その102 サニード
「……お力になれず、本当に申し訳ありません……」
「もういいって、じいさん。謝ってばっかだとウザがられるぜ」
「ウザがられ……?」
老人は青年の言葉の意味がよく分からないようだ。
「邪険にされるってことだ。まあ覚えときなって」
「……肝に銘じておきます……」
老人は反省するように神妙に答える。その老人に背を向けながら、青年は片手を軽く上げる。
「じゃあな。縁があればまた会おうぜ。あんたが何かしら思い出した時とかな」
「ええ。私自身も私に出来る範囲で探しておきましょう。貴方達の助けになれるように」
「おう、サンキューな。よし、行くぞ野郎ども」
青年が掛け声を発して道を歩いていこうとした、その時。不意に道路の向こう、街の人々が歩いている間を駆け抜けて、一台の馬車が猛スピードで彼らの方へとやってきた。
その馬車は危うくぶつかりそうな勢いで青年達の前に停止する。いきなりのことに彼らはびっくりし、青年に至っては跳びすさらんばかりに驚きの声を上げた。
「うおっとお⁉ おいおい気を付けろよ! って、何で俺達の前で止まるんだ?」
彼が疑問の声を出すと同時に、馬車のドアがバタンッと音を立てて開く。客室から姿を見せたのは銀髪で身なりの良い、顔立ちの整った若い男だった。
「グッモーニン、旅人の皆さん! 私はサニード、この国の王子をしている者だ! わっはっはっ!」
「……は?」「「……え?」」
唐突な自己紹介、それもこの国の王子を自称する者の登場に青年と少年と黒髪の少女は呆気に取られてしまう。彼らの背後にいた老人もまた、突然の来訪者に目を丸くしていた。
彼らの反応などは全く意に介していないように、自称王子のサニードは御者台にいるフードを被った人物に言う。文句をつける口調で。
「気を付けろドゥ、危うく彼らにぶつかりそうではなかったか! 彼らを傷付けたらいったい誰に礼をすればよいのだ!」
「…………」
フードの人物は答えず、代わりに詫びのつもりか頭を下げる。その顔はフードに隠れてよく分からないが、顔に縫ったような傷跡があるように垣間見えた。
フードの人物の反応を尻目に、サニードは再び青年達に向くとテンション高めの明るい声で言う。
「すまないな、こいつは人見知りでね、口数が少ないんだ。悪い奴ではないから許してやってくれ!」
「お、おう……?」
青年が応答する。青年自身も周囲を引っ張り回すような性格や振る舞いだが、そんな彼ですら気後れするほどに自称王子は勢いがあった。