45個目
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※幼いロロに出会う、カイ・マルコ・メイナたちの過去編です。
マルコ・プラム 十七歳、メイナ・プラム 十五歳。
冒険者ギルド【紅玉】のC級冒険者の兄妹だ。
「よう、マルコ!これからよろしくな!」
カイ・ルビィ 二十四歳、冒険者ギルド【紅玉】のS級冒険者だったが、亡くなった父親の跡を継ぎ、今日、若くしてギルドマスターとなった。
激しい深紅の瞳は、白い部分まで赤くなっていて、どれだけ隠れて泣いたのだろうと、痛々しく思った。
メイナは、カイが好きではなかった。
兄のマルコと一緒にいるのに、兄にしか声をかけないし、目を合わせない。まだ十五歳の少女だからと、冒険者として認められていない気がした。
「メイナはカイさんが苦手なの?」
「兄さん逆だ。カイさんが私のこと苦手なんだよ」
「尊敬してる父親が急死して、いろいろ辛いんだから、優しくしてあげてよ」
「‥‥‥」
この若さでS級になったのに、冒険者としても気の毒に思っていた。
カイは兄を気に入っていた。頭の回転が速い兄に、わからないことは恥じることなく頼っていた。そんなカイに、兄も「仕方ないなぁ」と言いながらも付き合っていた。
S級冒険者の実績と、ギルドマスターとしての資格も資質も十分だったカイは、ベテラン冒険者を職員にスカウトしたり、父親の代からのギルドの仲間も若いカイをギルマスとして何とか盛り上げ、しっかり運営していった。
マルコ 二十二歳、メイナ 二十歳。二人はB級冒険者になっていた。
二人は探索を得意として、レア素材や犯罪者・行方不明者を見つけるのに特化していた。
「メイナの探索魔法、マルコの予測分析と捕縛魔法、兄妹揃えば完璧だな」
「メイナは魔力が少ないから、広範囲の探索は出来ない。だが、一つのものを探すなら誰にも負けないね」
「‥‥‥」
ギルドの食堂でカイとプラム兄妹が食事をしていた。厨房のテン・ジン・ドットの三人の料理人は、元冒険者の先輩たちだ。
「このサンドイッチ美味いね」
「だろ?これがうちで食べられるんだ。スカウトして正解だった」
「だけど、人を呼ぶにはこの食堂は古いよね。メイナはどう思う?」
「‥‥‥カフェみたいに、オシャレにすれば」
「カフェか、いいな!」
カイが、ニヤッと笑った。最近は少しだけ目を見て話すようになってきた。
それからすぐに改装が始まり、カフェが出来上がった。元冒険者の家具職人に声をかけて、格安で頼み込んだようだ。
「メイナの提案、受け入れたね、カイさん」
「‥‥‥」
正直驚いた。本当に、素敵なカフェにしてしまった。ギルドの看板になる程の。
カイ 三十一歳、マルコ 二十四歳、メイナ 二十二歳。マルコはA級になって、年が明けた寒い季節だった。
騎士らしき人物たちが二人、早足で来たと思ったら、受付のレイラと二階の代表室に向かって行った。
「何かあったのか?」
「メイナ、王都の騎士のようだよ」
すぐにまた戻ってきた騎士たちの先頭にカイがいた。
「マルコ!メイナ!」
掲示板の前にいた兄妹に、カイが大声で呼んだ。すぐに向かうと、今度は小声で二人に告げた。
「二人に王都の第五騎士団から緊急要請だ」
「「は?」」
「【記憶失くしの森】で子供いるとの目撃情報が入ったそうだ。第五騎士団は別件で辺境伯領にいたが、探す時間が惜しいと協力を頼んできた。うちが一番近いギルドであることと、子供の持ち物と思われる物があるので探索魔法を頼みたいそうだ。行ってくれるか」
「了解。急ごう、メイナ」
「ああ」
「プラム兄妹ですね。お噂は聞いています。第五騎士団副団長のサイラス・トレスです」
「い、一番隊隊員のジョセフです!」
同世代くらいなのに副団長と聞いて驚いたが、落ち着いた人物のようだ。空色の髪と瞳の中性的な男性だ。長い髪を一つに纏めて結んでいる。ジョセフは栗色の髪と瞳の愛嬌がある十代の青年で、緊張しているようだった。
マルコとメイナは外套を着て、準備をした。
「私たちがご案内しますので、宜しくお願いします」
「こちらこそお願いします」
街道沿いに馬が準備されているので、そこまで走り、馬で一時間、辺境伯領に入り、枯れ木だらけの寂しい景色の先に、この寒さの中でも緑豊かな森が見えた。初めて見るが、地面が白い砂地のようだった。
サイラスが、マルコたちに説明した。
「白い地面には入らないでください。そこからが【記憶失くしの森】ですので」
「!」
「ここが‥‥‥」
本当に存在するのか信じられなかった。だがこの白い砂地を見れば、特別な場所のように思えた。
森に沿うように馬を走らせると、騎士団員たちの集団が見えた。馬を歩かせるようにして、ゆっくり近くに向かった。
「トレス副団長、どうしました?」
マルコがサイラスの様子がおかしいことに気がついた。
「いえ‥‥‥何かが‥‥‥」
「サイラス!」
大柄で銅色の髪の男性が副団長を呼んだ。マルコたちは馬から降りた。
「ここで、お待ち下さい」
サイラスがジョセフに馬を預け、銅色の男性の方へ行き、話をしていた。困惑しているようだった。サイラスと二人でこちらへ来るようだ。
「兄さん、何かあったのかも」
「そのようだね」
「申し訳ない。俺は、第五騎士団・団長のジルニール・ウォーカーだ」
隊服が張り裂けそうなほどの胸板で強面の大男だ。息を呑むほどの野性的な迫力がある。燃えるような雰囲気は、どこかカイに似ていると思った。
「【紅玉】の冒険者マルコ・プラムです」
「妹のメイナだ‥‥‥です」
「情報が混乱している状態で申し訳ない。今は、【記憶失くしの森】に子供がいるかもしれない、となった」
「確定ではないのですね?」
「子供の持ち物とは?」
「‥‥‥これだが、その子供の持ち物かも怪しくなった」
「構いません、見せてください」
マルコが手を出して受け取ると顔を顰めた。懐中時計だった。
「‥‥‥確かに、子供の物とは思えない。メイナ」
「こちらへ。‥‥‥探索魔法」
メイナの紺青の瞳が淡く光る。
「馬だと集中できないので、私たちは足で調べます」
「お待ち下さい、これを」
サイラスが筒状のものを渡してきた。
「小型発煙筒です。見つけて保護したらこれを使用してください。すぐに駆けつけます。ここから東はすでに肉眼で確認してますが、もう一度調べます。あなた方は西に向かってください。くれぐれも国境と森を、越えないように」
「二人とも、頼む」
「わかりました。行こうメイナ!」
「了解」
二人は全速で向かった。後方で驚愕の声が聞こえた気がした。
すでに一時間は走っていた。疲労が出始めたメイナは、もう誰もいないのではないかと思い始めた。
「兄さん、懐中時計の持ち主と同じ反応は、全くない」
「ハズレか。もうすぐ北西の国境に近くなるね。‥‥‥やはり持ち主は別の‥‥‥」
「っ兄さん!いた!‥‥‥子供だ!」
「!」
白い砂地の奥の森の中の木に、寄りかかる子供がいた。泣き疲れているのか、足を投げ出して座り、呆然としている。
癖のある短い髪の、小さな少年のようだった。
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『古書店の猫は本を読むらしい。』も、スローペースで連載中です。こちらもどうぞよろしくお願い致します。
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