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嘆きの聖女  作者: どんC
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嘆きの聖女 後編

 私は彼を呼び出した。


 彼は相変わらず血塗れだ。


「剣を……」


 私は聖剣を受け取った。

 もう凄まじい瘴気で並の者は触れただけで腐れ死ぬだろう。

 どれ程穢れているんだ?

 私は意識を高めて前世の自分。

 門番のケンを呼び出した。

 私の姿が平凡な男の姿になる。


「俺には妹と体の弱い母親がいた。親父は飲んだくれで。俺が家族の面倒を見なくちゃいけなかったんだ。なのにお前が!! お前が!! 死ぬぇぇ~!!」


 門番のケンは聖剣でマリウスを刺した。


「ぎぃぃ……」


 かすれた金属音の様な声が漏れた。


 ケンは恨みが晴れたのか。

 消えた。


 次にエドが現れた。


「俺は生きたかったな~いろんな所に行きたかった。村の中しか知らない。いつか……いつか……村から出て。世界を見たかった」


 エドは剣を構えるとマリウスの心臓に剣を突き立てた。


「ぐぅぅぅ……」


 マリウスが声を漏らす。


 忌々し気にマリウスを睨んでいたが、エドも消えた。


 華奢な商人のリオが現れた。


「あのさ~僕はナナとデートだったんだよ。芝居見てさぁぁ~食事して~花束渡して~初めてのまともなデートだったのに……指輪渡しそびれた……」


 片手で剣を振って心臓に突き立てる。


「これからだったのに……これから僕の全てが、始まる所だったのに……」


 リオも消えた。


 漁師のルイが現れた。


「俺はミルと所帯持つはずだったんだよね。丘の上の家を借りて子供を三・四人こさえて変凡な家庭を築くはずだったんだ。それをそれをお前が!! 壊した!!」


 彼もマリウスに剣を突き立てると消えた。

 恨みは晴れたのか?


 羊飼いのヨキは少し戸惑っていた。

 おずおずと重い剣を振る。

 彼の人生で剣などと言う物は要らなかった。


「お袋を置いてきてしまった。親父や兄貴が病気で死んで俺だけになってしまったのに……置いてきてしまった……今更言っても詮無い事だな」


 彼は疲れた様に剣を振るった。

 それでもマリウスの躰に剣は突き刺さり。

 諦めた顔でヨキも消えた。


 五人の前世の青年たちが消えると。

 最後に聖女シアが現れた。


「マリウスさ……」


「私が聖女になるはずだったのに!!」


 シアが声を掛ける前にマリウスと聖女の間に割り込む者がいた。


「お前が!! お前が!! 私から全てを奪った!!」


 ずるりと芋虫女が現れた。

 怒りと怨嗟に歪む醜い顔。

 かって美しく女神だとか妖精だとか言われた顔と同じものでは無かった。

 醜い本性がむき出しになっている。


「あなたは聖女になれないわ。歴代の聖女の血も継いでいないし。幼い頃より修業もしていない。魔力も最低。逆に聞きたいわ。なぜ?聖女になれると思ったの?」


「嘘よ!! 聖女はお飾りなんでしょ!! 金で聖女の地位は買えるって!! マリウスは私も聖女になれるって言ったもん!!」


 マリウスは私から聖剣を取り上げた。


「マリウス!! その女を殺して!! この噓つき女を!!」


 マリウスは、クルリと剣を回すと首を切った。


「えっ?」


 ゴロゴロと芋虫女の首が転がる。


「五月蠅い」


 マリウスは何の感情も見せずに血を拭う。


「あの時私は『聖女の騎士』を下ろされる事になった。そして聖女と王太子との結婚話が持ち上がった」


「私は王太子様とのお話は断りました」


 マリウスは歪んだ笑みを浮かべて話を続ける。


「だから私はこの女を使て護衛の騎士団に毒酒を差し入れさせた。遅効性の毒で護衛の途中で死んだよ。後は【呼寄せ香】で魔物に食わせた」


 彼は笑った。


「この女の母親も娘を聖女にさせたかったんだろう。協力してくれたよ。魔力が無い為に平民落ちした男爵令嬢だったんだとさ。魔力が無い為に平民落ちした女の娘じゃ父親が貴族でも魔力が無い子供しか生まれない。ましてお前の父親も聖女の血を引くお前の母親と結婚しなければ魔力の低下で平民落ちさ。この国は魔力主義だ。何代続いた家系でも魔力が無ければ平民に落とされる。

 私はあの旅の後魔力低下が酷かった。

 たまにあるんだよ。瘴気に犯されて魔力を作る出す器官が消滅する事が……

 聖騎士の職業病みたいなものさ……

 やがて『聖女の騎士』の立場を追われる。

 だから……君を殺した。

 誰にも渡したくなかった……」


「私は役目を終えて、貴方と地方の神殿で静かに暮らしたかった」


「それは許されないことだ。所詮聖女も騎士も道具でしかない」


 彼は笑って私に剣を持たせると己が胸に剣を突き立てた。


「君の事が好きで好きでどうしょうもなく好きだった。だから努力して聖騎士になった。やっと君の隣りに立てたと思ったら、魔力低下だ。愚かだね。私はどうしょうも無く。愚かだ」


 マリウスは泣いていた。

 シアはマリウスを抱きしめる。

 瘴気を纏っていた聖剣はいつの間にか光り輝き全ての思いを浄化した。

 部屋一面に光り輝く魔方陣が現れ。

 私を元の世界に戻す。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「遅かったね~」


「勘違いして別の教室に入って探していたの。見つかるはずないのにねWWWWWWWWW」


 私は笑って紙でできた花を並べる。

 

「あれ?私何か忘れてる?」


「?何も忘れていないよ」


何だろう?何か。

大事のことを忘れてる。

まあいいか。

後で思い出すだろう。


「ここ黄色にしてアクセントにしょうか?」


「そだね。余った花は柱の所に引っ付ける?」


「あれ?稲垣先生が見たことない制服の子連れている。転校生?」


 窓際にいたモッちゃんが言う。


「どれどれ。金髪?この前言ってたオーストラリアの交換留学生?ハンサムだね~」


「あ~そんなこと言ってたね」


「あれ?なんで早紀泣いているん?お腹痛いん?」


「あれ?涙?なんで泣いてるんだ?」


 何故だろう?彼を見ると涙が溢れて止まらない。

 彼は二階の窓から覗いている私達を見上げて笑った。



 _____________________________


  ★ 宮崎早紀 (みやざき・さき) 17歳

    聖女シアの生まれ変わり。男ぽい性格。


  ★ 聖女シア 17歳

    女神サンザリアに仕える聖女。

    婚約者と異母妹に殺される。

    幼い時から修業した。家族とは疎遠。

  

  ★ シアの異母妹

    聖女シア殺害により神罰をくらう。

    女神とも妖精とも言われるが頭が残念な上に魔力無し。

    ほっておいても平民落ち。 

  

  ★ マリウス・プレッド 20歳

    聖女シアの婚約者。異母妹と共謀してシアを殺す。

    ハンサム。金髪碧眼。


  ★ 羊飼いのヨキ・漁師のルイ・商人のリオ・村長の息子エド・門番ケン

    早紀の前世。17歳でマリウスに殺される。




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  2018/5/3 『小説家になろう』 どんC

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最後までお読みいただきありがとうございます。

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