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林檎のロロさん  作者: Tada
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47個目

ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。


※ここまで過去編です。




「改めて、第五騎士団・団長のジルニール・ウォーカーだ。今回は、急な依頼を受けてくれて感謝する。本当に助かった」

「【紅玉(ルビー)】のギルドマスターのカイ・ルビィだ。お役に立てて良かった」


 ジルニールが立ち上がって、カイと握手をした。少女は少し緊張して、カイとメイナの間に座った。今までのことをカイに報告すると、「え、女の子?」とやはり驚いていた。


「どうだろう。名前がないのも困るし、砂地に書かれていたのも何か意味があるかもしれないから、ロロって呼んでもいいか?」


 本当の名前があるかもしれないから皆は決められずにいたが、カイは少女の目を見て聞いた。

 少女もカイの目をじっと見て、コクンと頷いた。


「よし、ロロ!ここの料理人たちの食事もスイーツも最高だぞ!先輩、頼む」


 料理長のドット、料理人のテン・ジンが紅茶とスイーツを運んできた。


「ちょうどアップルパイが焼きたてだ。どうぞお嬢ちゃん」


 ジンがロロの前にアップルパイを置いた。一口サイズに切ってある。メイナは紅茶をフーフーしてあげている。マルコはそんな様子を微笑ましく見ていた。


 一日でこんなに変わるものか?母性本能だろうか。


「皆もせっかくだから食べようよ」


 注目されて緊張しているロロに気がついて、マルコが言った。


「んん、美味いな!スイーツは王都でもあまり食べないが、これはウマイ」


 ジルニールが絶賛していると、ロロがフォークを持って、パクっと口に入れた。モグモグした口元が次第に緩み「おいひい」と言って、へにゃっと笑った。

 カイも釣られて笑い、ジルニールも料理人たちもデレデレだったので、マルコが吹き出して笑った。


「保護者が見つかるまで、ギルドで預かってもいいか?」

第五騎士団(うち)の連中もいい奴らだぞ?ロロ」


 ロロが可愛くて、ジルニールまで名乗りを上げた。マルコが、副団長のサイラスに相談しないと怒られるんじゃないか?と苦笑した。


「ウォーカー団長、子供を王都まで連れてくのは大変だろう」

「むうぅ」 

「俺がしばらく保護者になる。こちらには、ロロが好きなメイナもいるし、美味しいアップルパイも食べられるぞ?」

「ズルイぞ、それ」


 マルコもメイナも、二人に呆れていた。


「ここにいたい」


 ロロがメイナの腕にギュッと抱きついた。ジルニールが残念そうに「そうか」と肩を落とした。厨房で料理人たちが「よし!」と拳を握っていたのを、マルコは見逃さなかった。


「まあ、ここの居心地がいいのは認める。この子を頼む。こちらは、やれることをやるさ」

「悪いな、ウォーカー団長」


 ジルニールが立ち上がったので、カイとマルコも続いた。メイナにはそのままでとジルニールが合図をした。

 

「またな、ロロ。元気でな」


 ジルニールがロロの頭を撫でると、ロロがニコッと笑って「ありがとう」と小さな声で言った。嬉しくなってジルニールがもっと頭を撫でると、ロロの頭がグラグラしたので、「折れる折れる!」と皆が止めた。

 

 肩を落とした大男は、カイとマルコに宥められて大扉まで送られた。


「‥‥‥ああ、そうだ。懐中時計だが、俺が持っている。持ち主が現れなければ、必要になるかわからないが鑑定士に依頼も考える」

「結局、出所もわからないんですか?」

「よくわからない。モヤモヤした感じがする」 


 ジルニールか顔を顰めた。


「とにかく今回は、辺境伯領で演習の際に偶然見つかった子供、ということにしようと思う。迷子になって入ったことにする。あの血痕があの子の保護者のものでないことを願う」


 ジルニールの提案に二人は黙って頷いた。今はそれでいいと思った。

 出ようとした大扉が開き、誰かが入ってきたのでジルニールが横に避けて譲った。


「なんだ、ジルじゃないか」

「ん?ゲイトか、久しぶりだな」


 有名な銀灰色の髪と瞳の冒険者とは、知り合いだったらしい。


「私服ってことは、友人でも訪ねたのか?」

「まあな、知り合ったばかりだが、可愛い友達ができたな」

「はは、良かったじゃないか。お前を怖がらない友達は貴重だぞ、大事にしろよ。外にいる二人はお前の部下かな?」

「ああ、来たか。さっきここから一番近い宿に馬を預けたんだ。はぁ、一晩泊まって部下と仲良くお馬で帰るか」


 じゃあな、と優しい大男は、部下とともにガルネルの宿に泊まり、翌朝、王都へ帰って行った。




 ロロの保護者は見つからないまま、十ヶ月ほど経ち、カイに預けていたロロを連れて帰るため、メイナが代表室に顔を出したある日。


「メイナ、俺と結婚してくれ」

「いきなりだな」


 メイナが十代の頃、カイが目を合わさず話しかけなかったのは、兄マルコのせいだった。「うちの妹に色目使わないでね。仕事手伝わないよ?」と言われていたそうだ。カイは、色目ってどんな目かわからず、とりあえず見なきゃいい、と思ったらしい。

 マルコは、言ったことをすっかり忘れていた。つい最近「メイナと結婚しないの?」と言ったので、「は?お前何言ってんの?」とカイは思ったらしい。


 給湯室からロロとマルコが二人を覗いていた。


「メイナとロロと家族になりたい」

「ああ、いいね。そうしよう」


 やった!と覗いていた二人がハイタッチした。


「きゃあ、マルコさん、チューするかな?」

「チューだけかなぁ?あ、ロロちゃんにはまだ早ぃ」

「「するか!」」

「ぃ痛い!」


 マルコは二人に頭を叩かれた。


 二人はそれから二ヶ月後に結婚した。




 



「ひとつの物語みたい」


 懐かしく語るマルコとメイナの話を、ワクワクしながら聞いていた。過去を聞く怖さや不安はなかった。今がとても幸せだからだ。

 メイナは、ロロがしっかり受けとめたことに安堵した。泣くのではないかと不安だった。


「マルコさんとメイナさんに見つけてもらって良かった。団長さんたち元気かな?」

「元気だと思うよ。あの頃はまだ団長も副団長も就任したばかりだったから、今も第五にいるよ」

「会いたくなったか?」

「うん」


 たぶん、そのうち、会える気がする。

 マルコが話の途中で考え事をしていたのが、ロロにはわかった。たぶん自分と同じか、それに近いことを思っている。


「メイナさん、私の話を聞いてくれる?」 

「もちろんだよ」

「俺は、紅茶のおかわりを入れてくるよ」


 ロロは、魔法鞄(マジックバッグ)が使えなくなった日のことから話し始めた。

読んでいただきありがとうございます。

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