その105 会心の似顔絵
もし王宮の情報網が使えるようになれば、自分達が足で探すよりもはるかに素早く、多量の情報や手掛かりが手に入るかもしれない。
「ま、協力してくれればの話ではあるがな。出来ることはなるべくやっといた方がいいだろ」
「「…………」」
青年の言葉に、少年と黒髪の少女は顔を見交わす。ソナー……ソニアであれば、確かに協力してくれる可能性は高いかもしれないだろう。
二人が何も言ってこないのを了承と受け取って、青年はサニードへと改めて向いた。
「サニードっつったか、あんたの申し入れ、喜んで受けてやるぜ」
「わっはっはっ! 仮にも王子である俺にそんな不遜な態度とは、面白い奴だな! 名は何と言う⁉」
「ハオだ」
「ハオだな! 何やらお前とは心の友になれそうな予感がするぞ! よろしくな!」
……うへえ……、ハオは心中で胸焼けに似た気持ちになった。こんな勢いとテンションが高い奴と親友とか……そんなふうにも思ってしまう。
「よし! では我が豪華な王宮へと向かおうぞ! 皆の者、この王宮直属の馬車に乗れ!」
背を向けて一早く馬車に乗り込もうとするサニードに、青年は疑問の声を投げた。
「ちょっと待った。その前に一ついいか?」
「なんだ心の友よ⁉」
その呼び方やめろよ、と思いつつ青年はサニードへと問いかける。
「どうして俺達の場所が分かったんだ? 昨日の剣士には俺達がいる場所は伝えていないし、そもそも俺達がここに来たのだってついさっき決まったことだぜ」
なのに何故分かったのか? その声音に怪しむ心中をにじませて、何が起きても即座に反応出来るように青年は身構えている。
その彼を瞬間見つめた後、サニードは鷹揚な笑い声を上げた。
「わっはっはっ! 何だそんなことか! そんなの簡単だ! 私は数多の兵士や召し使いを擁する王国の王子だぞ! つまり人海戦術、数にものを言わせてしらみ潰しに調べさせたのだ!」
「…………」
「ケイどのの容貌については聞いていたからな! 似顔絵を作ってとにかくあちこち聞いて回ったのだよ! ほら似ているだろう!」
サニードは懐から丸めた紙を取り出すと、バッという擬音が聞こえてきそうな勢いでそれを彼らの前に広げる。そこには確かに似顔絵が描かれていたが……。
「「「…………」」」
ケイとサキとハオは無言になってしまう。思わずサキはケイとその似顔絵を見比べてしまうが……本物とは全くといっていいほど似ていなかった。
というよりも、その似顔絵は本当に似顔絵なのかと疑ってしまうほど、まるで落書きのような描き方がされていた。
「……全然似てねえぞ」
「何⁉」
青年の指摘に、サニードは心底驚いた声を出した。
「そんな馬鹿な⁉ みんな似ていると言ってくれたぞ⁉ 俺が描いた会心の似顔絵なのに!」
「お前が描いたのかよ⁉」
サニードのペースにつられたせいか、危うくズッコケそうな勢いで青年はツッコミを入れた。