その108 王道と覇道
青年はサニードへと視線を戻して、低くした声で答える。
「……そんなに気になんなら教えてやるよ。実は俺は、チート能力者なんだ」
「何っ?」
「その名も『チートギャザラー』。俺はこの手で触れたチート能力者のチート能力をコピーして、自分のものとして使うことが出来る」
「……っ!」
目を開いて驚愕するサニードを見て、青年はニヤリと悪役染みた笑みを浮かべる。
「いま使えるチート能力は、チートギャザラーを除いて四つ。しかしいずれはもっと多くのチート能力をコピーしまくって、最強になる。そして俺はこの世界の覇王へと至ってやるのさ」
「……っ!」
絶句するサニードに、青年は満足した顔になる。ようやくこのふざけた王子に一泡吹かせてやったのだと。……そう思っていたら。
「やはりお前は俺の心の友だ!」
「……は?」
何故だがサニードはさっきよりも一層テンションを上げていた。握った拳を身体の前に上げながら力強く言い放つ。
「私は国王、心の友は覇王、二人の王が揃えば怖いものはない! たとえどんな強大な困難が立ち塞がろうとも、絶対に乗り越えられる! そう思わないか!」
「…………」
青年は自身の野望を口にしたことを後悔した。駄目だこいつ、俺には手に負えねえ。関わらないのが吉だ。
「……少年、こいつの相手は任せた。俺は寝る」
「ええっ⁉」
困惑する少年をよそに、青年は腕を組みながら背もたれに身を預けて目を閉じてしまう。
「えっ、ちょっ、マジで寝ないでください!」
「そうだぞ心の友よ! いまから二人の王道と覇道について語り合おうではないか!」
騒ぐ二人に、
「うっせえ! こんな滅茶苦茶な奴に付き合ってられっか! 俺は寝るんだ!」
青年は何が何でも関わりたくない意志を貫こうとした。
そんな彼らの騒ぎを横目で白髪の少女と黒髪の少女は見て、
「「…………」」
白髪の少女はアホらしといった雰囲気を、黒髪の少女は呆気に取られた顔つきをしていた。
車内がそんな喧騒に包まれていた時、馬車の進みが停まり、ややあって客室のドアが開かれる。四角く切り取られた空間に、先ほどのフードの人物がいた。
「サニード様、客人の皆様、王宮へと到着致しました」
「おお、着いたか!」
窓の外はいつの間にか豪華で立派な建物に囲まれていた。こここそがサニードとソニアが暮らす王宮に違いなかった。
「では行くぞ! ケイどの、心の友よ、そして麗しき女性達よ、私についてこい!」
立ち上がったサニードは少年達の応答も待たずにさっさと馬車から降りていってしまう。少年と青年は疲労したような溜め息をつき、黒髪の少女と白髪の少女は王宮の玄関へと向かっていくサニードを見つめるばかり。