その106 王宮へ
相手のペースに乗せられていることに気付いて、青年は後頭部に手を当てながら左右に軽く振る。こいつの相手すんの疲れるんだが……そんなふうにも思いながら。
そんな彼らに、いまだ背後の玄関にいた老人が声を掛ける。老人はいまようやく驚きから我に返ったようだった。
「皆さん、人海戦術と仰っていましたし、おそらくここに来るまでの道ですれ違った誰かが伝えたのでしょう。王宮からの正式な使いですし」
「……なるほどな……」
納得したように青年はうなずく。王宮の正式な調査となれば、嘘を言うわけにもいかないだろうし、ここに来るまでで多くの者が彼らを目撃していた。
「……にしても、よくこんな似ても似つかねえ似顔絵で探し出せたもんだ……」
まじまじと、青年は顎をさすりながらサニードの手にある似顔絵を見つめる。本当に似ていない。
「うむ、俺も十枚ほど描いて手が疲れたから、残りは王宮画家に任せて一足先に馬車を走らせて聞き込みをしていたのだがな!」
なるほど……サニード以外の全員が納得した。王宮画家のおかげか。
「とにもかくにも見つかって良かったわけだ! 心の友よ! さらなる質問があれば答えるぞ!」
「……いや、ねえな。強いて言えば、その呼び方を……」
「うむ! 他の者達はどうだ! あるか⁉」
「聞けよ俺の話!」
青年が大声で言う中、ケイとサキは顔を見合わせる。目顔での会話。
『サキさんは聞いておきたいことある?』
『……いいえ、特には……ケイさんは……?』
『俺も特には……』
二人はアスの方を見やる。彼女は依然無表情のままで、だからこそ特に質問もないことが分かった。
一応年の為に老人の方にも顔を向けるが、老人はうなずきを返してくるだけだった。二人は再びサニードへと顔を向けて、少年が彼に答える。
「いえ、ありません」
その返事を聞いて、パンッとサニードは手を打ち鳴らした。
「ならば行こう! いざ我らの聖地へ!」
「王宮だろ」
青年が言うがサニードは聞かず、マイペースに背を向けて馬車へと入っていく。
青年は肩をすくめると、一度老人へと振り返って手を上げながら。
「んじゃな、じいさん」
改めて別れを告げて馬車へと乗り込んだ。老人が柔和な顔で手を振り返す中、少年と黒髪の少女が老人に頭を下げて馬車へと続けて入る。最後に白髪の少女が乗り込んで、馬車のドアは閉まり、王宮へと走り始めていった。
王族が乗る馬車だからだろう、市井の馬車よりも客室内は広く、五人が乗ってもまだスペースに余裕があった。