エピソード9:日常
交際を始めた俺たちは、平穏な日常を送っていた。
時が過ぎるのは早いもので、季節は12月を迎えていた。
「佐倉課長、最近どうですか?」
昼休憩も終わり間近になり、デスクに戻るとサンドイッチを頬張りながら三浦が話しかけてきた。
「彼女ができた…くらいかな。」俺はそう答える。
途端、「えええーー!?」と声を荒げる三浦。
「声がでかい!」俺がそう言うと「す、すみません…驚いちゃって」と三浦が返す。
「もしかしてあの…前話してた例のメンヘラな女性ですか?」三浦が何故か、恐る恐る聞いてくる。
「そうだけど…?」と俺が答えると三浦は真剣な顔をして続けた。
「社内で課長狙いの女の子、多かったんですよ?自覚してます?」…と。
「え…?全く自覚無いが…。」そう答えると三浦は苦笑した。
「課長、仕事できるし顔もそこそこいいし…当然じゃないですか!」三浦が言う。
「なんだよ、もしかして三浦もその一人だったのか?」俺がふざけてそう言うと、「べ、別に…違いますよ!」と言って三浦は自分のデスクに戻って行った。
◇
ガチャリ、と合鍵で部屋の鍵を開ける。
「ただいま」と俺は部屋の奥に声をかける。
奈津美と付き合い始めて、変わったことが一つある。
それは俺が奈津美の家に居座るようになった、ということだ。
「おかえりなさい、悠斗さん」
奈津美は作業していたノートパソコンを閉じて、そう返してきた。
どうやら奈津美はバイトがない暇な時間、Web小説を書いているらしいとのことだった。
内容はエッセイ。
『自分の半生を振り返ろうと思って…』そう言っていたが恥ずかしいから、と頑なに俺にはその内容を見せようとしなかった。
奈津美は「ご飯とお風呂、どちらにします?」と俺に聞いてくる。
キッチンからはクリームシチューの匂いが漂ってきていた。俺の大好物だ。
「飯…でもいい?」俺がそう聞くと「もちろんです!」と奈津美は用意しにキッチンに向かった。
カップ麺だけでは栄養面が心配だった。
その為、食費は俺が出すから、という提案に最初は遠慮していた奈津美だが…夕食作りを奈津美が担当することを約束に了承を得た。
「うん、今日も美味いな。」俺はクリームシチューを一口食べてそう奈津美に伝える。
奈津美は少し照れたように「ありがとうございます!」と答えた。
俺は正直なところ期待していなかったのだが、奈津美はかなりの料理上手だった。
特に、奈津美の作るよだれ鶏は絶品で酒のつまみには最高だった。
「今日もご馳走様でした。」俺がそう言うと「お粗末様でした」と奈津美がにっこり微笑む。
「お風呂、お先にどうぞ。」俺は奈津美のその言葉に甘え、浴室に向かった。
◇
奈津美と付き合い始めて、約3か月が経っていた。
俺と付き合い始めてから…自意識過剰かもしれないが、奈津美は安定しているように見えた。
薬の管理と、精神科の付き添いは相変わらず続けていた。
奈津美の主治医は俺と奈津美が交際することに関して、『奈津美さん、心強い味方が出来て良かったね。』と微笑んでくれていた。
「あ、あの…悠斗さん」奈津美が問いかけてくる。
「ん?」俺がそう返すと「これ…」と奈津美が一枚のチラシを差し出してきた。
それは某コンビニのクリスマスケーキの予約用チラシだった。
「どれか…頼みませんか?せっかくだし…」奈津美は俺をチラッと見た。
「いいね。俺は甘党だからどれでもいいよ、どれにするかは奈津美ちゃんに任せる。」俺がそう答えると、奈津美の表情がパァっと明るくなった。
「了解です!予約しておきます!」奈津美は嬉しそうに言った。
クリスマス…か。プレゼント買わないとな。
俺は心の中でそう呟く。
それはまさに平和な日常だった。
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次回『奈津美の過去』へ続きます。




