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林檎のロロさん  作者: Tada
52/151

52個目

ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。



 彼女のお気に入りの砂色の上下の服は、うちの長男が着ていた服をリメイクした物だ。

 王都でパン屋を開いている長男マシューは、夫に似て背が低く、若い頃は細身だったので、サイズも彼女にピッタリなようだ。色を染めたり、ポケットを増やしたり、とても器用だと思う。


 その服を来た少女が店の前でウロウロしている。


「あなた、ロロちゃんがなかなか入って来ないのよ」

「ん?」


 焼きたてのチーズパンを厨房から運んできた夫のダンノが、外を見る。新しいワンショルダーリュックを斜め掛けにしている。


「ギルドの副代表が言ってたけど、鞄のことは褒めてもそれ以上は聞かないようにしよう。香り袋は、お礼を言えばいい」

「そうね、わかったわ」


 何か事情がありそうだが、彼女が店に来てくれるなら何でもいい。カルーネは店の扉を開けた。


「ロロちゃん、いらっしゃい。チーズパンが焼きたてよ?」

「!」


 パァッと笑顔になった少女を迎え入れた。


「おはよう、ロロちゃん」

「ダンノさん、カルーネさん、おはよう! チーズパン六個ください。二個ずつに分けてもらってもいい? あと、ポテトサラダのロールパンサンドも二つくださいな」

「ふふ、ありがとう」

「それから、白パンを予約していい?‥‥‥三十個!」

「お、おぉ三十個か」


 ダンノは少し驚いたが、今度の魔法鞄は前の鞄より収納出来るようだ。


「前のリュックが、その、古くなっちゃって、少ししか入らなかったので、新しい魔法鞄にしたの」


 彼女は目をキョロキョロして、説明をしている。どうやらそれを考えて、店の前をウロウロしていたようだ。


「とても、素敵なリュックね!ロロちゃんによく似合うわ」

「本当?ありがとう!えへへ」


 ホッとした顔で、明日の朝八時に来ると約束をして、後でいいと言ったが代金を前払いをしてきた。

 香り袋のお礼を言うと「いろいろとご迷惑をおかけしまして‥‥‥」と小さい声で言っていた。

 チーズパンがリュックの中に消えて行く。

 嬉しそうにしていると、扉から次の客が来たので「あ、それじゃあまた明日」と手を振って行ってしまった。


「いらっしゃい、チーズパンが焼きたてですよ」


 またいつもの日々が続きそうで、夫婦は安心した。

 


 

 * * * * * * * * * * *




「‥‥‥は?」

「だから、ここに住むから、仮眠室リフォームして。一階(した)を食堂からカフェにした時、頼んだ知り合いがいたでしょ?」


 朝からマルコの機嫌が悪い。

 今の貸部屋を解約するからギルド(ここ)に住む、と言ってきた。だからリフォームしろと言うのだ。


「昨日、何かあったのか?」

「勘違いされたくないから、早く出たいんだよ」


 何やら目が冷たい。


 確かに他のギルドでは代表か副代表が、大きい所は職員寮まであって、ギルド内で生活しているらしいが。

 

「今住んでるのは南地区だったよな?‥‥‥ん?あのバインバイン通りの近くか?あぁ、バインバイン通りって言うのはな」

「そうだよ!そのバインバイン通り!アンタ、三年前ロロちゃん連れてったって?あの辺りは色街だぞ!メイナに変な下着つけさせてるのか?」

「ば、馬鹿!そんなことするか!‥‥‥ロロを連れてったのは、その、店に入りにくいから‥‥‥って、何で知ってるんだよ!」

「子供連れてくか?変態!」


 変態と言われてカイはショックを受けた。あの時は、普通の女性服の店に入ったつもりだったのだ。際どい服や下着ばかりだと気付かなかった。


「知らなかったんだよ。入ってから、あれ?って思って」

「世間知らず」

「ぐうっ‥‥‥!」


 カッブの香草茶(ハーブティー)を飲む。今朝はかなり個性的なお茶を出された。身体に良さそうだが、嫌がらせだろうか。


「だがな、マルコ。そもそもメイナが『下着なんて使えりゃ何でもいい』って、破れて穴が空いても何年も使い続けるんだぞ?」

「ぐうっ‥‥‥!」


 扉をノックする音がした。ユルが来たのだろう。マルコが立ち上がり、カイの後ろに立った。


「確かに、妹は昔からそうだった。‥‥‥とにかく、俺がここに住めばアンタも家に帰れるでしょうに」

「はっ!そうか!すぐに考えよう。‥‥‥入れ」


 ユルが入室した。カイもマルコも、話は終わったと通常通りになった。


「‥‥‥あの、話、外に聞こえてますが」

「「え」」


 扉の内側の静音効果の魔法道具を見た。深紅の魔石付きリースはちゃんと付いている。


「アンタ、寝る前にちゃんと魔力を補充した?」

「‥‥‥‥‥‥忘れた。ぃぃ痛い痛い!」


 マルコがカイの顳顬(こめかみ)を後ろからグリグリした。


「ユルくん、どこから聞こえた?」 

「‥‥‥あの、代表の奥様の‥‥‥」


 ユルの青碧の瞳が動揺している。

 盛大な溜息とともに項垂れた二人に、「頼むから、さっきのは聞かなかったことにしてくれ」と頭を下げられたユルだった。




 * * * * * * * * * * *




 ロロがギルドの大扉前で、再び双子の冒険者の弟ルッツに会った。


「おはよう。今日は、あの髪型じゃないのか」


 ちょっと残念そうなルッツに「おはよう、まあね」と無表情で返した。昨日のことを怒っているのかと苦笑いのルッツは、魔法鞄に目を向けて「お、良いリュックだな」と言うと「そうでしょ?」と笑った。やっぱり褒めると嬉しいんだなと、ルッツは自然と頭を撫でていた。


 今日はリリィ一人が受付だった。


「ロロさん!おはようございますぅ」

「リリィさん、おはよう!昨日はありがとう」


 レイラが居ないので聞いてみたら、午後から来るとのことでホッとした。さすがにトムにヘアピンを頼んだのにレイラが休みだったら、トムに申し訳ないと思った。


 厨房に顔を出すと、開店前の料理人たちが話し合っていた。ロロに気がついたジンが手を上げるとドットとテンが振り向いた。


「おはよう!昨日はどうもありがとう」

「「おはよう」」

「おはよう、ロロ。時間がある時でいいから、新メニューと今後のカフェの相談できるか?」


 今後のカフェ?と思ったが、了解です!と敬礼した。料理人たちも敬礼した。


 階段から地下へ下りて、トムの工房をノックすると、小麦色の髪と瞳の青年が出てきた。


「ロロさん、おはようございます。どうぞ」

「コイルさん、おはよう」


 昨日はコイルの冷グラスを皆で使ったと言ったら、とても喜んだ。

 中に入ると、くたびれたトムがテーブル席でロロを待っていた。ロロはコイルに、チーズパンとロールパンサンドを二つずつ渡しながら、トムの睡眠時間をコソッと聞いた。コイルはパンを受け取ってから、苦笑いで首を横に振った。興奮して眠れなかったらしい。


「おはようございます、トムさん」

「あぁ、ロロくん、おはよう、待っていたよ」


 テーブルにはレイラ用の長いヘアピンが二本と、小さいヘアピンが十本もあった。


「こんなに作ってくれたの?」

「悪いが、キミの小さいヘアピンから実験的に作って、最後にレイラさんの二本を仕上げた」


 完全にロロのは試作品でレイラのが本番。潔い言い方が寧ろ清々しい。

 コイルが青い冷グラスでお茶を出してくれた。


「ありがとう。ねぇトムさん、レイラさんは午後に出勤するみたいだよ。トムさんが渡したら?」

「え?」


 目を丸くして、こちらを見た。寝不足のくたびれた顔なのに、少年みたいに見えた。


「少し寝て、上のシャワー室使って、スッキリしてからね」

「ロロくんからのプレゼントじゃないのかい?」

「私はきっかけでいいよ。作ったのはトムさん。ヘアピンに小さい石が付いてるね。ギルドカラーのルビーと、こっちは二種類の石?」

「‥‥‥黒瑪瑙(オニキス)煙水晶(スモーキークォーツ)、魔除けの守り石と精神を安定する石だよ」


 黒と茶色の石。黒茶色の髪と瞳のトム・メンデス。


「ここまでして、自分で渡さないでどうするの?」

「うぅ‥‥‥」


 冷たいお茶を飲みながら、気持ちはわかると思った。夜中に作ると昂ぶって大抵やらかす。ロロの香り袋がそれだ。


「レイラさんが気付くかどうかだけど、手渡ししてみたら?トムさん」

「そうですよ!師匠」 


 丸眼鏡の下は赤くなっていた。緊張した顔で、恋する魔法道具職人はゆっくりと頷いた。

 

読んでいただきありがとうございます。

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