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黒殻  作者: みっち


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第一章 午前七時四十二分

最初にそれを見たとき、真壁遼《まかべ・りょう》は人間だと思った。

だから、ブレーキを踏んだ。

後になって何度あの朝を思い返しても、遼の記憶は必ずそこへ戻った。

あのとき停まらなければよかった。

もちろん、実際には停まるしかなかった。前を走っていた軽自動車が急停止したのだ。あのまま進んでいれば追突していた。

それでも遼の記憶には、ブレーキペダルを踏み込んだ右足の感触だけが、いつまでも妙に鮮明に残り続けることになる。

あの日。

人類がまだ、自分たちの世界が終わり始めていることに気づいていなかった朝。

午前七時四十二分。

埼玉県戸田市。

都心へ向かう国道は、普段と変わらない朝の渋滞に沈んでいた。

遼はワンボックスカーの運転席で小さく息を吐いた。

フロントガラスの向こうには、乗用車とトラックの列が続いている。前を走る車のブレーキランプが、数メートル進むたびに赤く灯る。

「また混んでるな……」

独り言を口にして、ダッシュボード上のスマートフォンを見る。

ナビの画面には到着予想時刻が表示されていた。

八時十七分。

現場集合は八時半。

ぎりぎりではあるが、このままなら間に合う。

今日の仕事は都内のオフィスビルだった。電話設備の増設。午前中に配線経路を確認し、午後から機器を取り付ける予定になっている。

特別な仕事ではない。危険な仕事でもない。

昨日までと同じ一日になるはずだった。

助手席にはコンビニで買った未開封のコーヒー。足元には作業用の安全靴。荷室には工具箱、ケーブル、配線モール、測定器、養生材。伸縮式のアルミ脚立だけは荷室ではなく、車体上部のルーフキャリアに固定してあった。塗装されていない銀色の支柱は傷だらけで、アルミの地肌が広く露出している。

通信設備工事の仕事を始めてから、似たような朝を何百回経験したか分からない。

渋滞。ラジオ。眠そうな顔で運転する会社員。車線変更を繰り返す営業車。横をすり抜けていくバイク。

何も特別なものはなかった。

少なくとも、七時四十二分までは。

その日の朝、遼は一人で現場へ向かっていたが、仕事そのものを一人でやる予定ではなかった。

グループチャットの一番下に、高瀬直人《たかせ・なおと》から新しいメッセージが入った。

《真壁さん、先に着いたら地下のMDFだけ見といてください。俺、資材屋寄ってから行きます》

遼は口元だけで笑った。

高瀬は二十九歳。入社して四年目になる。仕事は速いが、朝に弱い。現場集合が八時半なら八時二十八分に来る男だった。そのくせ工具だけは誰よりきれいに並べる。

《お前が先に来い》

信号待ちの間にそう返すと、すぐ既読がついた。

《今日はマジで早いです。もう起きてます》

《起きてるのは当たり前や》と打ちかけて、遼は消した。

代わりに《脚立こっち積んでるから忘れんなよ》と送る。

《了解。あのボロいやつまだ使うんすか》

遼はルームミラー越しに、車体の上へ伸びる脚立の端をちらりと見た。

長年使ってきた伸縮式のアルミ脚立だった。銀色の支柱は傷だらけで、樹脂製の脚部には黒い汚れがこびりついている。それでも歪みはない。買い替えを勧められるたび、まだ使える、と断ってきた。

《お前より信用できる》

送信すると、笑っているスタンプが返ってきた。

その直後、高瀬から写真が届いた。

コンビニの駐車場。紙カップのコーヒーと、朝食らしいサンドイッチ。その向こうに白い社用車が写っている。

《証拠。今日は遅刻しません》

遼は鼻で笑った。

こういうくだらないやり取りを、あと何回できると思っていただろう。

家を出るとき、美咲はまだ子どもたちの着替えをさせていた。四歳の娘は靴下を片方だけ履いたまま走り回り、二歳の息子は食卓のバナナを握りつぶしていた。

「今日、早く帰れる?」

美咲に聞かれ、遼は「たぶん」と答えた。

確約しなかったのは、工事屋の癖だった。現場は開けてみるまで分からない。

娘には「帰ったらお風呂一緒に入ろう」と言われた。

遼は「分かった」と答えた。

その約束だけは、確約した。

朝の遼にとって心配事といえば、現場が予定どおり終わるか、高瀬が本当に時間どおり来るか、その程度だった。

世界が終わる兆候など、どこにもなかった。

スマートフォンが震えた。

会社のグループチャットだった。

信号待ちの間に画面を見る。

《首都高事故ってるみたいです》

続けて別の社員から、《今日また遅れるんじゃないですか》と入る。

遼は苦笑した。

六人しかいない小さな会社だ。社長も社員も、お互いの行動はだいたい分かっている。

《俺は今んとこ間に合いそう》

そう入力しようとした。

その瞬間、前を走っていた軽自動車のブレーキランプが強く光った。

遼は反射的に右足を踏み込む。

ワンボックスが前のめりになった。助手席のコーヒーが転がり、ダッシュボードの下へ落ちる。

「うわっ」

車が止まった。

前の軽自動車との距離は一メートルもない。

「危ないな……」

バックミラーを見る。後ろの車も急停止していた。追突はない。

ほっとしてから前を見る。

軽自動車は動かない。その前の車も止まっている。

信号は青だった。

一台のクラクションが鳴った。続いてもう一台。後方からも鳴り始める。

遼は眉をひそめた。

事故か。

シートから少し身体を浮かせ、フロントガラス越しに道路の先を見る。

車列の隙間。

そこに、人が立っていた。

最初はそれだけに見えた。

黒い服を着た、背の高い人間。

道路のほぼ中央。こちらに背中を向けている。

「何してんだ……?」

工事関係者かと思った。次に、バイク事故でも起きたのかと思った。

だが周囲に倒れたバイクはない。警察官でもない。誘導棒も持っていない。

それ以前に、服装がおかしかった。

黒い。

頭の先から足首まで、すべて黒い。

ライダースーツ。一瞬そう思った。

だが違う。

布ではない。

肩から胸、腹、腕、太腿、脛まで、黒い板のようなものが何枚も重なっている。

鎧。

その言葉が一番近かった。

しかし時代劇に出てくるようなものではない。もっと滑らかで、もっと身体に密着している。映画に出てくる未来の兵士のようだった。

黒い板は朝日を受けても強く反射しない。濡れた石のような、鈍い光沢。

奇妙なのは関節だった。

あれほど硬そうなものに全身を覆われているのに、首も肩も膝も滑らかに動く。

そして――顔がない。

遼はさらに目を凝らした。

ヘルメットなのかもしれない。

黒い頭部。だが、人間なら目がある位置にも、鼻がある位置にも、口がある位置にも、何もない。

黒い曲面があるだけだった。

前の軽自動車の運転席が開いた。

「あ」

遼は思わず声を出した。

五十代くらいの男が降りてきた。ワイシャツにスラックス。会社員だろう。

男は自分の車の前へ回り込む。

「おい!」

黒い人影は反応しない。

「何してるんだ! 危ないだろ!」

周囲のクラクションが止み始めた。

皆、様子を見ているのだ。

男が黒い人影へ近づいていく。

遼はハンドルを握ったまま、その光景を見ていた。

妙な感覚があった。

行かない方がいい。

理由はない。黒い装備を着た人間が道路に立っているだけだ。少なくとも、この時点では誰も襲っていない。武器も見えない。

それなのに、近づいてはいけないものに見えた。

男と黒い人影の距離が十メートルを切った。

「聞いてんのか!」

返事はない。

黒い人影は男を見ていなかった。

頭部が少し右へ向いている。

道路脇。

コンビニがあった。

二十四時間営業の、どこにでもあるコンビニ。店先にはのぼり、灰皿、ごみ箱。その横に空き缶とペットボトルの回収箱。

黒い人影はそちらを見ているようだった。

男がさらに近づく。

五メートル。

四メートル。

「おい!」

男が右手を伸ばした。

肩へ触れようとしたのだと思う。

その瞬間。

黒い人影が消えた。

遼には、本当にそう見えた。

一瞬前まで五メートル近く離れていた。

次に遼が認識したとき、黒い腕は男の胸元にあった。

鈍い音がした。

金属でもない。肉を殴った音とも違う。もっと重い何かがぶつかったような音。

男の身体が浮いた。

足が地面から離れる。

そのまま後方へ飛ばされ、背中から道路へ落ちた。

一度。

二度。

身体が転がる。

止まった。

誰も動かなかった。

ほんの数秒、国道全体から音が消えたように感じた。

遼はハンドルを握ったまま、倒れた男を見ていた。

「……え?」

理解できない。

男は起きない。手も動かない。

数秒後、どこかの車から女性の悲鳴が上がった。

それを合図にしたように、周囲が一気に騒がしくなる。

「救急車!」

「警察呼べ!」

車のドアが開く音。誰かがスマートフォンを取り出す。

遼もポケットへ手を伸ばしかけた。

そのとき気づいた。

黒い人影は、倒れた男を見ていなかった。

自分が殴り飛ばした人間に興味を示していない。

攻撃した相手への関心を失った、という感じでもない。

最初から男そのものを、邪魔な障害物程度にしか認識していなかった。

そんな動きだった。

黒い頭部が道路脇へ向く。

コンビニ。

歩き始めた。

一歩。

二歩。

人間と同じ二本脚。歩幅も異常ではない。

それなのに、見ているだけで気味が悪い。

身体がほとんど上下しない。歩行に伴う重心移動が見えない。

滑っているわけではない。確かに歩いている。

だが、人間の歩き方ではなかった。

コンビニの自動ドアが開いた。

黒い人影が中へ入る。

一拍遅れて悲鳴が聞こえた。

棚が倒れる音。ガラスが割れる音。

中から客が飛び出してくる。

スーツ姿の男。制服姿の女子高校生。小さな子供を抱いた女性。

最後に店員の制服を着た若い男。入口で転び、両手をつく。すぐに立ち上がる。

「逃げて!」

誰に向かって叫んだのか分からない。

遼はギアへ手を置いた。

逃げる。

そう思った。

だが前には軽自動車。後ろにも車。右は対向車線。左は歩道。

完全に挟まれている。

「くそ……」

倒れた男を助ける。その考えは浮かばなかった。

そんな自分を責める余裕もなかった。

コンビニの自動ドアが、もう一度開いた。

黒い人影が出てきた。

右手に何かを持っている。

銀色。

遼は目を凝らした。

飲料缶。

潰れたアルミ缶だった。

「缶……?」

意味が分からない。

店の中へ何をしに入ったのか。なぜアルミ缶を持っているのか。

黒い指が閉じた。

ぐしゃり。

缶がさらに小さく潰れた。

そして、胸部の外殻が動いた。

遼は瞬きを忘れた。

胸を覆っていた黒い板が、一枚ずつ左右へ開いていく。

機械のハッチ。

いや。

花弁。

そんな言葉が浮かんだ。

その奥。

本来なら人間の胸骨や筋肉、臓器がある場所。

何もなかった。

暗い。

ただ暗い。

影ではない。

穴。

奥行きの分からない黒い空間が、胸の中央に開いている。

「何だよ、それ……」

遼の口から声が漏れた。

黒い人影は潰した缶を、その空間へ押し込んだ。

銀色が闇へ消える。

落ちる音はしない。

外殻が閉じた。

元通り。

遼は息をするのを忘れていたことに気づき、大きく吸った。

人間ではない。

その考えが、ようやくはっきりした。

では何なのか。

機械。ロボット。生物。着ぐるみ。

どれも違うように思える。

黒い人影が静止した。

一秒。

二秒。

頭部が動き始める。

コンビニ。

道路。

停車している車列。

何かを探すように、頭部が左右へ動いていく。

そして――止まった。

遼のいる方向だった。

「……え?」

背中に冷たいものが走る。

見つかった。

反射的にそう思った。

だが、すぐに違和感があった。

顔らしき部分はこちらへ向いている。それなのに、自分自身を見られている感じがしない。

黒い人影の頭部が、ほんのわずかに下へ傾く。

遼の顔ではない。

運転席でもない。

もっと後ろ。

遼の顔よりも高い位置――車体の屋根を探るような動きだった。

遼はルームミラーを見る。

工具箱。

ケーブル。

配線モール。

そして、ルーフキャリアに固定した伸縮式のアルミ脚立。

朝から何度も積み降ろしてきた、何の変哲もない仕事道具。

黒い人影が一歩近づいた。

「何なんだよ……」

二歩目。

遼はギアを入れた。

前の軽自動車との隙間はほとんどない。

対向車線を見る。

車が来ている。

行けない。

黒い人影は歩いてくる。

距離が縮まる。

二十メートル。

十五。

対向車が途切れた。

遼はハンドルを左へ切り、アクセルを踏み込んだ。

タイヤが鳴る。

軽自動車の後部をぎりぎりでかわし、対向車線へ飛び出す。

正面から来た車が激しくクラクションを鳴らした。

遼は構わず加速した。

バックミラーを見る。

黒い人影が走り出した。

腕をほとんど振らない。上半身も揺れない。

速い。

「来るな!」

四十キロ。

五十。

住宅街へ入る交差点で急ハンドルを切る。

荷室で工具が倒れた。

もう一度曲がる。

ミラーを見る。

黒い姿が消えた。

遼はそれでもしばらく速度を落とせなかった。

手のひらが汗で濡れている。

ラジオが途切れた。

流れていた音楽が消える。

短い警告音。

『番組の途中ですが、緊急の情報をお伝えします』

遼は音量を上げた。

『東京都内および埼玉県南部の複数地点で、黒色の装備を身につけた人物、あるいは正体不明の人型存在が目撃されています。警察が確認を進めています。目撃した場合は近づかず、安全な場所へ避難してください』

「複数……?」

遼はラジオを見た。

一体ではない。

偶然そこにいた奇妙な人間でもない。

東京都内。

埼玉県南部。

同じものが、同じ朝に、複数現れている。

スマートフォンが鳴った。

画面に「美咲」。

すぐに出る。

「もしもし!」

『遼?』

妻の声を聞いた瞬間、張り詰めていたものが少しだけ緩んだ。

「家にいる?」

『いるよ。どうしたの? ニュースで変なのやってるけど』

「子供たちは?」

『二人ともいる』

「外に出ないで」

『え?』

「鍵全部かけて。カーテン閉めて。誰か来てもすぐ開けないで」

『遼、何か見たの?』

遼は答えようとして言葉に詰まった。

黒いもの。

飛ばされた男。

胸の中へ消えたアルミ缶。

どこから説明すればいい。

『遼?』

「見た」

短く答えた。

電話の向こうが静かになる。

『大丈夫なの?』

「俺は大丈夫」

嘘ではない。

今のところは。

「会社には行かない」

『じゃあ帰ってくる?』

遼は前方を見る。

道路はすでに混み始めている。ナビには赤い線が増えていた。

「帰る」

それだけは迷わなかった。

『気をつけて』

「うん」

電話を切る。

ナビの目的地を自宅へ変更した。

到着予想時刻が計算される。

九時三十一分。

普段なら一時間もかからない距離。

遼は画面を見つめた。

九時三十一分に家へ着ける。

妻と子供たちに会える。

それで終わる。

まだそのときの遼は、本気でそう思っていた。

信号待ちで、会社のグループチャットを開く。

《黒いやつ、池袋にもいるらしい》

《動画回ってきた》

《これ本物?》

《警察撃ったって》

数秒おきに新しいメッセージが増えていく。

遼は返信欄を開いた。

《俺、今見た。人じゃないと思う。今日は会社行かず家戻る》

送信。

すぐに既読が三つ付いた。

《マジですか》

《社長連絡つかないです》

《俺も戻った方がいい?》

遼は最後の問いを見た。

自分に判断できることではない。

それでも指が動いた。

《少なくとも近づかん方がいい》

送ってからスマートフォンを置いた。

前の車が動き始める。

遼もゆっくりアクセルを踏んだ。

ラジオではアナウンサーが、同じ注意を何度も繰り返している。

目撃した場合は近づかないこと。

警察の指示に従うこと。

不確かな情報を拡散しないこと。

まだ言葉は整っていた。

まだ行政も、放送局も、道路も動いていた。

コンビニも開いていた。

信号も変わった。

人々は会社へ向かい、学校へ向かい、家へ帰ろうとしていた。

見た目だけなら、朝はまだ日常の続きだった。

ただ、その日常の中へ、説明のできない黒いものが入り込んでいた。

遼はバックミラーを見た。

もちろん、もう何もいない。

それでも反射的に天井を見上げた。車内から脚立は見えない。だが、その真上に何が載っているかは知っている。

車内からは見えないが、屋根のルーフキャリアにはアルミ脚立が固定されている。

さっきの黒いものは、自分を見ていたのではない。

あれを見ていた。

そんな気がした。

「まさかな」

自分で否定する。

アルミ缶と脚立。

共通しているのは、それだけだ。

偶然に決まっている。

そう思いながらも、遼はそのことを忘れられなかった。

そして一時間もしないうちに、その偶然をもう一度試すことになる。

その結果が、やがて警察へ渡り、研究機関へ渡り、国の作戦を変え、何百万人もの命を救うことになる。

同時に。

それよりはるかに多くの人間を、別の危険へ導くことになる。

だが午前七時台の遼は、そんな未来を知るはずもなかった。

ただ家へ帰りたかった。

妻と、二人の子供のいる家へ。


同じころ、戸田市内の別の交差点で、相沢健吾《あいざわ・けんご》はパトカーの助手席から道路を見ていた。

三十二歳。巡査部長になって二年目。交番勤務から地域課へ移って以来、朝の時間帯に処理するものといえば接触事故、通学路の苦情、酔客の置き土産くらいだった。

無線が途切れない。

『不審者との通報。黒い服装、顔面を覆っている模様』

続けて別の声。

『同様事案、美女木方面。通行車両を停止させているとのこと』

運転席の後輩が言った。

「イベントか何かですかね」

「朝七時台に道路の真ん中で?」

「迷惑系とか」

相沢は返事をしなかった。

無線の内容が妙だった。同じ特徴の通報が、数分の間に離れた場所から入っている。

「一件ずつ確認する。決めつけるな」

そう言った自分の声が、いつもの仕事の声に聞こえた。

それが少し安心だった。

妻からメッセージが来ていた。

《悠斗、熱下がった。今日は保育園行けそう》

五歳の息子だった。

相沢は《よかった。帰りプリン買う》と返した。

送信した直後、無線が一段高い声に変わった。

『至急。負傷者あり。黒色の不審者が人を襲ったとの通報』

後輩が相沢を見る。

相沢は無線機を取った。

「現在地から向かう。現場住所もう一度」

パトカーが赤色灯を点けた。

この時点で相沢は、自分がその日のうちに拳銃を抜くことになるとは思っていなかった。

まして、その一発が翌日の世界を変える材料の一つになるなど、知るはずもなかった。


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