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BF13.狼の頭脳

 クラス分け試験は、四対四で、ランダムに選ばれた戦場(バトルフィールド)でチームサバイバル形式で行われる。軍事学校内に作られた模擬戦場は、模擬と言いながらも広大で、輸送車に乗って移動しても一つの戦場を回るのに十分ほど掛かってしまう。もちろん、それは車両が通れる戦場に限った話であり、今回彼らに宛がわれた『ジャングル』は密林の南北の両端から試合を開始することとなる。

 始めてその広大な戦場を見た時、ウィンディとローナは驚きを隠せなかった。フィルティアは、泰然と密生した木々を眺める。オスカルは到着直後に渡された戦場の地図を見詰めていた。

「地図って呼べる代物じゃないよな、これ? スタート地点と、森がずっと書かれているだけだ……。まあ、どうにか縮尺は分かるな」

 地図を確認し終えたオスカルが、顔を上げて呆れたように言う。

 オスカルの言い分も分かる。密林内の様子はまったく地図に書かれておらず、こちらも相手も行動する手がかりがない。一大隊ほどの人数が居れば、小隊規模に分かれて散策する手もあったが、四人では単体行動などできるわけがない。

「どうするの? もしどちらも真っ直ぐに突き進めば、少し進路が変わったとしても中央で鉢合わせするわ。かと言って、馬鹿正直に正面から行ってやるつもりはないで――」

「――いや、このまま真っ直ぐに進む」

 フィルティアの言葉を、オスカルは分かっていたかのように遮る。

「はぁッ? 待ちなさいよッ。そんなことしたら、先に敵を見つけた方が有利になるわ。こんな見通しの悪いところでは、どちらが先になってもおかしくはないのよ? 私たちが先に見つけられることに賭けろとでも言うの?」

 オスカルの言葉にフィルティアが反論する。

 理由の理解できない案に、フィルティアが反論するのも分かる。ウィンディにだって分かる理屈で、例え相手が真っ直ぐに密林を突き抜けてこなくとも、いずれは先に相手を見つけた方が有利になる。それはやはり賭けであり、確実な勝算ではなかった。

 それに対して、オスカルが苦笑さえ浮かべて説明を付け加える。

「いんゃ、真っ直ぐに進んでも鉢合わせはしない。相手も、フィル嬢と同じことを考えるだろ? それなら、真っ直ぐに進むより別の進路を取って、西か東に向けて斜めに進む。そこから中央に向かって、スタート地点へ戻る形なら敵の背後を取れる可能性が高い」

 オスカルが、地図をなぞり二等辺三角形を作る要領で説明する。

「でも、そのように進む根拠は? 単なる推測でしょ、それは。後、どうしてアンタまでその愛称を呼ぶのよ?」

 またもやフィルティアがそれに反論して、オスカルは肩を竦めながら首を横に振る。今度は、黙って聞け、と言いたげに人差し指を立ててフィルティアを制する。

 フィルティアを含めウィンディやローナも、オスカルの醸し出す妙な威圧感に口を塞がざるを得なかった。

「俺が、今日まで何もせずに待っていた、なんて思ったら大間違いだ。この一月、色々と話を聞いて、各チームの情報を仕入れて置いたんだぜ。戦争は何にしても情報戦だ。どのチームが相手になっても、どこの戦場になっても大丈夫なように策は練っておいたよ」

 まさか、そこまで考えていたとは。オスカルの意外な一面に、三人が唖然としながらも感心する。続けて、相手チームについて調べたことを話し始める。

「『スピリッツ』のメンバーは、戦武科が一人、衛生科が一人、機工科が二人の構成だ。戦力は低い方だが、四人が四人とも慎重な性格をしているんだよ。だから、直線に進むような猪突猛進タイプじゃない。もし先刻(さっき)みたいに進まなくとも、西か東に行ってから俺達のスタート地点に遣って来て、それから中央を通るかもう一度斜めに進んで菱形を描く。

 そこで、だ。俺達はこのまま真っ直ぐに相手のスタート地点に向かい、相手の進んだ道筋を後ろから追跡する。どうやって? なんて質問は当然したいだろうが、簡単に答えておく。この戦場は、普段から授業なんかで使われることのない場所だ。だから、ほとんど手入れがされていないし、長い間誰も木々を踏み荒らしていない。となれば、誰かが通ったところに跡が付く」

「なるほど、その跡を辿れば敵の背後を追えるわけか……。アンタに、斥候の知識があったなんてね。僅かな周囲の変化、獲物の心理を読んで裏を搔く。私としたことが、そんなことを失念していたなんて恥ずかしいわ」

 知らぬ間に様々な情報を収集し、そしてそこから導き出される尤も確率の高い仮説を立てる。飽くまで仮説なのは、人間の不可解な行動心理を含めると、『絶対』という言葉はなくなるからである。

 しかし、納得するには充分な情報量だった。

 フィルティアが感心して、自嘲の笑みを浮かべて見せた。

「それじゃ、方針が決まったところで行こう。納得してくれて嬉しいぜ」

 別に誇るわけでもなく、オスカルはそう言うと先頭を歩き出す。

 ウィンディは、オスカルの背中を見据えて思った。オスカルの話を聞いていると、どうして『バトルボード』で一度も勝てなかったのかがなんとなくわかる。完全に自分の思考を読み、行動分析の上で布石を打ってゆくことで逃げ道を塞がれていた。ただの遊び人というわけではなく、『能ある鷹は爪を隠す』と言う言葉に相応しい男なのだ、彼は。決して落ち零れなどではない。

「あ、ウィンディは俺の横に来てくれ。ローナ嬢とフィル嬢は、後ろを見張りながら付いて来てくれ。念を入れるに越したことはないからな」

 オスカルに呼ばれ、慌てて横に並ぶ。

「あの、今の説明を聞いていて思ったんですが、どうして留年なんてしちゃったんですか? あ、いえ、もし話したくないのなら、別に……」

 なんとなく気になったから、聞いてみた。深い意味こそ無かったが、これだけの分析能力を持ち合わせたオスカルが、何の理由も無く留年するというのが信じられなかったのだ。

 無論、本人が話したくないことなら話さなくても良かったし、彼の性格を考えるとはぐらかされて終わるような気がした。しかし、ウィンディの予想に反して、オスカルは苦笑を浮かべながらもポツリと言葉を漏らす。

「言ったろ。信じてくれて嬉しい、って――」

 遅れて誠に申し訳ない。

 まあ、これでしばらくは更新に困らない程度にスランプは解消できたと思います。今回はラジオコーナーもナシで更新しておきましょう。

 それでは、これからも頑張ります!

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