チーム
「東の森にも遺跡はいくつかあるけど、そんな入り口は聞いたことがないさね」
フェルド村に帰る前にチームの話を聞いていこうとギルドに寄った。
丁度受付にレダさんが座っていたので、昨日見つけた遺跡のことを聞いたのだがレダさんは知らないようだ。
「東の森は北の山脈に向かって地下に大きな遺跡が埋まっていてね。元々はその逆で、霧の山脈の方から拡張されたんじゃないかと言われているさね」
「聞いたことなかったです」
「D級冒険者では地下遺跡まで行くことはないさね。町から近い場所に見つかったということは、ギルドが把握していない遺跡がまだ眠っているのかもしれないが……」
レダさんの一言で決めるわけにもいかないので、領主様側の担当者を呼んでどうするか会議で決めることになるようだ。
念のため調査することになるだろうという話だった。
「確認後になるが、発見に対しての報酬が支払われるかもしれないさね。何日かすれば何かしらの結果が出るだろうし知らせるよ」
「分かりました。それとC級になったのでチームの説明も聞いておきたいのですが」
「もうC級かい? 予想以上に早いさね」
今日はチームの説明を聞きに来るのがメインだったのでわたしたちのカードを出して見せていない。
受付からレダさんに伝わったりはしていなかったようで、目を丸くして驚いている。
「そうさね、遺跡の場所も詳しく知りたいから部屋の方で説明するよ」
その後、地図を見ながらレダさんに遺跡の場所を詳しく伝えた。もちろんリルファナが。
わたしとクレアは採取しながら付いていっただけなので正確な位置までは覚えているわけがなかった。
チームとは、冒険者同士が作る共同組合みたいなものだそうだ。
ゲームではギルドと呼ばれることが多いシステムで、セブクロでもそのように呼ばれていた。
ギルドと呼んでしまうと冒険者ギルドや商人ギルドとかぶってしまうため、この世界ではチームと呼ぶようになったらしい。
300年ぐらい前に出来たことも分かっているようなので転生者絡みだろう。
チームの活動は様々で、パーティとあまり変わらず常に一緒に活動する数人規模の小さなチームから、国をまたいであちらこちらで活動している大所帯のチームまである。
チームに所属すると、全員に共通してギルドカードにチーム名とチームの紋章が記載され、チーム用の口座を開設出来るようになる。
またチームには連絡先の住居の登録が必須で、そこをメンバーと共有していることも多い。
チーム登録のために、借家の個室などを登録しているだけの小さなチームもある。
その場合、生活のために部屋を共有するのは難しかったりするが、そのようなチームはメンバーを増やすことに積極的ではないのであまり気にしなくても良いだろう。
その他のメリットはチームごとに決められているので様々となるが、知名度のある大きな組織であれば後ろ盾になってくれることがあげられる。
初対面の相手でも「いつも頼んでいるあそこのチームの人なら安心だ」とか「あそこのチームの所属員に何かすると報復されるかもしれない」となるわけだ。
小さなチームだとそれほどの利点はない。
ゲームのようにチームメンバーで使えるチャットシステムとか、チームで挑戦するクエストみたいなものは無いだろうし仕方ない。
数人程度の、パーティとあまり変わらないようなチームでは、メンバーに何かあったときのためにチーム口座にお金を貯めておく場合もあるらしい。
一般的なチームは大規模戦闘が行えるように、4つか5つぐらいのパーティが組める規模にしていることが多いようだ。
これは大体20人から30人ぐらいとなる。
パーティ人数は、ゲームじゃないので制限はない。
しかし、1人の指示役が戦闘中に無理なく動かせる範囲が、多くて5人ぐらいまでと認識されているそうだ。
1パーティは指示役を含めた6人までという暗黙の了解があるらしい。
これは報酬の分配も関係していると思う。分け前が少なすぎると生活が出来なくなるわけだ。
もちろん7人や8人でパーティを組んでいても珍しいと思われるだけで問題は無いけどね。
「チームへの加入はギルドで出来るよ。メンバーの追加権限を持った所属先のメンバーと受付に書類を渡せば良いだけさね」
「チームから抜けたいときはどうするんですの?」
「抜ける場合は、本人だけ来てチーム脱退用の書類を出せば良い。ただチームを外れたあと3ヶ月間は他のチームに加入出来なくなる」
「結構長いんだね」
「表立ってやるわけじゃないが大きなチーム同士の抗争みたいなこともあったりするからね。優秀なメンバーの引抜きや、依頼の専有が多いかね」
「なるほど」
「他の冒険者やギルドへの被害が無ければ、チームに対してギルドから口出しすることはないがね」
うーん、ゲームでのギルド同士の戦争とかの小規模版みたいなものなのかな。
「まあ、ギルド側も町に所属しているチームの動向はしっかりと把握しているし、少なくともソルジュプランテ国内では酷いチームはいないから気にする必要はないよ。ミーナちゃんたちは優秀だからどこかから勧誘されることはあるかもしれないけどね」
「父さんとの約束もあるし、すぐにチームに入ることはないかな」
わたし、クレア、リルファナのパーティを解散しないという約束があるから、他のチームに入ってばらばらにされるかもしれないという事態は避けたい。
そもそもわたしの最終的な目標は世界を旅することなので、どこかに所属するという気も無いけれど。
「そうさね、もしチームに興味があるなら自分らでチームを作ってみるとか、聞いてみないと分からないけどアルフォスのところに入れてもらうのも良いんじゃないかね?」
A級冒険者だし、アルフォスさんたちはチームを作っていても不思議じゃないか。
「アルフォスのところは、変わってなければ7人か8人のチームだった気がするね」
「え、3人じゃないんですか?」
「ああ、2つのパーティで活動しているはずだよ。一応ギルドマスターの立場もあるから、それ以上は本人たちに聞いて欲しいさね」
遺跡調査も蜘蛛騒動のときも3人だったから、他のメンバーもいるとは思わなかった。村に帰ったら父さんに聞いてみよう。
あとはレダさんの家の使い心地の話や、作った武器を見せたりした。
霊銀の剣はマジックバッグにしまいっぱなしで忘れてたから出さなかったけど。
何日かフェルド村に泊まってくると伝えて部屋を出た。
◇
ギルドマスターの部屋で予想していたよりも長く話しこんでいたせいで、広場のお弁当を買いそびれてしまった。
「お姉ちゃん、ミートサンドの持ち帰りを買っていこうよ」
「持ち帰りなんてあったっけ?」
「あら、そんなサービスが!」
「最近始めたらしいって聞いたよ」
クレアはどこから聞いたんだろう?
最近は空いた時間に1人で図書館や買い物に行ったりもしているし、そのとき聞いたのかな。
ミートサンドのお店に行ってみると、本当に持ち帰りもやっていた。
まだ午前3の鐘が鳴った直後なので、店内で食べられず持ち帰りのみだそうだ。
「じゃあ帰ろうか」
「うん!」
「お土産も買いましたわ」
醤油も買っていこうと聖王国のアンテナショップに寄ったのだけど、わたしが冬の市で買ったせいなのかソースも少量取り扱うようになっていた。
他にも母さんが使いそうな糸や生地なども買ったし、ミニエイナで買った調理道具もある。1ヶ月分のお土産としては随分あるだろう。
父さんは町に来なかったのか、すれ違ったのか分からないけど、町では会わなかったから3週間ぶりぐらいになるかな。
「外で食べるにはソースが多すぎないかな、これ」
「お姉ちゃん、逆からこぼれてるよ!」
「あらあら」
ミートサンドは外では少々食べにくかった。改良を求む……。