その110 ドジっ娘
気を取り直して笑い声を上げるサニードに、ハオはやれやれと疲れたように肩をすくめる。続けてハオはサニードに言った。
「それと、この可愛い子ちゃんの紹介もしてねえしな」
「おお、そうだな! 彼女もまた我が王宮にとってなくてはならない存在なのだから!」
水を向けられて、メイド服の女性が少し照れたようにもじもじとする。ハオとサニードの会話を聞いていた白髪の少女が、ハオの向こうずねを蹴りつけた。
「痛った⁉ 何すんだよ⁉」
「…………」
しかしアスは依然無表情のままであり、そんな彼女をハオは文句を言いたそうに見る。二人のやり取りに気付いているのかいないのか、サニードはマイペースにメイド服の女性を四人に紹介した。
「紹介しよう! 彼女の名はフーラ! 普段はこの王宮の魔導士として尽力している! しかしいまは君達四人の世話係として、こうして臨時メイドとして馳せ参じているわけだ!」
「さ、サニード様、そんな大声で言われると恥ずかしいです……っ」
サニードは王宮でもいつもこの調子なのだろう、廊下の奥にいた別のメイドや執事達が、彼の声を聞いて微笑みを浮かべていた。
こほん……っ、フーラは気を取り直すように小さな咳をすると、スカートの端を少し上げた挨拶……いわゆるカーテシーをしながら改めて自己紹介をする。
「ご紹介にお預かり致しました、王宮魔導士のフーラでございます。魔導士になる前はメイドとして務めていましたので、ご心配なさらなくとも大丈夫でございます」
いったい何の心配なのだろうか……少年達は一瞬疑問符を浮かべてしまうが、その解答をサニードが爛漫と答えた。
「フーラはドジっ娘だからな! 他の者から聞いたが、昨夜もしなくてもいいことをやってしまって、そのせいでお使いが遅れてしまったそうだ! わっはっはっ!」
「さ、サニード様……っ」
「だがそのおかげで助けられた人物もいるらしい! はてさて、人生とは何が起こるか分からぬものだ!」
鷹揚に笑うサニードと、恥ずかしそうにするフーラ。サニードの言葉を聞いて、ハオがフーラに言った。
「ほうほう、ドジっ娘属性ですか、これはこれは……」
ジロリと睨む白髪の少女を無視するように、今度はひょうひょうとしながら。
「でも、ま、それで誰かを助けられたんなら良かったじゃねーか。結果おーらいってやつだ」
「あ、ありがとうございますっ、そう言っていただけて……っ」
「いやいや、どーいたしましてー、なははー……痛ってーっ⁉」
鼻を伸ばして笑うハオの向こうずねを、再びアスが蹴りつけた。