遺跡調査 - 4日目
わたしたちが遺跡調査に加わって4日目。
今日の調査は昨日ギヨームさんがメモしていた場所の調査だ。
ギヨームさんのメモを見ると、妖精の魔法陣で閉じていたのは各通路の行き止まり、階段付近のようだった。
洞窟の方は、遺跡の調査とは別扱いで調査することしようか検討中らしい。
「僕は見張り役の人を借りて、昨日ミーナさんが入ったところを調査してきます」
新しい装置が見つかったので、ケレベルさんも調査に行くことになった。
遺跡を調査する冒険者のパーティは、わたしたちとドゥニさんたちの2つしかない。
そのため、ケレベルさんの護衛に回ってしまうと調査するパーティが1つになり、調査の効率が半分に落ちてしまう。
そこで、たまにウルフが寄ってくることがあるぐらいで大した危険もなさそうということもあり、4名いる拠点の護衛のうち2人を借りることにしたようだ。
ドゥニさんのパーティは右の通路、次に正面の通路の先を調べるらしい。
わたしたちは左の通路の階段付近を調べに行って、時間があればケレベルさんと合流することになった。
全員でまとめて移動すると入り口の階段で詰まってしまうので、パーティごとに少し時間を空けて出発する。
ドゥニさんのパーティ、わたしたち、ケレベルさんの順番だ。
◇
左の通路に行くならば、と先に魔石に残った魔力の残量を見にいくことにした。3日経ってもパネルの表示は19%のままだった。随分余裕がありそうだ。
わたしたちの調査が終わっても、ギルドではしばらく調査を続けるだろうし途中で切れたら困るだろう。
ポーションまでは飲まないけれど、今の魔力ぐらいは追加しておくことにした。
供給モードにして、パネルに触れたところ最初のように魔力が吸われていく。そのまま待つと半分魔力を持っていかれたところで止まった。
クレアとリルファナも供給しておくと触れていた。
パネルで確認したら3人で3%ほど増えたようだ。
魔力の残量の確認と、供給の方法は分かっているはずなので、調査中は定期的に供給した方が良いことは伝えておこう。
魔石への魔力の供給が終わったら、ギヨームさんの書いたメモの場所へと戻る。
左の通路を突き当たった階段の横で、妖精の魔法陣が描かれていた。
汚れて掠れたようになっていて見にくいが、ギヨームさんはしっかりこの魔法陣に気付いたようだ。
「わたくしでも開けられるようになってますわね」
リルファナが扉に触れると魔力が一瞬輝いて、扉が開いた。
扉の先は階段の下を突っ切るように短い通路があり、先の部屋へと繋がっている。
「お姉ちゃん、リルファナちゃん、こっちは棚がいっぱいあるよ」
「こちらは何も入っていませんがロッカーのようですわ」
わたしが調べているところには1メートル四方ぐらいの箱のようなものがいくつか積んであった。箱には1つの面に取っ手がついている。
「これは……、金庫かな?」
「トラップの類はありませんわね」
念のためリルファナに罠がないか見てもらってから開ける。
鍵はかかっていない、というより鍵穴が無かった。金庫ではなさそうかな。
中には何も入っていないが、左右の面には部品が這わせてあり回路のようになっていた。更に、扉の内側に魔石が設置されている。
「魔道具みたい」
転生者が開発し、今も作られている魔導機とは違い、古代文明の道具である魔道具は使い方が分かりにくい。
多分、この魔道具も魔力が切れているのだろう。避難所に危険なものを置いていないだろうし、少しだけ魔力を注いでみることにした。
「お姉ちゃん、なんだか涼しくなったよ」
魔力を魔石に込めたところ、どうやら冷気が左右の面から出るようになった。
「なんだろう?」
「冷蔵庫ですわね」
「なるほど……」
冷蔵庫は魔導機でも存在し町なら知れ渡っている物だが、わたしが知っている日本の冷蔵庫に比べると圧倒的に小さいし、密閉性も低いので冷気が少し漏れる。
そのせいか電池の消費が激しいので、大型の食品専門店や料理屋でもないとあまり使われていない。
電池に魔力を直接入れることは出来ないので、一般家庭で使うには維持費がかかりすぎるのだ。
「軽いから持ち運べそうだし、持って帰ろうか」
このサイズだとマジックバッグには入らないが、冒険者のルールなら持ち帰っておけば報酬として貰えると思う。
どの程度の時間、どのぐらい冷えるのかは調べないといけないけど、食材を入れておけるなら家に置いておきたい。
今は依頼を受けに行っている間に、食材がダメになりそうで多めに買っておけない。
それに遅い時間に帰ってくると、24時間どころか夜遅くまで営業している店なんて無いので買い物も出来ないのだ。
ここにある冷蔵庫を全てを持ち帰るのは難しいので、動いたものを1つだけ運ぶことにした。
◇
階段まで戻る、地下への階段前には木の板が立てかけてあった。
「まだ立てかけてありますわね」
ケレベルさんたちとすれ違いにならないように、調査中は階段のところに木の板を立てかけてもらうようにしたのだ。
冷蔵庫は木の板と同じ場所に置いて、ケレベルさんたちが調査している下の階へ向かった。
「それでは我々は先に戻りますね」
わたしたちが到着すると護衛の2人は先に帰らせた。ここに5人もいても仕方ないからね。
「あ、ミーナさん、すみませんが読んでもらえますか? なんだか分かりにくくて」
どうやら装置の解説は独特な単語が多くて解読しにくいらしい。
使ったことも無い機械の説明書が、見慣れない言語で書かれていて、それを辞書片手に読んでいるようなものなのだろう。
「なるほど、これがこの施設のメインとなる装置なのでしょうね」
しばらくわたしが翻訳しながら、ケレベルさんが装置を確認する。
別パネルの扉をロックしてしまうボタンも教えておいた。
クレアはお腹が空いたのか、マジックバッグから保存食を出してリルファナと一緒に食べている。
「お姉ちゃんとケレベルさんも食べる? もうお昼過ぎてると思うよ」
「いただきます。ありがとう」
腹時計がぴったりのクレアが、お昼過ぎだというならそうなのだろう。
ケレベルさんがクレアから保存食を受け取ったので、わたしも食べることにした。
「研究中だと、朝昼晩と片手で食べられるもので済ませながらなんてことも多いですよ」
ケレベルさんは食べながらもメモを書いていた。
別に食べるときぐらい休んでも良いんじゃないかな。
その後、全ての機能が分かったところでケレベルさんも納得したようで拠点へと戻る。
随分と詳細に聞かれたので時間がかかってしまった。翻訳が面倒だから、わたしから聞いてしまいたかったのかもしれない。
「おや、これは?」
「冷蔵庫の魔道具だと思います。いくつかありましたけど、とりあえず1つ運んできました」
階段を上って妖精の魔法陣の扉まで戻ってくると、置いてあった箱にケレベルさんが気付いた。不思議そうな顔をしている。
「おお、そうなのですか! これは後で調べたいですね」
ケレベルさんの目が輝いた。専門だからこちらの方が興味あるのだろう。
冷蔵庫を持って拠点に到着すると、すでにドゥニさんたちも戻っていた。
使ったランタンから考えると、とっくに午後1の鐘は過ぎていて、もう4時半頃だと思う。
お昼は保存食を齧っただけなので、少し食べてからギルドの職員さんも交えた報告会となった。
ドゥニさんたちの調べた部屋も倉庫だったようだ。
実際に物資が置いてあったわけではないが、棚などの形から食堂側は食材、病院側は薬品を置く倉庫になる予定だったのではないかということだった。
「それとこれも見つけたわ。何に使うか全然分からないものが多いけどね」
いくつか魔道具も見つけて持って帰って来たようで、ネリィさんとアムディナさんが鞄から出した。
「こっちのは製薬のための道具だと思う」
アムディナさんが魔道具を出しながら追加した。アムディナさんは話しかければ短い返事はあるけれど、長く話そうとはしない。ネリィさんが言うには照れ屋なだけらしい。
明らかに鞄より大きさな魔道具を出したので、アムディナさんの鞄はマジックバッグのようだ。
「おお、そちらにもありましたか。これは楽しみです」
ケレベルさんがやる気を出していた。
こちらが見つけた冷蔵庫も紹介したあと、今日のまとめになる。
地下の施設がメインの装置であること。
見つけた妖精の魔法陣の先はすべて倉庫であったこと。
いくつかの魔道具を見つけたこと。
そのぐらいだろうか。
「よし、これで施設の調査はほぼ完了としても良いでしょう」
メモを取っていたギルドの職員さんが宣言した。
洞窟の方も別扱いで調査すると決定したが、遺跡調査の依頼としてはここで完了とするらしい。
もちろん続けて洞窟を調査したいなら優先的に参加させてもらえるようだ。
今日中に残っている冷蔵庫などの魔道具を回収して、明日になったら町に戻ることになった。
報酬の細かい話もレダさんに報告したあとに行うとのこと。
洞窟は単に天然の洞窟につながっていただけに見えたし、入り口を掘り起こすのも面倒そうだ。
クレアとリルファナが興味無さそうなら受けなくても良いかな。