遺跡調査 - 階段
少し遅いお昼を済ませた後、何か見落としがないかと再調査することになった。
わたしたちは遺跡の階段を下りた丁字路に立っている。
ドゥニさんのパーティは正面通路の先などまだ見ていない場所を調べに行くと別れたところだ。
「うーん、どこから調べようか」
「この形なら十字の通路になっていても変じゃないですわね」
「お姉ちゃん、リルファナちゃん、もっと下の階があったりしないかな?」
という意見が2人から出たのでこの辺りを調査することにした。
リルファナの探索スキルがあれば隠し部屋などを発見することが出来る。
しかし、このスキルで何でも100%発見可能なわけではなく判定があるようだ。それに移動しながらの調査ではよっぽど粗末な仕掛けでもない限りは見逃してしまうそうなので怪しい場所がある場合はしっかり調べる必要がある。
探索スキルの判定に成功すると感覚的に、どのような仕掛けか分かるとのこと。
調理スキルでも似たようなことが出来る。レシピを知らなくても、これが作りたいと思えばなんとなく料理できてしまうということと同じだろう。
リルファナは、後ろに向かう通路もある十字路なのではないかと壁を調べている。
「一見石のような素材ですが、実際は何か加工が施された物質のようですわね」
よく見ると壁には彫刻のラインが入っているが、特に魔力などを感じないのでただのデザインのようだ。
わたしは探索スキルが無いので壁に触れてみたり、叩いてみるといった方法で調べるしかない。
実践を繰り返すことで探索スキルを獲得出来るかもしれないので、こういう行動も無駄にはならない……と思いたい。
クレアはランタンを掲げて階段の裏側を覗いていた。照明の陰になっているので、少し暗くなっている。
「お姉ちゃん、この辺りだけ壁の模様が違うよ」
「どれどれ」
階段の裏側の彫刻は、ただのラインではなく非常に細かい模様になっていた。
「魔法陣にも見えるけど、魔力は感じないね。……でも不思議な感じがする」
クレアは杖でこんこんと叩いてみるが特に変化はない。触れても何も起きなかった。
「んー?」
クレアは魔力を感じないと言ったが、なんだか違和感があったのでじっと見ていると、徐々に魔力のきらめきが見えてきた。
普通の魔力よりも、属性も無く薄らとだけ感じる不思議な魔力だ。
「何かありましたの?」
壁を調べていたリルファナもこちらに寄ってきた。
「階段裏の彫刻に魔力があるんだけど、リルファナには見えない?」
「見えませんし、何も感じませんわね」
「うーん、なんか不思議な感じ」
クレアはよくわからない感覚があるようで、首をひねっている。
リルファナに見えなくて、クレアは何となく違和感を覚えるもの。
「妖精関係の魔法陣かな?」
わたしが魔法陣に触れると、魔法陣が輝いた。
普通の魔法陣と違って、少しだけだが勝手に魔力を持って行かれたようだ。
ギギギッという鈍い音がして、彫刻のあった場所が半分に割れて開いた。
更に下へと下る階段が見えている。地下にも照明があるようで先の方は明るい。
「こんなところに階段が……」
リルファナを先頭に階段を下りていく。
階段を下りる途中、ドアが勝手に閉まったが内側からは誰でも開けられるようだった。
下の階は、1本の通路が真っ直ぐ続いている。上の階層の正面通路と同じ方向だ。
左右には会議室や食堂のようなテーブルの並ぶ大きな部屋、棚のたくさんある部屋が続いている。
大部屋の並ぶ通路の奥には扉があった。
ここにも彫刻で魔法陣が入っていたが、わたしが触れると簡単に開く。
ヴィルティリア文明の技術には、妖精が関係している何かがあるのだろうか?
わたしが扉を開けられるのは、単純にセブクロ時代に魔法戦士専用のクエストを進めていたからだろう。
妖精の国に招待されるほどは進めていなかったけれど、何人かの妖精とは仲良くなっていたし、報酬で妖精の祝福というアイテムでも、スキルでも、称号でも無いよく分からないものを貰っていた覚えがある。
あの頃は世界観の説明をするためのものなんだろうという認識だったけど、クエストをやっていて良かったと思う。
部屋の中に入ると、今までとは比較にならないほどの大きさの部屋だ。
「すごく広いですわね」
手前に大きなテーブル。部屋の奥は数段の階段があり高さに違いがついている部屋だった。段の上からは更に2部屋繋がっているようだ。
避難所のリーダーたちが会議するような部屋だろうと思う。
テーブルだけで椅子や道具が無く部屋の密度が低いせいか、とても寂しげに感じる部屋だ。
「倉庫や会議室もありますし、避難所に不足しているのでないかという部屋はほぼ揃っていますわ」
2部屋も調べてみると、片方は何も置いていない部屋で物資などを置く部屋のように感じた。
もう1つの部屋にはベッドと机、数枚の書類、パネルがあった。ここがリーダーの部屋なのだろう。
「パネルは何か表示出来るかな?」
わたしが触れてみると、パネルには様々な文字が表示される。
このパネルは生きているようだが、どうやら数千年か、数万年か、それ以上という長い時間を魔力切れのまま放置されてしまっていたせいで、データがリセットされてしまっているようだ。
近くには「ロック:通常」と表示されている別のパネルがあった。ヘルプの項目から調べると、これをオフにすれば階段や、この部屋の入り口を誰でも開けられるようになるらしい。
逆に閉鎖というモードにすると、出入りが完全にロックされたり、緊急というモードにすると出入りどちらとも登録者しか開けられないようだ。
わたしがいないと開けられないのは不便すぎるのでロックをオフにしておく。
更にヘルプを読み進めると施設の概要なども確認出来た。
やはりここは昔の避難所で正しいようだ。
装置がリセットされてしまってるので確実ではないが、この施設は1度も使われた形跡がない。
ただ、いずれ使う必要があると確信して辺境のここに建築したというような書き方の1文があった。
ヴィルティリア時代の人から見ると、この付近は僻地だったようだ。
「お姉ちゃん、これってヴィルティリア文明が滅びた原因を、当時の人が予知していた証拠になるかもしれないよ」
「ええ、歴史家から見ればすごい発見ですわよ」
ヴィルティリア文明については今まで何も分かっていなかったようだし、本当に大発見になるだろう。
ヘルプを眺めていると、わたしたちが見つけた休憩所や食堂、病院といった通路の末端の部屋同士は転移の魔法陣で繋がっていることも書かれていた。通路が崩落したときの避難経路を増やす意味もあるらしい。
妖精の魔法陣については詳しいことは書いていなかったが、重要な区画を分けているのは内部での反乱対策でもあるようだった。
隣の空いている部屋は倉庫でもあるが、予備の魔石を設置予定だったみたい。予算の都合がつかなくて後回しになったとかも書いてあった。古代文明時代も世知辛い。
「よし、戻ろうか」
部屋の中を大体調べ終わったので、拠点のテントまで戻ることにした。報告しないといけないことも随分と増えてしまったな。
◇
遺跡を出て空を見上げると暗くなっていたので随分長く捜索していたようだ。
テントに戻るとドゥニさんたちは、すでに戻っていた。
「お帰り、随分遅かったな」
ドゥニさんたちは、あちこち探してみたものの何も見つからずに戻ってきたようだ。
「いくつか壁に模様があったんだ。怪しいところはこれぐらいだったなあ」
ギヨームさんが片手のメモを見ながら唸っている。
「それって、どのぐらいの時間に見つけました?」
「ん? ミーナたちと別れてすぐかな。そのあともいくつか見つけたけど結構早めに戻ったぜ」
ギヨームさんは彫刻の位置と、彫刻の模様のメモを取ってきたらしい。
メモを見ると簡略化されているが妖精の魔法陣だった。
「これ、今は開くようになってますよ。地下の装置で解除出来ました」
「まじか!」
ギルドの職員さんとケレベルさんも交えて詳細を報告する。
「更に地下ですか。しかも施設の細かい情報とヴィルティリア文明の情報まで」
これは今までで1番のお手柄ですよ。とギルドの職員さんも笑顔でメモを取っている。
なんでもギルドの活動内容次第で、王都から配布されるギルドの予算も増えるらしいが、この発見なら来期は確実に予算が増えるだろうということだ。
「次はそこまで行かないとか……」
ケレベルさんはフィールドワークに少々お疲れのようだ。テーブルに突っ伏してしまった。
「明日はこのメモのところを調査だな!」
ギヨームさんたちは次の調査先が明確になったことで嬉しそうだった。闇雲に探すだけじゃ何も無い可能性が高いし大変だもんね。
今日は、これで調査終了となった。
ドゥニさんたちはパーティで裏手側に男女で分けてテントを2つ張っているらしい。
「お風呂は無いから身体を拭くならテントを張った方が良いわよ? まあ、それだけなら私たちのテントを使っても良いけど」
とネリィさんに言われたので、見張りの人たちに場所を聞いて持ち歩いているテントを組み立てる。
どうせやることが無いとギヨームさんとネリィさんも手伝ってくれたので、すぐにテントを張ることが出来た。
現地で寝泊りしているなら朝はゆっくりで良い。
いつの間にかクレアがマジックバックにボードゲームを入れてきていた。完全にボードゲームに嵌ったようである。
――そろそろ、この遺跡の調査も終わりそうだね。




