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林檎のロロさん  作者: Tada
46/151

46個目

ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。


※過去編の続きです。




「メイナ、落ち着こう」


 子供が本当にいたことへの衝撃と、見つけたことへの喜びで震えるメイナの肩に、マルコは手を置いた。


「メイナ、あれを見て」

「?」


 マルコの視線の先に、白い砂地と土の地面を跨ぐように血痕があることがわかった。


「まだ古くない。警戒して」

「‥‥‥了解」


 二人は背中を合わせるようにして、マルコは周辺を見渡し、メイナは見回した。人の気配はないようだった。


「連絡の発煙筒はまだ使用しない。あの子をどうやってこちらへ呼ぼうか‥‥‥」

「入れないのが、悔しいな」


 この中は寒くないのだろうか。防寒は多少しているようだが、外套は着ていない。


 頼む!こちらに気がついて!


 祈るように二人は子供を見ていたが、なかなかこちらを向いてくれない。


 マルコは血痕の周辺を確認した。この血の量は重傷、致命傷かもしれない。ここから見た感じでは、あの子供の血ではないようだ。では、誰の?

 ふと、砂地に模様のようなものがあることに気がついた。


「‥‥‥ロロ?」

「兄さん?」

「いや、砂地に文字のようなものが‥‥‥、あ」


 子供がこちらを見た。目を見開いている。怖がっているのか、驚いているのか?

 

「どうするか、メイナ?」


 抱きしめてやりたい。そんな想いでメイナは膝をついて、腕を広げて待った。


「おいで」


 何度も、何度も、こちらへおいで、と。


 

 二人は待った。

 やがて、子供が立ち上がり、ゆっくりと歩いて来た。

 焦るな。

 マルコも動かず、メイナの後ろに控えていた。


「おいで」



 小さな身体が、ギュッとメイナにしがみついた。

 メイナはそっと、自分の腕を子供の背中と後頭部に回し、抱きしめた。


「よく頑張ったな、良い子だね」


 ギュウッと、子供が強く抱きついたので、頭を撫でた。言葉は、わかるのだろうか。


「痛いところはない?」


 マルコが、小さい声で子供に聞いてみた。


「お腹すいた」

「‥‥‥ああ、そうか、そうだね」

「兄さん‥‥‥兄さん」


 メイナもマルコも、自然と涙が出た。




「良い人たち、騎士様たちが迎えに来てくれるから、この道具を使うよ?煙は出るけど怖くないからね」

「はい」

「良い子だね」


 メイナは子供を抱き上げたが、足がガクガクとしてしまった。走り続けたのと、探索魔法(サーチ)の使い過ぎだった。


「俺はこの人のお兄さんなんだけど、代わりに抱っこしていいかな?」


 キョトンと露草色の瞳をマルコに向けた。可愛らしい顔だなと思った。微笑みかけると、少し頬を染めてコクンと頷いた。


「子供まで誑し込むな」


 メイナがボソッと呟いた。心外だと思ったが、子供をそっと抱き上げた。


 メイナが小型発煙筒を使った。今になって、風がないことに気がついた。控えめな煙が、ほぼ真っ直ぐに上がる。


「顔がコワイ人もいるけど、きっと優しい人だから、怖がらないであげてね」 

「はい」

「可愛いな」

「ああ、本当に」


 こんなに可愛らしい子供が、何故。



 馬で迎えに来たサイラスたちに、子供は怯えなかった。むしろキラキラした瞳で見ていた。サイラスが王子様にでも見えたのだろうか。


「トレス副団長、あの場所保存できませんか?気になるものが」

「‥‥‥なるほど、魔法が届くかわからないが、やってみましょう。先程の場所からこの近くに移動して、休憩場所と食事を用意しているところです。あなた方は先にそちらへ」

「助かります、トレス副団長」

「ありがとう」


 マルコとメイナがお礼を言うと、サイラスが微笑んだ。


「こちらこそ、ありがとうございます」




 休憩場所では火を焚いて、温かい飲み物とパンを浸したスープが用意されていた。


 メイナがフーフーして、子供に飲ませていた。マルコは、世話をするメイナを見て、意外と面倒見が良い妹に驚いていた。


 団長のジルニールが隣に座った。子供はビクッとしたが、その後じーっとジルニールを見つめた。


「悪いな、俺が怖いか?」

「顔がコワイけど優しい人?」

「ん?」


 先程のマルコが言ったことを覚えていたようだった。メイナが吹き出しそうになった。


「怖くないです」

「そうか!」


 グリグリ頭を撫でると、戻ってきたサイラスが「首、折らないでくださいよ」と恐ろしいことを言った。


 子供は、メイナにピッタリとくっついて離れない。


「マルコさん。現場保存の部分結界魔法をしてみましたが、たぶんあちら側には届きませんでした。確認もできないので、わかりません。こちら側の半分だけは残るでしょう」

「‥‥‥そうですか。ありがとうございます。一先ず、この子はうちのギルドに連れて行ってもいいですか?」

「ギルマスにも礼を言いたい。俺も行く。サイラス、指揮をとって第五に戻っていてくれ」

「はぁ、了解しました。着替えて行ったほうが良いですよ」


 確かに、団長はかなり目立つ。


「少年、名前はわかるか?」

「‥‥‥」

「家族は言えるか?少年」

「‥‥‥」


 ブンブンと首を横に振った。サイラスは考えるように子供の様子を見た。


「【記憶失くしの森】は、自分についての記憶だけ失くなり、言葉などは普通に理解できるようですね」 

「ロロって、名前なのかな」 


 マルコがあの場所に砂地に書かれていた文字が気になっていた。


「馬に乗せる前に、怪我がないか見せてもらっていい?」


 子供が、メイナにギュッとしがみついた。


「仕方ない。私が、見てもいいか?」


 メイナが困った顔で言うと、コクンと頷いた。

 まあ、五・六歳の子供なら、女性が見ても問題ないかと、マルコが頼み、メイナと子供をテントの中に入れてもらった。その間に団長と話をした。


「この子の家族は現れるでしょうか」

「騎士団のほうで、子供の行方不明や誘拐がないか、調べてみよう」

「うちのギルドでも、動いてみます」

「よろしく。頼もしいギルドだな」


 マルコは、第五騎士団はなかなか良い男たちが集まってるなと思った。

 メイナと子供がテントから出てきた。


「怪我はない。それと、女の子だったよ」

「「「‥‥‥え?」」」


 マルコは頭を抱えた。確かに可愛い顔だと思ったのに、なぜ疑問に思わなかったのか。さっき首を振ったのは、少年じゃないと言いたかったのだろうか?

 それより、危なく自分が服を脱がすところだった。

 マルコが、申し訳なさそうに「間違えてごめんね」と謝ると、団長や団員たちも次々に謝った。

 少年改め少女は、コクコクと頷いた。



 月明かりが頼りの暗い森の中、マルコ・メイナ・ジルニールの三人が馬に乗り、メイナが少女を前に乗せた。

 皆は心配したが、メイナは「問題ない」と、魔力回復薬を一気に飲んだ。その豪快さに、周囲が「おおっ!」と、どよめいた。

 最後には、なぜか団員たちに「姉さん」と呼ばれていて、マルコが腹を抱えて笑っていた。





「おかえり」


 カイに出迎えられて、メイナは面食らった。

 マルコがジルニールを案内し、ダイニングで話をすることにした。

 少女は手を繋いで、メイナの顔を見ている。


「‥‥‥ただいま」


 ボソッと答えた。

 カイはしゃがんで少女に挨拶をした。それから頭を撫でて、ニカッと笑った。


「こんばんは。冒険者ギルド【紅玉(ルビー)】にようこそ。俺は、ギルドマスターのカイ・ルビィだ。寒いし疲れたろ?温かいものを飲もう。おいで」


 カイが少女に手を差し出すと、少女はもう片方の手でカイと手を繋いだ。

 少女を挟んで、手を繋いでることに、メイナはなんだか恥ずかしくなった。

 貸し切りになっていたダイニングへ行くと、マルコとジルニールがすでに座っていた。手を繋いだ状態で現れたメイナたちを見て、マルコが目を丸くしている。


「まるで親子みたいだね」

「「‥‥‥は?」」


 カイとメイナの顔が、見る見る赤くなっていった。

読んでいただきありがとうございます。

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