その112 他にもいた
青年の言葉に、フーラは心持ち元気をなくしたようだった。他の皆が気付いていながら、自分だけは直前まで気付いていなかったのだから、気落ちしているのだ。
そんな彼女を見て、不意に青年はフーラの手を取った。さっきまでの軟派な調子ではなく、真面目な顔つきである。
「フーラさん」
「は、はい?」
いきなりのことに彼女はびっくりした様子だったが、それには構わず青年は至って真面目な顔で言った。
「恋人はいるんですか?」
「…………はい?」
フーラの頭には完全に疑問符が浮かんでいた。構わず青年は続ける。
「恋人です。もしくは好きな人はいらっしゃるんですか?」
「あ、あの、なんでそんなことを?」
「そりゃあ、もしいないのならお……」
その時、青年の頭にどこかから飛んできた小石がぶつかっていく。小石自体は直径数ミリほどの極めて小さいサイズだったのだが、そのスピードがあまりにも速かった為。
「あいたっ⁉」
青年は痛がる声を出して、頭に手を当てながら周囲を見回す。まるで針で刺されたような鋭い痛みだった。
「だ、誰だっ⁉ いま何か投げてきやがったのは⁉ おい少年、黒髪ちゃん、アス、見たか⁉」
「い、いえ……っ⁉ いま何か当たったんですか……⁉」
少年がびっくりしたように答えて、黒髪の少女も首を慌てて横に振る。
「アスは⁉ 見たか⁉」
青年が白髪の少女に再度聞いた時、しかし彼女は返事の代わりに彼の足を思いきり蹴りつけた。
「痛ってー⁉ 何すんだよ⁉」
「……チャラくて強引な野郎に鉄槌を……」
「てめえ……もしかしていま投げつけてきたのもお前か⁉」
「……ハオにムカついた人が他にもいた……それだけの話……」
「ぐぬぬ……てめえ……」
喧嘩腰になる青年だが、白髪の少女はつんと前を向くだけである。青年は拳をわなわなと震わせていて、いまにも彼女に拳骨を振り下ろしそうな雰囲気だった。
剣呑なその空気に少年と黒髪の少女、及びフーラがおろおろと慌てた様子で同時に口を開く。
「「「あの、喧嘩は駄目で……」」」
彼らが制止の言葉を言い終わる前に、先を歩いていたサニードが五人へと振り返って思い出したように聞いてきた。
「そうだ! いま思い出したが、いまだに少女二人の名を聞いていなかったな! ケイどのと心の友の名は聞いていたのだが!」
青年を始めとしてその場の全員がサニードに顔を向ける。彼の言葉に、しかし頭に血が上っている青年は怒鳴るように返した。
「後にしろ! いまはこの暴力女にきっちりと説教しねえといけねーんだからよ!」
「む! 何かあったのか!」
「何かもなにも、このクソガキ俺の足を蹴りやがったんだよ!」
「何だ! それならさっきもだったじゃないか! いまさら気にするな!」
「さっきはさっき、いまはいまだ! さっきは我慢してやったが、こう何度もやられたら黙ってらんねえ! 男が廃るってもんだ!」