第壱拾参話 袋の鼠
「ダメだ!情報少なすぎ!」
頭を抱え、項垂れる希輝達を見て案内人の2人は揃って苦笑いを浮かべた。
「出てきたのが、ネズミ1匹を飲み込んだという事ぐらいだからな。後はものすごい勢いで地下を駆け抜けて行ったという事ぐらいか。正直言って、俺達の方が袋の鼠だな」
その言葉を聞いて、白鷹はある“違和感”に気づいたのか?赤い目を見開きながらこう言った。
「...いや、ちょっとまって。なんでそもそも、怪物って地下を移動出来てるの?それ自体おかしくない?しかも、ほぼ迷わず最短距離で移動してるって事になるよね?」
その言葉に「確かに」とこれまでの行動を振り返りながらその中で解決案を希輝がポツリと呟く。
「白鷹の言う通りだ。この下町だって照明がないと移動出来ないのに怪物はなんで移動出来るの?普通の視力なら不可能だよね?なんか“特殊な目”でも持ってるの?」
「...特殊な目。あっ!?もしかして!愛さんやDr.黄泉と一緒って事?念力を目印に行動してる!だから、移動出来るのよ。言ってしまえば私達運び屋と一緒って事になる」
怪物が自分達と同じ分類の生物という事に対して、危機感を抱き始める。浅間は苦い表情を浮かべ、背筋を凍らせた。
鮮やかな赤い口紅でも誤魔化しが効かない程、彼女の唇は青ざめていた。
「凄いな。こんな小さな手がかりでそこまで分かりますか、普通?頭可笑しいとちゃいますの?やけど、お嬢。怪物が鯰言われてたんも良く分かりますわ。うちらの念力を餌にしてた言うんやから。だとしたらですよ?今、1番狙われるのって念力の量が多い人ちゃいますの?ほら、児玉はんとかもそうでしょ?あの人も中々敏腕やし」
大友や都筑では怪物が顔を出した。何故、そんな事をしたのか?と問われれば“餌”を探していた。そう捉えるしかないだろう。
「いや、本当にそうじゃん。隼もネズミが上手く囮になってくれたおかげで逃げられてるし。都筑でも真神が助けてくれたから鯰を撃退出来たって言ってた。多分、地下にずっといるせいで裸眼は見えてない。念力だけで相手を探ってるって感じなのかな?」
「近くに生態反応があればそれに飛びつくと言う事だろうな。これは厄介だぞ。無理に近づけない。因みに封印か仕留める。2つの手段があるようだが、封印の跡地のような物ってあるのか?」
「要石の事やね。確か、神宮に祀られてると聞いた事がある。相方はんが連れてってくれる言うてるから心配せんでもええけどね」
「お嬢、少しはご自分で仕事したら如何ですか?緊急事態ですよ?でも、幼い頃から言うとりましたもんね。絵本みたいに王子様と結婚してお姫様になるんやて。でも、お妃になってからが本番ですよ。耐えられます?遊び惚けてる場合やないんですよ」
「うっさいわ!乙女の夢を汚さんといて!うちは楽させてくれる王子様が欲しいんよ。と言うわけで、相方はん。後は頼みますわ。うちはここでのんびりさせてもらいます。迎えのカボチャの馬車こうへんかな?」
なんだかんだ言って仲睦まじい2人だなと思いながらまずは城の跡地に向かう事にした。
「これは中々痛ましいな」
剣城の目線の先には、以前使われていたのだろう木材や襖の残骸。
何かの家紋があしらわれた瓦屋根など、これが以前はとても美しく聳えたっていたのが用意に想像出来る程。歴史的価値のある物だと言うのが理解出来る。
「酷い有り様でしょう?実は、凄い偉い人が亡命先としてこの城に住んでたなんて言われてるですよ。似てたんですって、ここの城と以前住んでた城が」
「亡命って、何処からか逃げてきたって事?比良坂町の外から?」
その半年後、希輝達は夢の中でそれに類似する城を見る事になるがそれは少し先の未来の話である。
「...昨日、児玉さんが作ってた城とはまた違うみたいだね。何処から城の情報を仕入れたんだろう?本とか雑誌とか?」
「喫茶店もマガジンラックあったし、外から情報を仕入れたんだろうね。比良坂町の外にもこう言う城が沢山あるって事だ。じゃあ、もう一つの神宮の方にも行ってみようか?」
案内人に連れられ、今度は反対側の東側にある神宮に訪れた。
これ自体は地上に存在し、かなりの敷地面積のあり朱色の鮮やかな鳥居と社が特徴的な立派な神社だ。
「中々凄いでしょ?何度も焼失してもうて、歴史的な神社とは言えませんけど。広々してますし、広大なお庭もあるんですわ。要石はこちらです」
連れられた場所に赴くと、石らしき物は見当たらない。
希輝はキョロキョロと周りを見渡しているとふとこう言われた。
「あらまぁ、要石を踏まれるなんて随分罰当たりな事されますね。やっぱ、地上勤務の方は一味違いますわ」
「えっ!?」
動揺する希輝の足元には楕円形の石畳がある。
そのまま、手で少し掘り返してみると石には厚さがありその深さは計り知れない。
「もしかして、これが要石なの?どうしてこんな所に?」
「この石は元々、こう言う物なんですわ。昔、この側にあった役所の人も何度かきて採掘作業をしたんやけど何度も掘り直しても土に埋まってしもうて。このまま放置されてるんですわ」
「...じゃあ、もう。地面と一体化してるって事か。以前はこれを使って鯰を封印したって事で良いんだね?」
「その通りやけど、もう石も限界なんですわ。長い事使われてて、その機能が次第に奪われかけてる。違う手段を探さへんと」
そんな時、浅間の元に連絡が入る。相手は児玉からだった。
「はい、希輝ちゃんなら側にいます。今、洛陽の方を調査していまして。分かりました。直ぐに合流します。皆んな、児玉さん達が那古野からこっちに向かって来てくれるって。行きましょう」
案内人の助けを借りながら洛陽の集合場所に向かうと、まぁ驚くような光景があった。
無理もないだろう。零央が白銀の狼に乗り輝かしい手綱を持っているのだから。児玉の手には長槍があり、希輝は目を光らせた。
「児玉さん!それって!」
「旭から預かって来た。槍の使い手なら真っ先にお前が思い浮かんだらしい。那古野の下町で改修も施してもらった。なんでも、絶対に獲物は逃さない。放った後は自分の手元に戻ってくるそうだな」
「合流出来たのは良いのですが、私達も生田の方に行かなければならなくて。申し訳ありませんが、そのまま小坂の調査もお願い出来ますか?役割分担は必要ですし、皆さんなら必ず良い成果を持って来てくれると信じてますから」
その言葉に希輝は勿論、他3人も嬉しそうに頷く。
「任せて、元々そのつもりでここまで来たんだから。確か、瑞稀さんの乳母が小坂の下町を担当してるらしいんだよね。まずは風間邸に向かわないと」
二つのグループはそれぞれ、小坂にある風間邸。望海達は飛鳥や葵と合流する為、生田へと向かう事になった。




