その111 はっきりと知っているのは
フーラの紹介も済んで、改めてサニードが廊下の先を向きながら言う。
「では行くぞ、我が最かわの妹の元へ! ソニアも私の帰還を心より待ち望んでいるのだからな! わっはっはっ!」
先導して歩き出すサニードの後ろで、フーラが少年達にひそひそ声で話す。口元に片手を添えながらの言としては。
「……実はソニア様がサニード様を待っている理由は、ソニア様が楽しみにしておられたプリンを勝手に食べてしまったことを問い詰める為なんです。サニード様に逃げられないように、絶対に喋るなと口止めされていますけど……」
「「ははは……」」
少年と黒髪の少女がどう反応したら良いのか分からない顔で、とりあえず愛想笑いを返す。アスは相変わらず興味のない無表情だったが、ハオはニヤニヤと顎に手を当てながら笑みを浮かべていた。
「へっ、こってり王女様に怒られろってんだ」
廊下を進みながら、ハオがそうつぶやく中、少年がフーラに尋ねる。
「あれ……? ってことはソナーさん、じゃなかったソニアさんは俺達が来ることを知らないんですか?」
「ええ、サニード様が秘密にしろと。ソニア様を驚かせたいみたいです」
「もしかして、ソニアさんがソナーさんだと名乗ってたことって、王宮の皆さんは知っているんですか?」
「はっきりと知っているのは王様やサニード様、側近のドゥさんくらいですね。かくいう私は今朝方教えられたばかりでして」
二人の会話に横合いから青年が口を挟む。
「へえ、ってことはフーラさんは信用されてるんですねー。そんな大事なことを教えてもらえるんですから」
青年の声はいつもより一オクターブほど高い。相手が若く可愛らしいフーラだからそんな軟派な調子にしているらしく、白髪の少女は冷ややかな目で彼を見ていた。
青年の言葉に、フーラは慌てたように両手を振る。
「いえいえ私が教えてもらったのは、その時偶然サニード様の近くにいたからでして……ちょうどいいから皆様のお世話係をするように言われただけでして……っ」
フーラは先導するサニードや、彼に頭を下げて挨拶する他のメイドや執事達を見ながら。
「実ははっきりと言われていないだけで、王宮の皆さんは大方ソニア様が王宮を抜け出していたことは察していたみたいです。私だけは今朝言われるまで気付いてなくて、だから私が教えてもらったのは、そういう理由もあるのだと思います」
「……なるほど。気付いていないフーラさんも知っといた方がいいと」
「……はい」