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駆け出し冒険者講習 - 午前

 午前3の鐘がなる少し前に冒険者ギルドに入って、先に雑貨屋でリルファナの筆記用具を買っておいた。


 この世界(ヴィルトアーリ)では、鉛筆かインクを使うペンが主流だ。消しゴムは存在しないようだが、わたしは鉛筆の方をよく使っている。

 使い続けるならインクの方が安いみたいだけど、使い慣れてないので書きにくいのだ。シャーペンかボールペンが欲しい。


 2階の酒場兼食堂に入ると、端の方にテーブルと椅子が並べられている。駆け出し冒険者講座、受講希望の方はこちらと書かれた札がかかっていた。


 席には成人になったぐらいに見える4人と未成年に見える少女が1人座っていた。講習希望者なのだろう。


 真ん中に男2女1の知り合い同士らしき3人。全員がまだ新しいぴかぴかの武器と革鎧を身に着けている。


 前の端の方に未成年に見える少女が1人、テーブルに杖を立てかけてじっとしていた。冒険者は12歳からなれるので未成年でも変なことではないが、1人なのが少し気になる。


 やや離れた後方の席にそわそわしている少年が1人。見るからにガキ大将という印象だ。こちらは壁際に両手剣を立てかけていて、古びた革鎧を着ている。わたしたちと同じ、講習希望者なら親や知り合いのお古なのかもしれない。


「いっぱいいますのね」

「そうだね、毎週やってるからわたしたちだけでもおかしくないと思ってた」


 午前3の鐘がなってから少し経つと、昨日講習の時間を教えてくれた受付の人がやってきた。


 わたしたちも空いてる席に並んで座る。必要そうなことはメモっておこうと筆記用具を出した。

 リルファナも買ったばかりの鉛筆と紙を出す。


 他の人は何も用意してないようだ。

 筆記用具と紙が無いとなんとなく落ち着かないのは、学生だったころの癖かもしれない。


「ギルド職員のアゼイリアと申します。本日は講習に参加いただきありがとうございます。午前は冒険者ギルドの基本的な講義となりますがよろしいですね?」


 5人が頷くのを確認するとアゼイリアさんは説明に入った。


 まずはランクについて。


 ギルドのランクはE級から始まり基本的にはA級の上のS級まで。S級は特別な功績が必要になるので実質A級までと言える。

 ランクの昇級は依頼ごとに定められたB級まではポイント制、ギルド側が勝手に処理してくれるらしいので失敗しないように、成功を積み重ねていけば自然に上がっていくらしい。

 B級になってからは、それに加えて人柄やどのような依頼をこなしているのかなど細かい審査が入る。


「それと昇級については注意点があります。各ランクで必ず討伐依頼、採取依頼、護衛またはその他枠の依頼を受けていただきます。これを満たさないと他の条件を満たしていても昇級されることはありませんのでご注意ください」


 討伐依頼は、指定された魔物や動物を倒す依頼。戦闘の実力が必要となる。


 採取依頼は、鉱物や植物を持ち帰る依頼。知識や必要なものを探すための対応力が分かる。


 護衛依頼は、対象を指定された場所まで護衛する依頼。この依頼で、コミュニケーション能力を見るということのようだった。

 その他の枠の依頼はこれらに分類出来ないもので、依頼主に詳細を聞きに行く形になることが多く、そのような依頼も該当するとのこと。


 また、依頼主が直接採取に行くので護衛して欲しいといった複合型の依頼の場合は、ギルド側が判断するそうだ。両方に該当する依頼となればまとめて条件を満たせるらしい。


「尚、受けていない依頼の種類は教えられますが、昇級までのポイントの詳細は個別にはお答えできませんのでご了承ください。『あと半分ぐらい』や『もう少し』などとぽろっとこぼしてしまう職員も多いですけどね」


 アゼイリアさんが苦笑する。そのぐらいはセーフということかな。


「依頼の受け方ですが、ギルドの依頼ボードに依頼票が貼られています。依頼票には、受注するために必要なランク、依頼の種類、内容、期限、報酬、注意事項が書かれています」


 依頼票のサンプルを取り出してグループ別に1枚ずつ配ってくれた。


「受ける依頼がありましたら用紙をボードから取り外して受付に持ってきてください。このとき四隅が留められた依頼の用紙は、制限の無い討伐依頼や採取依頼などになりますので受付の必要もありません。各自で詳細を確認するだけで構いませんが期限にご注意ください」


 貼られている依頼は受付で受注するものと、勝手にやっていい2種類があるということだね。


 もし、依頼を失敗した場合は、違約金が発生する。前払い料金の3倍となっているらしい。前払い料金が無い場合は支払いは不要。ただし、昇級に響くことになる。

 違約金を払えないとギルドから融資を受けることになるが、あまりに酷い場合は借金から奴隷になる可能性もあるので注意が必要とのことだ。


 その他に、依頼の途中で内容と違ったら無理せずにギルドへ報告すること。状況にもよるがこの場合は依頼失敗にはならないとのこと。

 また依頼主と話がこじれた場合も、冒険者側に非が無いことが分かればギルドが請け負ってくれるらしい。


 依頼主に報告するものは、証明書に依頼主から依頼完遂のサインを貰って提出。ギルドに報告するときはそのまま受付へ。

 採取物を渡す場合は、買取のカウンターに行って渡したあとに証明書を貰えば良いとのことだ。


「ギルドを通さない仕事については何があってもギルドは一切関与いたしません。ポイントにもなりませんし自己責任でお願いします」


 全体的に小説ラノベにはよくあるパターンと言って良いだろう。

 正直、セブクロの冒険者ギルドには加入していなかったので、ゲームと同じシステムなのかは分からない。リルファナも知らないそうだ。


 他に、D級までは1人で活動しても問題が発生することは滅多に無いが、安全面を考えると2人か3人でパーティを組むことを推奨しますだそうだ。パーティ募集は依頼の貼ってあるボードの横に専用のボードがあるらしい。


 ギルド内の施設の使い方や、ギルドカードについても教えてくれたが、登録した日にレダさんや換金したときに窓口の人が教えてくれたことと同じだった。一応メモはしておいたけどね。

 その他にも冒険者同士でチームを組むといったシステムがあるようだが、C級ぐらいにならないと使わないそうなのでこの講習では割愛された。


 ギルドのポイントは、古代の秘宝(アーティファクト)によって全国で共有化されているらしい。

 この辺りは「どうやって?」と言いたくなることもあるが便利ならそれで良いことにしておこう。突っ込んでもそうなっているのだから意味はないのだ。


 日本での通信設備や精密加工のようなものは古代の秘宝(アーティファクト)が関与していることが多いようだとリルファナが言っていた。それ以上は国家機密なので分からなかったらしい。


 ……気になって調べた(つっこんだ)みたいだね。



「それでは、これで午前の講習は終わりになります。午後の講習は午前4の鐘が鳴ったら始めますので受講する方は、ここに集まってください」


 午前の講習が終わり、お昼を食べにいくことにした。久しぶりに大学の講義が終わったような感覚だ。


 ここで食べても良いみたいだけど、酒場の方は講習中はやっていないようだし、お弁当も買ってこなかった。

 何人かの冒険者が2階にやってきて、今日は休みだったかと言い合いながら帰っていくのも見えた。


 一緒に講習を聞いていた人たちは、3人組は外で食べてくるようで酒場を出て行った。少女はお弁当を持ってきたようで取り出している。

 少年はこういう場に慣れていないのか疲れたようで、受付の人が出て行った途端、机につっぷして寝てしまったようだ。


 この世界(ヴィルトアーリ)では職業によってはお昼を食べない人もいるので、そういう家の子なのかもしれない。

 農家や大工などの力仕事をする人たちは栄養が足らなくなるだろうし、休憩も兼ねて食べる人が多いという印象かな。


「お姉ちゃんもリルファナちゃんもメモしてたから、難しいことを言われるのかと思ったよ」

「メモを取るのは念のためだからね」

「それに、3日後にいきなり説明してくださいと言われたら意外とちゃんとは覚えていないものですのよ」

「そ、そうなんだ。書いておいた方が良いかなあ?」

「あれぐらいならギルドで仕事をしてるうちに覚えそうだから大丈夫だと思うけどね」


 話しながら適当にギルド近くの新しそうな店に入った。

 入ってメニューを見てから気付いたが、野菜料理が中心のようだ。


「フェルド村の野菜らしいよ、リルファナちゃん」

「あら、ほんとですわ。このオススメメニュー、先週辺りに近所の家と一緒に出荷した野菜と同じ種類ばかりですわね」


 最近はいちでもないのに商人さんが来ることがあったけど、町の野菜ブームはここまで来ていたのか。


 定食になっているようで、おかずを頼むとご飯とスープ、飲み物が付くようだ。


 わたしは鶏肉とナスの炒め物を頼んだ。クレアはひき肉とピーノ(ピーマン)の炒め物。

 リルファナは野菜炒めにしたようだ。注文時に肉多めと言っていた。リルファナはぶれない。

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