その103 ソナーとソニア
その自称王子のサニードに、少年が恐る恐るといった様子で尋ねる。もし本当に王族だったらと緊張しているのだ。
「あ、あの、サニードさん……? 礼って言ってましたけど、何のこと……」
「おお⁉ もしかして君がかの困難な不殺の意志を貫こうとしているケイどのか⁉」
「は、え、何で俺の名前を……?」
「妹から聞いたのさ! 何を隠そう私の妹はこの国の王女でね! 名をソニアという!」
「えっと、あの……?」
王子の妹ならば王女なのは半ば当たり前ではあるが……言わなくても分かりそうなことを、自称王子は高らかに言うのだ。なのにその発言には嫌味や自慢のような感じはなく、むしろ清々しさがあるほどだった。
それはおそらく、彼の裏表のないような態度がそう感じさせるのかもしれない。
「ソニアさん……?」
少年はつぶやくように疑問を漏らす。彼がこの世界に来てからいままでに、そのような名前は見たことも聞いたこともなかったからだ。無論、助けた自覚もない。
その少年に、隣にいるフードを被った黒髪の少女が教える。彼女もまたいきなりの出来事に驚きつつも。
「ケイさん、ソニアさんというのは、確かにこの王国の王女です。そして……サニードさんの言っていることはまさにその通りです。彼はこの国の王子、次期国王の第一候補者です」
「……本当に王子様……?」
黒髪の少女の説明に、サニードは大きくうなずいた。
「うむ! 顔はドゥと同じくフードに隠れてよく分からんが、声からして彼女の言う通りだ! 私の身分証明、誠に感謝する!」
「い、いえ……こちらこそ恐縮です……」
黒髪の少女はフードに手を掛けて被り度合いを深くしながら応じる。相手が一国の王子であり、サトリという自分の立場を考えれば仕方のない反応だろう。
彼女から説明を受けた少年だが、それでもいまだに疑問は残ったままだった。彼はサニードへと言う。
「あ、あの、もしかして他の誰かと間違えていませんか。俺はソニアさんという人には心当たりが……」
「わっはっはっ、だろうな! 我が可愛い妹は偽名を名乗っていた時に出会ったらしいからな!」
「偽名……?」
「うむ! その名もソナー! 安直な名付けだが、センスは良いな!」
親馬鹿ならぬ兄馬鹿ともいえる言葉だろう。しかし少年はそう思うよりも、もたらされた事実に驚いていた。
「ソナーさん……⁉ え、ソナーさんが実はソニアさんで、この国の王女様……⁉」
ソナーとソニア……言われてみれば確かに似ている名前ではある。あるいは元の名前を少し変えただけだとも思える名前だった。