その115 謁見の間
サニードは再び青年と白髪の少女の方へと視線を戻す。そこにいるのは、もう怒り心頭ではない様子の二人。少年と黒髪の少女にとってはいつも通りの二人がそこにいた。
そんな青年と白髪の少女を見て……ふっ、とサニードもまたかすかな笑みをこぼす。少年の言葉に納得した笑み、あるいは安心にも似た笑みだった。
パンッ。だからなのか、サニードはそこで手を打ち鳴らし、声を上げて言う。
「うむ! 和解したのだな! 良かった良かった!」
サニードのその言葉と調子に、フーラも含めたその場の全員が呆気に取られた。ついさっきまでの厳粛とした、まさに王国の王子に相応しき雰囲気はどこへやら……少年達が最初に出会った時のハイテンションに戻ってしまっていたのだから。
「なんでそっちに戻んだよ。いまのあれは何だったんだよ」
だから青年が思わずそう愚痴をこぼしてしまったのも無理からぬことだろう。
サニードは拳を握った片手を上げながら、青年と白髪の少女の方へと歩き出していく。
「憂慮すべき事態は平和的に収束した! ならば本来の目的を果たそうではないか! いざ我が最カワの妹がいる場所へと向かおう! 最愛の妹が私を待っている!」
そして二人を再び追い越して、サニードは廊下の先へと進んでいく。ほとんど別の人格なのではないかと思えるほどの彼を、フーラを含む少年達は見つめて、それから互いに顔を見合わせる。
何だあれ? とでも言いたげに青年は肩をすくめてから。
「行くか」
「……そうですね」
青年の言葉に、少年が答えて、黒髪の少女もうなずく。フーラはというと口元に微笑みを浮かべていた。
サニードが彼らに振り返りながら大声で言う。
「何をしている皆の者! 私の可憐な妹が待ちわびているのだ、急ぐぞ!」
「うっせえ! いま行くから大声を出すな!」
さっきまでのように青年が文句を言い返しつつも、彼らはサニードの後を追って廊下を進んでいくのだった。
廊下は思っていた以上に長く、少年達が少しばかり疲労を覚え始めた頃、ようやくのことで視界の先に一つの大きな扉が見えてきた。
「皆の者、見ろ! あれが謁見の間、我が麗しの妹が座している特別な部屋だ!」
「分かったからデカイ声を出すな」
青年が文句を言う中、少年はその扉を見ながら、とりとめもないことを思っていた。……謁見の間……ファンタジーのゲームやアニメとかでは見たことあるけど、実際に見るのは初めてだな……。
心なし、少年は緊張してしまう。王宮の謁見の間に自分が足を踏み入れることもだが、この先にあの仮面の剣士のソナーが……本当の姿はソニアという王女がいるのだ。
これまでに二度、危ない時に助けてくれた女性。強く、優しく、理知的な女性。またいずれどこかで会えるだろうとは思ってはいたものの、まさかこのような再会とは……。
緊張しても仕方のないことだった。