第五話:澱(よど)みの再会、赫(あか)き奔流
第五話:澱みの再会、赫き奔流
昭和三十九年。名古屋刑務所の高い塀の中は、外の世界の喧騒とは切り離された、灰色の時間が支配していた。しかし、十九歳の進にとって、そこは絶望の場ではなく、復讐の牙を研ぐための「揺籃」へと変わりつつあった。
雑居房の四人衆
進が割り振られた雑居房には、社会の底辺から弾き出された三人の男たちがいた。
辰造(たつぞう・40歳):
かつて尾張建設で源造と共に働いていたこともある、根っからの土木作業員。織田重工による強引な地上げで家を失い、酒に逃げた末の暴行で服役中。
正一(しょういち・30歳):
元・運搬手。織田重工の過酷なノルマに追われ、飲酒状態でトラックを走らせ大事故を起こした。自責の念と会社への恨みが同居している。
健太(けんた・20代):
小柄な身体を活かしたスリ。織田重工の幹部から財布を抜き取った際、偶然「ある機密文書」を目にしたことで、本来のスリ以上の重罪を着せられ送り込まれた。
「兄ちゃん、いい目をしてるな。まるで獲物を狙う野良犬だ」
辰造は進の鋭い眼光を気に入り、進が建築科で学んだ知識を話すと、現場の「裏の理屈」を教え込んだ。
「建物を壊すなら、支柱を叩くんじゃねぇ。基礎の『地盤』を腐らせるんだ。織田のやり方もそれと同じよ」
進は彼らと語り合う中で、父を殺したのが単なる一兵卒ではなく、この国を覆う「巨大なシステムの腐敗」であることを確信していく。
恩師との再会:言論の檻
そんなある日、刑務所の図書室で、進は信じられない人物と再会する。
理科教師の島田だった。
かつてのヨレヨレの国民服ではなく、囚人服を着た島田は、ひどく痩せこけていたが、その眼光だけは以前よりも鋭く燃えていた。
「先生……どうしてここに」
「進か。……ハハ、教え子と同じ飯を食うことになるとはな」
島田が捕まった理由は、技術者としてではなく「文筆家」としての活動だった。
昭和三十九年早春。愛知県豊田市周辺で、織田重工の労働環境と軍の弾圧に抗議する大規模な暴動が発生した。のちに**「豊田惨劇」**(この世界における光州事件に相当する惨事)と呼ばれる事件である。
軍は動力甲冑を投入し、非武装の労働者や学生を無慈悲に蹂躙した。死傷者は数千人に及んだというが、政府と織田重工はこれを「過激派によるテロ」として隠蔽した。
「私はその真実を、地下出版の雑誌に寄稿した。……『鉄の巨神が踏みつぶしたのは、テロリストではない。この国の未来だ』とな」
島田は静かに笑った。
「科学者が真実から目を逸らしたら、それはただの『屠殺者』だ。進、外はもう地獄だぞ。織田は軍と完全に融合した」
鉄格子の中の連帯
島田との再会は、進の復讐心に「大義」という燃料を投下した。
進は雑居房の三人に、島田から聞いた「豊田惨劇」の真実を伝えた。家族を失い、仕事を奪われた男たちの拳が、静かに、しかし固く握られる。
「進の兄ちゃん。俺たちはもう、ただの酔っ払いやスリじゃいられねぇな」
辰造が代表して言った。
「あんたがその『頭脳』で道を作るなら、俺たちはその『手足』になる。織田の野郎に、泥にまみれた俺たちの意地を見せてやろうじゃねぇか」
島田は進に、刑務所内の作業場で密かに手に入れた「織田重工製・動力甲冑の初期型回路図」を託した。
「進、これを暗記しろ。お前が学んだ建築の構造理論と、私の電子工学を組み合わせれば、あいつらの無敵の鎧に『穴』を開けることができる」
胎動
それから数ヶ月、進は獄中で三人の男たちを鍛え上げた。
辰造からは現場での即興の破壊工作を。
正一からは車両の限界を超えた操縦技術を。
健太からは、警備の網を潜り抜ける「指先」の技術を。
そして島田からは、敵を討つための「理」を。
昭和四十年。
進の出所まで、あと半年。
刑務所の外では、織田信長が「万博」の誘致を掲げ、更なる巨大開発を強行しようとしていた。
「親父、見ててくれ。俺はもう一人じゃない」
進は独房の壁に刻んだ図面を、自らの血でなぞった。
復讐のチーム、そして反逆の巨神の設計図は、完成していた。
次なる展開として、以下のようなことが可能です。いかがでしょうか?




