その118 もっと強くなる必要
フーラが再びドアの向こうへと消えていく中、サニードがフードの人物へと疑問の声を掛ける。
「何故ダイニングに向かう! 話ならここで良いだろう!」
「そろそろ昼食時ですので、彼らには王宮の料理を堪能してもらいながら話をした方が良いかと思いまして。ソニア様もご一緒に」
「なるほど! それは名案だ! ソニアの機嫌も直って一石二鳥だな!」
言うが早いか、サニードは木剣を高らかに掲げながら扉へと向かっていく。まるで探険隊の隊長のような彼が通り過ぎようとする際に、フードの人物が彼に言う。
「サニード様、木剣をお預かり致します。後でソニア様にご返却しておきましょう」
「うむ! 頼んだぞ!」
サニードは今度は木剣ではなく右腕を高らかに掲げながら。
「行くぞ皆の者! ダイニングはこっちだ! ついてこい!」
そのフードの奴が案内するんじゃないのかよ。青年は内心でそう思いつつも、無駄にサニードの相手をするのが面倒だったので言わなかった。
代わりに、サニードの後をついていきながら、青年は同じようにサニードの少し後ろを歩くフードの人物へと聞く。
「確かドゥとか言ったよな、あんた。よくその木剣が王女様のもんだって分かったな」
まあこのハイテンション馬鹿王子はさっきまで持ってなかったから、話の流れで察しがついたんだろうが。
青年もそう予測はついていたのだが、黙ったままだとサニードに絡まれそうだったので敢えて聞いたのだった。
案の定、フードの人物はちらりとだけ振り返りながら答える。フードの中の目は油断や隙のなさそうな、それでいて自らの役目や仕事に忠実な眼差しをしていた。
「話の流れで、察しがつきました。ソニア様がいつも鍛練している木剣と同じでしたので。ソニア様がまた謁見の間で鍛練していたのだろうと」
「またって……」
青年は若干呆れた顔をする。少年もまた少し驚きながら、フードの人物へと尋ねた。
「いつもあそこで素振りしているんですか? もっと運動に向いた場所とかあると思いますけど……」
「ソニア様がサニード様のことを謁見の間で待っている話は、私も他の者から聞いていましたから。ソニア様はそのような待機時間や暇な時間が出来ると、少しでもお強くなる為に鍛練しているのですよ」
フードの人物は淡々と答える。心なしか、少年に対する眼差しや口調には細心の注意を払っているような気配があったが……当の少年自身や青年は気付いていない様子だった。
納得した声を少年はつぶやく。
「な、なるほど……努力家なんですね、ソナーさん、じゃなかったソニアさんは」
自分も見習わなくちゃな、と彼は思う。いまの自分はチート能力を無効化出来るだけで、それ以外は全く普通の一般人なのだから。
今後、黒髪の少女の呪いを解く為にも、彼女のことを守る為にも、いまよりもっと強くなる必要があるのだから。
「……ええ。ソニア様は純粋で真面目な方です。真面目にこの国や人々の未来の為に、いま自分が出来ることを精一杯しておられます」
油断や隙のない冷静な雰囲気を醸しながらも、そのことだけはフードの人物もまた真に認めて、尊敬して、忠義を誓っているようだった。
彼らがそんな話をしている間に、サニードがとある扉の前で立ち止まる。
「着いたぞ! ここが我が王宮のダイニングだ!」