その107 退屈しのぎの話
「心の友よ! 何故隣に座らぬ⁉ 王宮までの道中、肩を並べて色々と語り合いたいと思っていたのに!」
「うっせえ! その呼び方やめろ! 少年が代わりに隣に座ってっからいいだろ!」
客室の座り順としては、サニードと少年、黒髪の少女が順に並んで座り、その向かい側に青年と白髪の少女が座っている。少年がサニードの隣に座ったのは青年にそう言われたからだが、黒髪の少女はサニードに顔を確認されないように真向かいに座ることを避けたのだった。
「なるほど! それもそうだな! 今日はケイどのを迎えに来たのだ! ならばケイどのと語らおうではないか!」
「は、はあ……」
肩をバシバシと叩くように触れてくるサニードに、少年は困惑の表情を浮かべるしかない。こういうノリは苦手だ……そう思いながら助け船を求めるように少年は青年へと顔を向けるが、青年は慌てて顔を背けてしまった。
青年は目だけをチラリと向けて、
『すまん、俺もそういう奴は苦手なんだ。諦めてくれ』
『そんな……』
目顔でそんな会話をする。そんな無言のやり取りやがっくりとする少年には気付かない様子で、サニードは口を開いた。
「この馬車は速く、ドゥの運転も一流だが、それでも王宮まではしばしの時間が掛かる! それまで退屈しのぎの話でもしようではないか! して心の友よ!」
何故かサニードが水を向けたのは青年だった。
「ソニアから聞いたぞ! 昨晩の通り魔の襲撃において、心の友はかの者といくらかの剣戟を繰り広げたようだな⁉」
「おい、少年と語らうんじゃないのかよ。あとその呼び方やめろって何回言えば……」
「心の友の活躍によって、昨晩の襲撃による被害は最小限に抑えられたし、我が最愛の妹が通り魔を撃退することが出来た! して心の友はどこでその実力を身に付けたのだ⁉」
「人の話を聞けって! だいたいそのテンションも高すぎる、暑苦しいっての」
「そうか⁉ 我が最高に可愛い妹はいつも笑顔を返してくれるし、メイドや執事や兵達からの評判も上々だぞ!」
「そりゃおめーは王子だからな! 誰も文句なんて言えねーんだよ!」
「ふむ! なるほど! ならばいまは心の友の機嫌を直してもらう為に、少しばかりテンションを下げて話すとしよう!」
……本当に大丈夫か? 青年がそう思う中、サニードは続けて、
「それで心の友よっ、どこでその強さを身に付けたのだっ?」
「あんまり変わってねーじゃねーか!」
「そんなことはないぞっ、イメージ的に語尾にびっくりマークを付けるのをやめたっ」
「分かるかそんなん!」
「私のことなど気にするなっ、そんなことよりっ、私は心の友の強さを知りたいのだっ」
「……ちっ」
全くブレようとしないサニードを見て、青年にちょっとした悪戯心が芽生えた。チラリと少年や黒髪の少女の方を見やる。青年の顔には、いま目の前にいる王子様をビビらせてやろうという思惑が浮かんでいた。