第壱拾肆話 悠久の場所
小坂の風間邸に辿りついた希輝達は、邸宅のチャイムを鳴らした。
「やぁ、お帰りと言った方が良いのかな?君達が此処に来てくれると信じてたよ」
その言葉に希輝は笑みを浮かべる。
邸宅の外観は先代当主の影響もあり、深緑の壁に黒い屋根と重厚感がある。門前には天使像が2つ存在しており、来客を歓迎してくれる。
中に入ると、先程とは打って変わり花柄のソファや可愛らしいクマのぬいぐるみが置かれているのを見るに家主である瑞稀の中にある男性性と女性性がこの邸宅に反映されているのが分かるだろう。
昨日は此処も敷島邸と同じく荒らされており、3人が向かった時もそうだったと記憶しているのだが今は細かい本や書類、宝石箱などの小物が散乱している程度で家具の配置は戻っているようだ。
「私も屋敷に戻った時、驚いてね。ただ、御堂を中心に使用人達が協力して今の状態まで戻してくれたんだ」
「アタシ達も朝、瑞稀さんの顔を見ようと思って此処に来たんですけど。チャイムを鳴らしても出ないし、それどころか屋敷の扉も空いてて可笑しいなって思って中に入ったんです」
「...そう言えば、此処って結構下町に近いんだっけ?使用人達はそこに避難したって事だよね?」
瑞稀はその言葉の後、近くの棚の整頓をしていた赤いエプロンの老婆に話しかける。先ほど話していた御堂の事だろう。状況説明をしてくれた。
「ほんまにもう大変だったんですよ!瑞稀様が夜いないんわいつもの事やけど、一昨日の夜は胸騒ぎがして。一回此処に来たんよ。でも、何も異常もなくて自宅に戻ったら次の日の朝、仲間に叩き起こされて。「お嬢様がいない!どうなってるんだ!」って散々詰められましたわ」
御堂は小坂の下町メンバーの中でも最年長であり、彼女含めて8人が下町で働いている。
敷島家の執事と風間家の乳母は下町界隈では有名で双璧を成す存在でもある。そんな彼女ですら戸惑う光景なのだから、同じく組織の最年長である浅間は彼女に同情していた。
「私も朝、希輝ちゃん達から聞いて本当に驚きました。先輩達に助けを求めましたけど。ご自身が年長者だとかなり厳しいですよね。混乱してる場合でもありませんし」
「せやから、住民だけでもと思って下町に避難させてたんですわ。瑞稀様、本当に申し訳ありません。これではご隠居された先代に顔向け出来ませんわ。貴女にもしもの事があったら...」
「良いんだよ、御堂。皆の協力のお陰で私は助かったんだから。先代もそれは十分理解してくださると思う。本当は勾玉を使って気配を遮断したかったんだけどね。尾行があまりにも硬くて隙も生まれないから使う暇すらも与えてはくれなかった」
勾玉の話を聞いて希輝は凛々しい瑞稀の格好と、それに反した可愛らしい家具類を見てある事に気がついた。
「あの、瑞稀さんがその姿になったのってつい最近ですか?と言うより、御当主になられてからですか?なんか、違和感があって」
「流石は聡明なお嬢さんだね。この家宝を守る為には弱々しい姿ではいられないと思ってこういう風に生きる事を決めたんだ。御堂は幼い頃の私を良く知っていると思うけどね」
「ほんまに可愛ええお嬢様でしたよ。今でも変わりませんけどね。うちにとってはいつもまでも、可愛い存在なんですわ。せやけど、後継者争いにご両親が巻き込まれてしもうて。瑞稀様を残して亡くなられてしまったんわほんまに...」
剣城は近くにあった棚の上に家族写真が置いてあるのを見つけた。
ただ、荒らされた時に写真立てが傷ついてしまったのだろう中央にいる少女を残してガラスが割れてしまっている。
「だからこそ、先代は申し訳ないと思って私を後継者に指名したんだ。亘も、理由は違えど両親を亡くしていると文通している時に知って仲良くなったんだ。敷島のお嬢さんは幼い頃から内気で、上手く友達も出来なくて孤独だった。本当に昔の自分とそっくりで、こんなにも同じ境遇の人もそうそういないと夢中になって手紙を書いたよ。本当に最近というか昨日まで相手の素性も知らなかったんだけどね」
「いいえ、とても素敵だと思います!きっと、3人は巡り合う運命だったんですよ。おっと、いけない!私達、下町に行かないといけないんです。と言うより、鯰をこの槍で突かないといけない。御堂さん、案内してもらえますか?」
そう言うと御堂は困った顔をした。
皆、首を傾げるが。次の返事が来ないので剣城が質問を投げかけた。
「何か困った事でもあるのか?」
「いやっ、せやな。ウチらの下町、ちょっと特殊なんよ。まぁ、他の所もそうなんやけど。余所者は受け付けない。ウチらや周辺住民は大丈夫なんやけどね。入れたとしても灼熱地獄。地面も砂漠みたいになっとるし。オアシスでもない限り無理やと思うけどな」
“オアシス”と言う言葉に希輝は反応し、ニヤニヤしながら白鷹の方を見た。彼は何かを察したのか、彼女から視線を逸らす。
「いや、良かったよ。望海達じゃなくてアタシ達で。大丈夫です。ウチには白鷹というオアシスがいますから安心してください。火災の時も凄い頑張ってくれて、実績は十分ありますから。灼熱地獄もへっちゃらです」
「...過労死しそう。浅間先輩、助けてください」
しかし、希輝の言う事も最もなのだ。この状況で最善の手は白鷹の【クロヨン】にかかっている。浅間は苦笑いしながらこの場を切り抜けた。
今回は瑞稀と希輝の出会いに類似して、作者が四季島と出会った時の事をお話ししたいと思います。
2人が出会った時に希輝が「お名前だけでも」と言ったと思うのですが、実際の作者も“一目惚れ”と後書きで書いたようにその通過して行った列車が最初四季島という事が分からなくて四季島の車体の色ってシャンパンカラーなんですよね。節子は白いレースのワンピースと描写をしているので異なっているんですよ。
ただ、その時作者は不規則な窓枠がレースのように見えてまるでウエディングドレスみたいだなと思ったんですよね。
通過した後、すぐさま検索をかけたんですがその時利用していた路線は特急列車が通るような路線ではないんですね。なんなら貨物も珍しい部類だったんですよ。基本、各駅停車で通過アナウンスも珍しいのでその時点で可笑しいなとは思ってました。
ぶっちゃけると武蔵野線なんですけどね。
検索にも引っかからないし、その日一日中調べてダメだったら諦めようと思ったんですがアナログ方式で大宮の鉄道博物館に行ったら模型とかないかな?と思って行ってみたんですよ。
ただ、四季島の模型ってないんですよね。「失敗したかな?でも折角きたし、お土産でもみようかな?」と思った矢先に四季島のグッズコーナー。キーマカレーとかコーヒーもそうですし、何より写真付きのポストカードがあって「これだ!」と名前を知る事が出来ました。
望海が節子を「美しい」と褒め称えるのも作者が実際にそう思ったからですね。その時の第一印象を忘れないでおきたいなという事で四季島のクルーの方は白い制服を着用されてるという事で矛盾はなさそうだという事で節子にはウエディングドレスのような格好をしてもらってます。




