46個目
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※過去編の続きです。
「メイナ、落ち着こう」
子供が本当にいたことへの衝撃と、見つけたことへの喜びで震えるメイナの肩に、マルコは手を置いた。
「メイナ、あれを見て」
「?」
マルコの視線の先に、白い砂地と土の地面を跨ぐように血痕があることがわかった。
「まだ古くない。警戒して」
「‥‥‥了解」
二人は背中を合わせるようにして、マルコは周辺を見渡し、メイナは見回した。人の気配はないようだった。
「連絡の発煙筒はまだ使用しない。あの子をどうやってこちらへ呼ぼうか‥‥‥」
「入れないのが、悔しいな」
この中は寒くないのだろうか。防寒は多少しているようだが、外套は着ていない。
頼む!こちらに気がついて!
祈るように二人は子供を見ていたが、なかなかこちらを向いてくれない。
マルコは血痕の周辺を確認した。この血の量は重傷、致命傷かもしれない。ここから見た感じでは、あの子供の血ではないようだ。では、誰の?
ふと、砂地に模様のようなものがあることに気がついた。
「‥‥‥ロロ?」
「兄さん?」
「いや、砂地に文字のようなものが‥‥‥、あ」
子供がこちらを見た。目を見開いている。怖がっているのか、驚いているのか?
「どうするか、メイナ?」
抱きしめてやりたい。そんな想いでメイナは膝をついて、腕を広げて待った。
「おいで」
何度も、何度も、こちらへおいで、と。
二人は待った。
やがて、子供が立ち上がり、ゆっくりと歩いて来た。
焦るな。
マルコも動かず、メイナの後ろに控えていた。
「おいで」
小さな身体が、ギュッとメイナにしがみついた。
メイナはそっと、自分の腕を子供の背中と後頭部に回し、抱きしめた。
「よく頑張ったな、良い子だね」
ギュウッと、子供が強く抱きついたので、頭を撫でた。言葉は、わかるのだろうか。
「痛いところはない?」
マルコが、小さい声で子供に聞いてみた。
「お腹すいた」
「‥‥‥ああ、そうか、そうだね」
「兄さん‥‥‥兄さん」
メイナもマルコも、自然と涙が出た。
「良い人たち、騎士様たちが迎えに来てくれるから、この道具を使うよ?煙は出るけど怖くないからね」
「はい」
「良い子だね」
メイナは子供を抱き上げたが、足がガクガクとしてしまった。走り続けたのと、探索魔法の使い過ぎだった。
「俺はこの人のお兄さんなんだけど、代わりに抱っこしていいかな?」
キョトンと露草色の瞳をマルコに向けた。可愛らしい顔だなと思った。微笑みかけると、少し頬を染めてコクンと頷いた。
「子供まで誑し込むな」
メイナがボソッと呟いた。心外だと思ったが、子供をそっと抱き上げた。
メイナが小型発煙筒を使った。今になって、風がないことに気がついた。控えめな煙が、ほぼ真っ直ぐに上がる。
「顔がコワイ人もいるけど、きっと優しい人だから、怖がらないであげてね」
「はい」
「可愛いな」
「ああ、本当に」
こんなに可愛らしい子供が、何故。
馬で迎えに来たサイラスたちに、子供は怯えなかった。むしろキラキラした瞳で見ていた。サイラスが王子様にでも見えたのだろうか。
「トレス副団長、あの場所保存できませんか?気になるものが」
「‥‥‥なるほど、魔法が届くかわからないが、やってみましょう。先程の場所からこの近くに移動して、休憩場所と食事を用意しているところです。あなた方は先にそちらへ」
「助かります、トレス副団長」
「ありがとう」
マルコとメイナがお礼を言うと、サイラスが微笑んだ。
「こちらこそ、ありがとうございます」
休憩場所では火を焚いて、温かい飲み物とパンを浸したスープが用意されていた。
メイナがフーフーして、子供に飲ませていた。マルコは、世話をするメイナを見て、意外と面倒見が良い妹に驚いていた。
団長のジルニールが隣に座った。子供はビクッとしたが、その後じーっとジルニールを見つめた。
「悪いな、俺が怖いか?」
「顔がコワイけど優しい人?」
「ん?」
先程のマルコが言ったことを覚えていたようだった。メイナが吹き出しそうになった。
「怖くないです」
「そうか!」
グリグリ頭を撫でると、戻ってきたサイラスが「首、折らないでくださいよ」と恐ろしいことを言った。
子供は、メイナにピッタリとくっついて離れない。
「マルコさん。現場保存の部分結界魔法をしてみましたが、たぶんあちら側には届きませんでした。確認もできないので、わかりません。こちら側の半分だけは残るでしょう」
「‥‥‥そうですか。ありがとうございます。一先ず、この子はうちのギルドに連れて行ってもいいですか?」
「ギルマスにも礼を言いたい。俺も行く。サイラス、指揮をとって第五に戻っていてくれ」
「はぁ、了解しました。着替えて行ったほうが良いですよ」
確かに、団長はかなり目立つ。
「少年、名前はわかるか?」
「‥‥‥」
「家族は言えるか?少年」
「‥‥‥」
ブンブンと首を横に振った。サイラスは考えるように子供の様子を見た。
「【記憶失くしの森】は、自分についての記憶だけ失くなり、言葉などは普通に理解できるようですね」
「ロロって、名前なのかな」
マルコがあの場所に砂地に書かれていた文字が気になっていた。
「馬に乗せる前に、怪我がないか見せてもらっていい?」
子供が、メイナにギュッとしがみついた。
「仕方ない。私が、見てもいいか?」
メイナが困った顔で言うと、コクンと頷いた。
まあ、五・六歳の子供なら、女性が見ても問題ないかと、マルコが頼み、メイナと子供をテントの中に入れてもらった。その間に団長と話をした。
「この子の家族は現れるでしょうか」
「騎士団のほうで、子供の行方不明や誘拐がないか、調べてみよう」
「うちのギルドでも、動いてみます」
「よろしく。頼もしいギルドだな」
マルコは、第五騎士団はなかなか良い男たちが集まってるなと思った。
メイナと子供がテントから出てきた。
「怪我はない。それと、女の子だったよ」
「「「‥‥‥え?」」」
マルコは頭を抱えた。確かに可愛い顔だと思ったのに、なぜ疑問に思わなかったのか。さっき首を振ったのは、少年じゃないと言いたかったのだろうか?
それより、危なく自分が服を脱がすところだった。
マルコが、申し訳なさそうに「間違えてごめんね」と謝ると、団長や団員たちも次々に謝った。
少年改め少女は、コクコクと頷いた。
月明かりが頼りの暗い森の中、マルコ・メイナ・ジルニールの三人が馬に乗り、メイナが少女を前に乗せた。
皆は心配したが、メイナは「問題ない」と、魔力回復薬を一気に飲んだ。その豪快さに、周囲が「おおっ!」と、どよめいた。
最後には、なぜか団員たちに「姉さん」と呼ばれていて、マルコが腹を抱えて笑っていた。
「おかえり」
カイに出迎えられて、メイナは面食らった。
マルコがジルニールを案内し、ダイニングで話をすることにした。
少女は手を繋いで、メイナの顔を見ている。
「‥‥‥ただいま」
ボソッと答えた。
カイはしゃがんで少女に挨拶をした。それから頭を撫でて、ニカッと笑った。
「こんばんは。冒険者ギルド【紅玉】にようこそ。俺は、ギルドマスターのカイ・ルビィだ。寒いし疲れたろ?温かいものを飲もう。おいで」
カイが少女に手を差し出すと、少女はもう片方の手でカイと手を繋いだ。
少女を挟んで、手を繋いでることに、メイナはなんだか恥ずかしくなった。
貸し切りになっていたダイニングへ行くと、マルコとジルニールがすでに座っていた。手を繋いだ状態で現れたメイナたちを見て、マルコが目を丸くしている。
「まるで親子みたいだね」
「「‥‥‥は?」」
カイとメイナの顔が、見る見る赤くなっていった。
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