その117 引きこもっちゃいました
「何が気持ち悪いものか! 我が最愛の妹が使っていたものだぞ! 大切に扱うのは当たり前じゃないか!」
「大切の意味が違えっ! つか何お前⁉ 最愛とか可愛いとか美しいとか、そっちの意味⁉ マジでやばくね⁉」
出会った時からやべえ奴だという認識ではあったが、それはあくまでテンションの高さとか暑苦しさとか、そういう人柄的な意味であった。
「何がやばいのだ! 可愛い妹を大切にする兄! 何もおかしくなどないはずだ!」
「助けてくれ少年! もう俺の手には負えねえ!」
助け船を求めて青年が少年へと振り返るが、少年は首をぶんぶんと横に振った。青年は黒髪の少女の方も見るが、やはり彼女もまたぶんぶんと首を横に振ってしまう。
二人ともこれ以上この話題に触れるのを避けたがっていた。青年も同じくその気持ちでいっぱいだったが、目の前には凛々しい顔で木剣を離そうとしないサニードがおり、他の話題に切り替えるタイミングを完全に逸してしまっていた。
誰でもいいから助けてくれ! 青年が内心でそう思った時、ソニアを追いかけていったフーラが、謁見の間の奥の部屋から再び姿を見せる。
「ソニア様、給仕室の中に引きこもっちゃいました……皆さんに軽装で素振りしているのを見られたのが本当に恥ずかしかったみたいです……」
いまの青年達にとっては、彼女は救世主のようにも思われた。慌てて青年が言う。
「そ、そりゃ大変だ! 何とかして王女様には機嫌を直してもらわねえと! な、少年⁉」
「は、はい、そうですね……っ」
同意を求められた少年が、今度は首を思いきりうなずかせる。黒髪の少女もまた同様にこくこくとうなずいていた。
と、そこで廊下とつながっている側の扉が開き、フードを目深に被った人物が姿を現す。ドゥと呼ばれていた人物だ。
「先程から騒がしいですね。何かあったのですか?」
どうやら馬車を馬車置き場に置いてから、ようやくいま追いついてきたらしい。いまの青年達にとっては、その人物もまた助け船の一つに思われた。
「馬車の世話、ご苦労、ドゥ! 実はいまソニアが奥の給仕室に籠ってしまってな! どうしようかと思っていたところなんだ!」
嘘つけ、木剣に頬擦りしてたじゃねーか! 青年は内心ツッコンだが、フーラとフードの人物がいる手前、声には出さなかった。
サニードの言葉を聞き、奥へと通じるドアにフーラがいるのを確認して、フードの人物は状況を察したらしい。フーラへと指示を飛ばした。
「フーラ、貴方はソニア様に給仕室から出るように説得してください。私はサニード様と彼らをダイニングへとご案内致しますので、ソニア様にもそちらへいらっしゃるようにと伝えてください」
「は、はい、了解しましたっ」