BF12.試験の始まり
良く晴れた空、蒼に咲く色とりどりの煙。ポン、ポンっと乾いた音色を奏で、微風に流されて行く。
入学式と同様に、校庭に整列した一年生。皆、様々な色合い、形状のS.Aに身を包み、緊張した面持ちで開会を待つ。晴天とは言え穏やかな日差しで、暑くもなければ寒くもない、天候に恵まれた試験当日。誰かが怪我をするなどのハプニングもなく、滞りなく開会式が行われた。
名簿順に並ぶ隊列の中で、ウィンディは前方に近かったが校長の話などほとんど聞いていなかった。なぜか耳を傾ける気にもならない気だるい挨拶。緩慢で悠長なスピーチは右から左へと通り抜け、細かいルールの説明に入ってようやく五感がはっきりとしてくる。
「今大会のルールは、次の通りである。使用できる武具は個人が持ち込んだS.Aと、学校側から貸与された模擬戦闘用の銃火器および電磁ナイフだけだ。検査の際に組み込んだS.Aのセンサーを通して、戦闘不能と判断された場合と、自ら降服したときにはS.Aの操作を停止するシステムとなっている。装甲部分に着弾した場合も、一時的に操作を阻害する」
生徒各自に貸与された銃弾と電磁ナイフは、S.Aの装甲がない場所――要するに肌が露出した部分とアンダースーツに触れた時、微弱な電圧を発して身体を麻痺させる。簡単に言えば、格闘技におけるK.O勝ちとなるわけだ。もちろん、メインボックスへの着弾もK.O勝ちに含まれる。
去年の参加者であるオスカルから聞いた話では、確実とは言えないもののこれまでに死者は出ないらしい。病院に搬送されるほどの怪我人が出たという報告も聞いていなかった。
「試合は四人一組、全八十チームからランダムで選ばれた二チーム同士のトーナメント形式。二回戦を勝ち抜いた二十チームがAクラス。二回戦の敗退チームがBクラス。一回戦目に敗退した二十チームも二戦目を行い、CクラスとDクラスを決める。故に、チームの一人の失敗がチームの勝敗を分ける。心して掛かることを祈る。以上ッ。各自、控え席に戻りチーム名が呼ばれるまで待機せよ」
開会の挨拶とルール説明が終わり、隊列は足並みを揃えて、観客席とは別に用意された選手用の席へと向かう。そこでは、体の緊張を抜く者、いよいよと更に緊張する者、チームや友人同士で集まって雑談を始める者、と色々だった。
「ふぅ……。大変なことになったなぁ」
控え席を見回して、ウィンディは溜息と同時に声を漏らす。
「何が大変なんだ? まだ始まっても居ないのに、そんなことじゃDクラスになっちまうぜ」
いつの間に近づいていたのか、オスカルが後ろの座席から茶々を入れてくる。
合同授業である『S.A実践』の授業で何度か見ている、ブラックメタルの装甲に包まれたS.Aを着こなし、相変わらずの笑みを浮かべるオスカル。二度目にもなるとあまり緊張はしないのか、それともDクラスだろうがCクラスだろうが、差して気にしていないのか。どちらにせよ、オスカルという青年に緊張の面持ちはない。
「いや、ちょっと、ね。理由までは分からないけど、どうも敵意を買っちゃったみたいで……」
ウィンディが抱く懸念としては、少し離れたところに佇む四人組み。白銀のS.Aに身を包み、陽光を照り返しながら泰然と存在感を表す。
ウィンディの視線を追って、オスカルもそちらに目を向ける。
「リジムのことか? そういや、あいつのチームとは一回戦を勝ち抜けば二回戦目で当るみたいだな。それがどうした……あぁ、この間のことか」
「うん、フィルティアさんとオスカルさんを誘いに行った時のこと、まだ根に持たれてるみたいで……。僕、何か悪いことしたかなぁ」
「いやぁ、プライドの高い奴って変なところで拘るから。あまり気にしない方が良いぞ。この際だから、恨む気力もなくなるぐらいにボコってやるっていうのもありだが」
なにやら意地の悪いことを口にしながら、オスカルがカッカッと声を出して笑う。何が面白いのか、ウィンディは笑う気分にもなれず作り笑いだけを返す。
(時々、黒いんだよなぁ、この人……)
内心で呆れつつ、無意味な雑談などしながら時間を過ごす。そうしている間に、ローナとフィルティアが姿を現す。
これもまた、二人のS.Aは『S.A実践』の授業で見たことがある。
ローナは、ウィンディの物より薄くも面積の大きな、鮮やかながら嫌味にならない桜色の装甲を纏っている。着こなしは鎧というよりも、ファッションの一部と言った感じだ。まあ、ウィンディでもローナに直接的な戦闘は期待していなかった。『S.A実践』の授業を見ていれば、ローナがどれほどS.Aの操作に疎いのか分かる。
フィルティアの評価によると、
『どうにか滑ることが出来るようになった、スキー初心者みたいなものね』
らしい。
そのフィルティアは、ファッション性は皆無な陽光さえ吸収してしまうほどの漆黒のS.Aだ。そして、装甲の厚さや面積においては、ウィンディの物など比べ物にならないほど少ない。危うく胸部の膨らみが露わになりそうな胸当てと、手の甲だけを覆う手甲、それにスニーカーを履くぐらいの気分で付いた具足である。ヘッドギアさえ、鉢巻のような形状で、髪の毛を邪魔にならないよう後ろで一本に束ねている。メインボックスは、少ない装甲を動かすだけで充分な基盤を積めば良いのか、やはり他のS.Aに比べて小さかった。
正直、機構を積まなくても良さそうなフィルティアのS.Aは、アンダースーツの密着性によって押し出された体のラインを強調するだけで――健全な青年には少し目のやり場に困る。
さりげなく目を逸らすウィンディ、煩悩を隠そうともせず眺めるオスカル、理由もなくはしゃぐローナ、三人の行動に呆れるフィルティア。なぜか、四人の集まる空間だけが切り離されているように思えた。
そんなことをしている間に時間は経ち、そこらかしこに建てられた簡易スピーカーからアナウンスが流れる。
『チーム『wolf』VSチーム『スピリッツ』の試合を始めます。チームのメンバーは五分以内に輸送車の前にお集まりください。繰り返します――』
『オブジェクス』で作ったであろう、機械的な音声が響き渡る。
「おっと、もう俺達の番か。期待の新星は目立ってしかないねぇ」
オスカルは、自分に突き刺さる奇異な視線など意ともせず不敵な笑みを浮かべる。
「行きましょうか」
ウィンディも、周囲の目を気にしながらも平静を装ってオスカルの後に続いた。ローナが意気揚々と背後から声をあげ、フィルティアは重く圧し掛かる真綿を声に変えて睨みつけてくる。
「私、頑張っちゃいますよ!」
「ホント、足を引っ張らないでね。頼むから……」
当然ながら、最初にして最後の初陣が訪れた。




