第65話 キミに捧ぐ鎮魂歌
――200年後。
僕は、王都クロミアスを歩いていた。
街並みは結構変わり、近代化もかなり進んでいる。ほとんどが僕の知識、正確にはアルトワールが異世界で蓄えた知識だけど。
……それにしても色々あったなぁ。
僕は快晴の青空に想いを馳せた。
この200年間、本当に、本当にいろいろなことがあった。初めの10年が特に。
今やあの戦いは【黒白決戦】と呼ばれ、今も語り継がれる英雄譚となっている。
悪役が僕なのはまあ仕方ない。世界を滅ぼしかけたのは事実だから。
しかし、そんな僕も今やゼスマティア神王国の守護龍だ。
まさかアルセリオンと同じ立場になるとは。
隻腕の黒龍なんて呼ばれているが、それは本当にやめて欲しい。ヴェルナードに聞かれたら絶対に笑われる。
だけど。
僕がしでかしたことを清算する。
黒龍を厄災という存在ではなくす。
この二つの目的を果たすには黒龍を継いだ僕が規範となるのが一番の近道だったのだ。
幸い、僕には強力な協力者がいた。
それはアルセリオンとセリアだ。
彼女らとはあの後、すぐに和解している。
ルシア本人が許したというのが一番だけど、お互い、負の連鎖はここで断ち切るべきだという想いが強かった。
なにせあそこで断ち切らなければ黒白大戦は終わっていなかったのだから。
あとはアルストンを初め、神王国のみんなも協力してくれた。
驚いたのはアルストンが法を変えたことだ。
まず預言の巫女という名をアーシアで最後にすると布告した。
預言からの脱却だ。
先の一件で預言を信じすぎるのは逆に危険だとアルストンは王として判断した。
後から聞いた話だと即座に廃止するべきだ主に四方神将は提言したらしいが、主に貴族から大反発があったのだとか。
折衷案として、アーシアが最後ということになったらしい。
ちなみに、ヴェルナードを殺した張本人であるレオニールだが、僕は許した。
実際に元凶はアルトワールだし、言ってしまえばレオニールも巻き込まれただけだ。
だから許した。あの時は許したくなかったけれど。
なんだかんだ時が解決してくれた。
それも偏にレオニールが人一倍尽力してくれたからだ。きっとレオニールは根っからの善人だったのだろう。
今では素直に感謝している。
そんなこんなで僕が当初掲げていた目的は達成できたと言える。
そして行き着いた場所が、今見ているこの光景だ。
「……」
僕は再び街並みに目を向ける。
近代化した街並みの至る所に【鎮魂祭】という垂れ幕や看板が設置され、王都全体が賑わっていた。
行き交う人々の表情には笑顔が溢れている。
これはヴェルナードとアルトワールに鎮魂の祈りを捧げる祭事だ。
約150年前にようやく制定できた祭事で、それから毎年、ヴェルナードが亡くなった日からアルトワールが旅立った日までを期間としている。
僕はこの日が好きだ。
厄災だった黒龍が厄災ではなくなった日だから。
僕はそんな大好きな光景を見ながら、歩を進めていく。待ち合わせにはまだ少しだけ早い。
「♪〜」
するとふと立ち寄った聖堂から子供達の歌声が聞こえてきた。これは鎮魂歌だ。
この時期になると各所から聞こえてくる。
……毎年言っているけれど。
僕は聖堂に入り、祈っていた人々と同じように手を組み合わせた。
「キミに捧げるよヴェルナード。この鎮魂歌を――」
「レン!」
聖堂から出ると、手を振りながら駆け寄ってくる一人の女性がいた。腕時計を見れば待ち合わせ時間は少し過ぎている。
どうやら長居し過ぎたようだ。
「ごめん。待たせたかな?」
「いえ、私も今来たところです」
なんで定番のやりとりをしながら手を差し出す。
「行こうか。龍聖女さま?」
「もぅ。その呼び方はやめてください!」
なんて頬を膨らませながらも手を取り、握り返してきた。
毎年、この日は彼女と街を巡る。それが恒例だ。
だけど今年は、すこし例年と違っていた。
「――?」
遥か彼方。果ての地で、龍脈が大きく鼓動するのを感知した。そこは黒龍の生まれ出る土地、【黒闢淵穴】の方角。
つい顔が綻び、笑みが浮かぶ。
ようやくだ。ようやくこの日が来た。
「レン?」
「今年は予定を変更しよう」
手を引き寄せ、小柄な身体を抱き抱える。
そして僕は翼を大きく広げた。それで僕の意図が伝わったらしい。
「あぁ……。ようやく……会えるのですね」
「うん。だから、迎えに行こう」
ヴェルナードの遺言を果たすことができる。
これまで長かった。だけどようやくだ。
祝福しよう。新たな黒龍の生誕を。
そして僕らは飛び立つ。果てへと向かって――。
〜Fin〜
最終話まで読んでいただきありがとうございます!
これにてレンとヴェルナード、ルシアの物語は完結となります。
いかがだったでしょうか?
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