け者にする感じで囲むようにして形成されたメーターフードのラインの造形は、独特の魅惑的な雰囲気を醸し出している。
この車の魅力は単に、このように全体のフォルムが内外で対照的な関係にありながら全体のフォルムとして調和を保っている、というだけでは決して無い。高級車然としていなにも関わらず、節々でハッとそれを認識させるような品のある質感である。
思えば、この車がデビューした88年と言えば、バブルこそ終焉を迎えたもののその勢いはまだ死んでいなかった頃合いである。当然、その頃に開発された車はY31セドグロシーマやクラウンのように、木目調に加工したプラスチックパネルを内装の一部、ないし全面にあしらったり、シートに本革を張ったりしている。言わば、現代高級車の有り様が確立された時代であり、特に高級でもないブルーバードやカローラにさえそれが上級モデルに使用され始めた時期だった。
木目調パネルも、本革シートも、当時も今の時代も採用しない車種と言えばガチ仕様のスポーツカーか安物を全面に押し出した営業車と軽自動車程度の物である。
それにも関わらず、J30マキシマにはウッド調のパネルも使用されていなければシートに張ってある素材もただの不織布である。しかも駆動方式だって、当時の高級車のスタンダードであったFRではなくFFである。
これは恐らく、このマキシマがただの高級車ではなく、あくまでも『ファミリー向け』の高級車として造られた為だと考えられる。が、露骨に高級さを主張するのではなく、全体の質感を以てしてその上級車としての造詣を持ち主に意識させる。この姿勢に、筆者は感心せざるを得ない。
ただし、やはり安易にその手段を訴えなかった弊害はあったようで、一見すると全く高級車に見えない、大きいだけのアメリカナイズな大衆車、といった印象が中々払拭されないのも事実である。
まず黒一色の内装は元より、左右4枚あるドアのデザインやフロントグリル等の、上品であっても高級さには乏しい造り。
ウインカーのレンズカバーをホワイトタイプにし、赤い尾灯部分と上下に分けたリアガーニッシュは評価できるデザインではあるが、似たような物がT170系コロナの後期型にも採用された所為で、高級車としての風格は全く感じない。
だからその意向に反して消費者から敬遠されたのだろう。J30は筆者の中で、絶滅危惧種として認定するには玉数が多くて街中でも極稀に走っているのを見掛けるが、相当にマイナーな車種という風に分類されている。